思いがけないインタビュー
蓮はニュースを最後まで見終え、複雑な表情になった。
旭の顔の包帯はぼかされていたが、それでも軽くない怪我だとわかる。
「清司のやつ……」
蓮はリモコンを押し、ニュースを巻き戻した。
「本当に、手加減が荒い」
「戻ってきた途端、俺の悪口か」
低い男の声が、心の奥に響いた。
蓮は顔を上げる。
清司の姿が宙に現れていた。腕を組み、上から蓮を見下ろしている。目線は相変わらず高慢だった。
蓮は冷たく鼻を鳴らした。
テレビの画面をもう一度再生して、清司に見せる。
清司は横で旭の暗い顔を見ても、ただ冷笑しただけだった。
蓮はその様子に、また胸の中で火が上がるのを感じた。だが昨日大喧嘩したばかりで、まだ二人の空気は戻っていない。彼はどうにか怒りを押し込めた。
「君は、やることが衝動的すぎる」
「何が衝動的で、何がそうでないかを、おまえに教えられる筋合いはない」
空気にまた火薬の匂いが混じる。
二人がまた言い合いになりかけたところで、スマホが鳴った。
蓮は視線をそらし、ベッド脇へ歩いて通話を取る。
「もしもし」
「蓮、インタビューの時間が決まったよ」
電話の向こうで、伊織の声がした。
「明日の午前。事務所の車が迎えに行く」
インタビュー。
蓮はようやく、以前承諾した予定を思い出した。
「わかった」
電話を切ったあと、彼は枕元の台本を手に取った。けれどすぐに清司を見た。
清司は眉を上げる。
「何だ」
「明日のインタビュー」
「それが?」
「ついてこないで」
清司の眉が寄った。反射的に「なぜ」と言いかけたが、口から出たのは冷笑だった。
「俺がおまえの専属ボディガードだとでも思っているのか」
言葉が落ちると同時に、彼の姿は部屋から消えた。
蓮はもう相手にせず、ベッドに戻って台本を読んだ。
外に出なくていい。清司と向き合わなくていい。
それだけで、彼にとっては久しぶりの静けさだった。
翌朝、伊織は時間ぴったりに車で到着した。
蓮は深い色のスーツに着替え、髪も簡単に整えていた。普段より冷たく、近寄りがたい印象が強い。車は市内のテレビ局へ向かったが、建物に近づく前から、入口に記者が固まっているのが見えた。
「佐伯さん、最近の黒い噂について、どう思われますか?」
「内容のうち、どこまでが事実なんですか?」
「後輩の仕事を奪ったという話について、事務所がいまだに明確な回答をしていないのは、事実と認めたということですか?」
伊織とスタッフが蓮を守るようにして進む。
記者たちは、マイクを蓮の顔に突きつけるように近づけた。
蓮は足を止めず、何も答えない。
テレビ局の正面入口では、すぐに警備員が記者たちを外へ押し戻した。数分かかって、ようやく建物の中に入ることができた。
控室で、伊織は蓮に水を渡した。
「蓮、この番組、前に見たことある?」
蓮は首を横に振った。
普段はせいぜい業界ニュースを追うくらいで、それ以外の時間は撮影と練習に埋まっている。
「ない。どうした?」
「司会は星野明里さん」
伊織の表情は少し複雑だった。
「外では明里姉さんって呼ばれてる。歯に衣着せないことで有名だよ。質問はかなり直接来ると思う」
「直接?」
蓮は眉を上げた。
「大丈夫。対応できる」
まもなくスタッフが呼びに来た。
「佐伯さん、スタンバイお願いします」
蓮は立ち上がり、襟を整えた。鏡の中の自分を確認し、問題がないと見て、スタジオへ向かう。
照明は眩しかった。
司会者が数分の前振りを終え、ようやく笑顔でカメラへ向いた。
「それでは、本日のシークレットゲストにお越しいただきましょう。佐伯蓮さんです」
拍手が起こる。
蓮は通路を抜け、光の中に立った。
「皆さん、こんにちは。明里さん、よろしくお願いします」
登場した瞬間、客席から歓声が上がった。
星野明里は立ち上がり、軽く抱擁してから、彼をソファへ案内した。
彼女は質問カードを手に、自然な笑みを浮かべている。
「いやあ、実物は写真と違うわね」
「『雲中縁』を見ていた時は、きれいな男の子だな、くらいに思っていたの。でも実際に会うと、これは説明しておきたい。佐伯蓮は、見るほど味が出るタイプのイケメンです」
客席のファンがすぐに反応した。
蓮は軽く手を振る。
「明里さんこそ、褒めすぎです」
淡い笑みで、けれど受け答えは安定していた。
「僕も、明里さんは見れば見るほど魅力がわかる方だと思っています。以前、Xで明里さんを叩いている人を見た時、あの人たちは本当に見る目がないなと思いました」
星野明里は声を出して笑った。
「あら、口がうまいわね」
開場の空気は、その一言でかなり柔らかくなった。
しかし彼女はすぐに、質問カードを次へめくる。
「さて。今日はお姉さんと雑談するためだけに来てもらったわけじゃありません」
彼女は蓮を見た。笑みは残っているが、質問はまっすぐ核心へ入ってくる。
「最近、あなたをめぐる黒い噂がかなり出ています。事務所が話題作りのためにわざと炎上させているんじゃないか、という声もある。もちろん、私はあなたが本当にああいう噂の通りの人間だとは思っていません」
「だから、ファンが今いちばん知りたいのは、あなたが以前の撮影で誰かを怒らせたのか、ということだと思います」
十分に踏み込んだ質問だった。
普通のインタビューなら、もっと遠回しに包む。だが星野明里の番組はいつもこうだ。彼女が回りくどい聞き方を嫌うことは、出演者なら誰でも知っている。
蓮は慌てなかった。
「この件については、誤解が多くあります」
彼は言った。
「ただ、僕から言えるのは、清いものは清い、ということだけです」
星野明里はすぐに追う。
「それだけでいいの? ネットにああいう話が残ったままだと、ファンはつらいんじゃない?」
彼女は方向をファンへ向けた。
蓮は客席へ顔を向ける。
その動作だけで、客席から小さな悲鳴が上がった。
それは番組が用意した演出ではない。確かな支持の声だった。
蓮は星野明里へ視線を戻す。
「明里さん。僕は、もう多くを言わなくてもいいと思っています」
声は落ち着いていた。
「僕を信じてくれる人は、僕がそんなことをしないと信じてくれる」
「そしてこれから、僕自身が証明していきます。僕は確かに、ああいうことをしない人間だと」
星野明里は目の前の男を見つめ、目の奥に少しだけ違う色を浮かべた。
彼女は自信のある人間を数多く見てきた。
けれど蓮の自信は、声高に主張するものでも、無理に張っているものでもない。ただそこに立っているだけで、揺らがない芯が見える。
彼女は笑った。
「そんな言い方されたら、お姉さんもあなたをいじめられないじゃない」
蓮も笑った。
「僕は明里さんを信じていますから」




