投資家・白銀清司
広い控室には、三人だけが残った。
蓮はソファに座り、遠くを見るような顔で黙っている。明らかに怒っていた。伊織はその後ろに立ち、清司を警戒するように見ている。清司が少しでも妙なことをすれば、飛びかかりそうな勢いだった。
清司は不機嫌だった。
自分はただ、蓮が楽になるようにしたつもりだった。なのに、どうしてここまで怒られるのか。
「蓮」
「今は話したくない」
蓮は即答した。
清司は眉をひそめる。
「俺は助けた」
「僕の仕事の場で、勝手に出てきて、勝手に金を出して、勝手に口を出した」
蓮は静かに言った。
「それは助けたんじゃない。僕の立場をさらに悪くしただけだ」
清司は黙った。
彼には人間社会の細かな理屈がまだわからない。金と力で解決できるものなら、それでいいと思っていた。けれど蓮は、そうやって守られることを望んでいない。
「白銀さん」
伊織が口を開く。
「あなたが蓮さんを大切にしているのはわかりました。けれど、芸能界では力で押し切るほど、本人に傷がつくこともあります」
清司は伊織を見た。
「お前に言われる筋合いはない」
「あります」
伊織は怯まなかった。
「僕は彼のマネージャーです」
蓮は頭を抱えたくなった。
まさか伊織と清司が、こんな形で正面からぶつかる日が来るとは思っていなかった。
結局、蓮は現場へ自分で謝りに行き、スケジュールの修正を受け入れた。清司はしぶしぶ引いたが、納得した顔ではない。
その日の夜、蓮は伊織を連れて食事へ向かった。清司も当然のようについてくる。
「なんで君まで来るの」
「俺の伴侶が飯を食うんだ。俺がそばにいて何が悪い」
蓮は額を押さえた。
伴侶という言葉を、こんなに堂々と外で使わないでほしい。
伊織はその会話を聞いて、表情をさらに複雑にした。彼はまだ、蓮と清司の関係を完全には理解していない。恋人なのか、契約なのか、危険な男なのか。すべてが混ざって見えていた。
店に着くと、三人は個室へ通された。注文を終えるまで、空気はずっとぎこちない。
蓮はふと伊織の様子がおかしいことに気づいた。いつもの伊織なら、仕事の話をしたり、さりげなく場を回したりする。けれど今日の彼は妙に静かだった。
「伊織?」
「はい」
「大丈夫?」
「大丈夫です」
返事はあまりにも早い。
清司がじっと伊織を見た。
「蓮、離れろ」
「え?」
その瞬間、伊織がゆっくり顔を上げた。
彼の目は赤く染まっていた。




