命を結んだ契り
蓮は口を開いたが、何も言えなかった。
すべて自分のせいだ。もし早く清司を許していたら。もしずっと彼を押しのけていなかったら、こんなことにはならなかった。
けれど朔はもう蓮を見たくもなかった。
「お前は、清司がお前と結んだ契約が何か知っているのか」
蓮は茫然と顔を上げた。
契約。
人間が死んだあと、妖が契約主に返るあの契約ではないのか。
蓮の顔を見ただけで、朔は清司が本当の代価を何も話していなかったことを悟った。清司はこの人間を愛しすぎた。自分の命を差し出すほどに。
「共生契約だ」
朔は一字ずつ噛みしめるように言った。
「お前が死ねば、清司も一緒に死ぬ」
「清司が死んだ時だけ、契約は自動的に解ける」
「これで満足か」
蓮の心臓が強く震えた。
あの臭い狐は、初めから自分の命を蓮に預けていたのだ。
「今から清司を連れ戻す方法はありませんか」
蓮は虚ろな目で聞いた。
朔は軽蔑の目で彼を見た。こんなに自滅的な人間を見たことがない。そこにいる時は嫌がり、突き放し、拒む。いなくなった途端、ここで哀れな顔をして泣く。
「佐伯蓮」
朔の声は氷のようだった。
「妖の修行は本来、苦しいものだ」
「清司は本来、ほとんど永遠とも言える命を持っていた」
「だが自ら魂核を砕いた」
「そうなれば、もうどうにもならない」
「勝手にしろ」
蓮はその場に跪いた。震える声で、朔を見上げる。
「お願いします」
「清司を助けてください」
「どんな苦しみでも、僕が受けます」
朔は背を向けた。彼の目も赤かった。隠り世で清司と過ごした長い年月が、次々と脳裏をよぎる。
「佐伯蓮」
「その涙をしまえ」
「お前に清司のために泣く資格はない」
「清司も、お前には会いたくないはずだ」
蓮は力を失い、その場に座り込んだ。律はそんな蓮を見て、胸が痛まないわけではなかった。もし自分が朔を失ったら、きっと同じようになる。
彼はそっと蓮の肩を叩いた。
「まずは帰れ」
蓮は清司の衣服を抱きしめ、一人で夜の街を歩いた。夜は深く、人の声も車の音も遠ざかっていく。彼は行き先を失った魂のようだった。
清司に会いたい。
あの妖狐はいつも彼をからかい、怒らせ、勝手に近づき、勝手に去った。けれど蓮は、本当に清司に死んでほしいと思ったことなど一度もなかった。
自分はただ、何を望んでいたのだろう。
もしかすると人は、完全に失ってから初めて、自分がどれほど大切にしていたかを知るのかもしれない。
家に戻ると、圧迫感はいっそう重くなった。どの場所にも清司の気配がある。ソファには、清司がだるそうにもたれていた。台所には、彼が残した匂いがあった。テーブルの上には、清司が用意した食べ物が置かれていた。
蓮は一つをつまみ、口に入れた。
同じ味だった。
けれど、作った人はもういない。
蓮はしゃがみ込み、腕を抱いて、声を殺して泣いた。
「清司……」
「戻ってきて……」
「蓮」
低い声が突然聞こえた。蓮は全身を強張らせた。一瞬、清司の声を聞いたのだと思った。やっぱりあの狐は本当に離れたりしないのだと思った。
涙を拭い、よろめきながら台所を出る。
だが玄関に立っていたのは清司ではなかった。
鷹宮飛鳥だった。
彼はたくさんの食べ物を提げ、戸惑った表情で蓮を見ていた。
「どうしたの」
「さっきから呼んでいたけど、返事がなかったから勝手に入った」
蓮の目の光が少しずつ消えていった。
違った。
清司はもう戻らない。
飛鳥は蓮の表情を見て、心が沈んだ。
「狐は?」
「一緒に出ていくのを見たけど、彼は君といないのか」
蓮は目元を覆った。清司を思うだけで、身体が裂けるほど痛い。
「死にました」
小さく言った。
「彼は死にました……」
飛鳥は息を止めた。
「死んだ?」
白銀清司ほど強い妖が、簡単に死ぬはずがない。
「何があったのか、教えてくれる?」
飛鳥は声を極力やわらげた。蓮を刺激したくなかった。けれど事情を知らなければ、対処のしようがない。
「清司は、僕が本当にもう彼に会いたくないと思ったんです」
蓮は自分の腕を抱きしめ、声を低くした。
「だから、自分で魂核を砕きました」
自ら魂核を砕いた。
飛鳥の顔色が変わった。自分は清司にとって蓮がどれほど重い存在なのか、本当に見誤っていたらしい。
今回は、自分は本当に負けた。
それでも、あの狐を少し尊敬もした。
昔も、今も。
「一つだけ方法がある」
飛鳥は長い沈黙のあと、ゆっくり口を開いた。
「彼を取り戻せるかもしれない」
蓮ははっと顔を上げた。
「本当ですか」
清司を戻せるなら、何でもする。どんな痛みでも受ける。
「古い秘術がある」
飛鳥は蓮を見た。
「冥府へ行って還魂丹を求め、肉霊芝で妖身を作り直す」
「そうすれば、彼は戻れるかもしれない」
蓮の目に光が戻った。けれど飛鳥はすぐに続けなかった。
「ただし……」
「ただし?」
「君の魂を使う」
飛鳥は低く言った。
「君の生魂を抜き出して、黄泉と冥府へ連れていく必要がある」
「そこで君が迷うのが怖い」
「迷えば彼を救えないだけじゃなく、君自身も戻れなくなる」
蓮は迷わなかった。
「構いません」
「清司が戻れるなら、死んでも怖くありません」
清司は彼のせいで魂核を砕いた。蓮は清司なしでは生きていけなかった。清司がこの世界にいないのなら、自分が生きている意味もない。
飛鳥は蓮を見た。胸が痛く、苦かった。
自分にはもう、何の機会も残されていないのだ。




