食堂のピンチ
昼営業終了後。
《ラーメン銀河軒》。
店長はレジ前で死んだ目をしていた。
『終わりだ……』
『人類は税金に負ける……』
パーちゃんが机の上で転がる。
『急にどうしたの』
『業者から請求来た』
『うわ現実』
店長は紙を見せる。
食材費。
ガス代。
修理費。
謎の出費。
『なんで生きるだけで金が減るんだよ……』
『それは私も思う』
パーちゃんが真顔で頷く。
その横で。
あーちゃんは請求書を覗き込んでいた。
『……』
『本機、理解しました』
『なにを』
『地球文明』
『常に資源不足です』
『スケールがデカい』
店長はため息を吐く。
『店やるって大変なんだよ』
『儲かってそうに見えて、意外とギリギリ』
『ラーメン一杯で世界救えねぇのよ』
あーちゃんは静かに考え込む。
数秒。
『……質問です』
『ん?』
『食堂開業には、いくら必要ですか』
空気が止まる。
店長とパーちゃんが顔を見合わせた。
『来たわね』
『来たな』
店長は腕を組む。
『場所によるけど……』
『まぁ数百万〜数千万とか?』
沈黙。
あーちゃん停止。
完全停止。
『……』
『あーちゃん?』
『処理不能です』
『早いな』
『本機の貯金、71,230円です』
『現実!!』
パーちゃんが吹き出す。
『あと何百年働けばいいのよ』
『計算しますか?』
『やめろ』
真顔だった。
---
その時。
店の扉が開く。
カラン。
入ってきたのは、常連のおっちゃんだった。
作業服。
汗だく。
『暑っっっっっ』
『死ぬ』
『いらっしゃい』
店長が水を出す。
おっちゃんは一気飲みした。
『ぷはぁ!!』
『生き返る……』
あーちゃんはその様子を見ていた。
じーっと。
『……』
『どうした』
『人類、水で回復しています』
『RPGみたいに言うな』
パーちゃんが笑う。
おっちゃんはラーメンを食べながら言う。
『いや〜仕事終わりの飯って最高なんだよな』
『疲れてると特にな』
『……』
あーちゃんの瞳が少し光る。
内部記録。
【疲労時食事満足度:上昇】
【重要データ登録】
『最近お前、ずっとそれ研究してんな』
店長が言う。
『はい』
『人類、“疲れた時ほど温かい料理へ集まる”傾向があります』
『まあそうね』
『あと冷房』
『それも大事』
おっちゃんが真顔で頷いた。
---
その時だった。
おっちゃんのスマホが鳴る。
『あ?』
少し通話。
そして。
『はぁ!?』
『また閉まった!?』
店内が静かになる。
『どうしたんですか』
あーちゃんが聞く。
『いや、商店街の定食屋』
『また店閉めてるらしくてさ』
『定食屋?』
『あぁ、《ひなた》』
店長が「あー……」って顔をする。
『あそこな』
『最近ずっと休みだな』
おっちゃんは残念そうに言う。
『仕事帰りに寄るの丁度良かったんだけどなぁ』
『安かったし』
『量あったし』
『あとおばちゃんがうるさかった』
『最後悪口?』
『褒めてんだよ』
パーちゃんが笑う。
だが。
あーちゃんだけは静かだった。
『……』
『あーちゃん?』
『本機』
『理解しました』
『なにを』
『食堂』
『料理だけではありません』
『?』
『人間、“場所”へ来ています』
店長が少し黙る。
『……まぁ』
『それはあるかもな』
『飯だけならコンビニで済むし』
『でも“いつもの店”ってなんか行くんだよ』
おっちゃんも頷いた。
『落ち着くんだよな』
『疲れてても』
『なんか』
『帰る前に一回寄りたくなる』
静かだった。
あーちゃんの内部演算が走る。
料理。
栄養。
効率。
だけではない。
空気。
匂い。
会話。
安心感。
全部。
全部込みで“食堂”だった。
---
その時。
パーちゃんがニヤニヤし始めた。
『ねぇあーちゃん』
『はい』
『つまりさ』
『お前の夢って』
『“めちゃ美味い飯屋”じゃなくて』
『“帰りたくなる店”ってことじゃない?』
数秒。
あーちゃん停止。
内部ログ更新。
【新規定義登録】
【食堂=帰りたくなる場所】
『……』
『本機』
『少し感動しています』
『感動するロボ初めて見た』
店長が笑う。
---
だが。
その直後。
パーちゃんがスマホを見て吹き出した。
『あっ』
『やば』
『なに』
『見てこれ』
スマホ画面。
《商店街 空き店舗情報》
そこには。
《お食事処 ひなた》
【居抜き物件】
【即営業可能】
【家賃格安】
沈黙。
店長が嫌な顔をする。
『……おい』
パーちゃんがゆっくり顔を上げる。
『あーちゃん?』
あーちゃん。
完全に固まっていた。
赤い瞳が微妙に光ってる。
『おい』
『その顔やめろ』
『本機』
『興味があります』
『だろうと思ったァ!!』
店長が叫ぶ。
---
十分後。
なぜか三人は現地にいた。
『行動力バグってんのよ』
パーちゃんが呆れる。
《お食事処 ひなた》。
古い。
狭い。
昭和。
でも。
不思議と嫌じゃない。
あーちゃんは窓から中を見る。
古いカウンター。
厨房。
テーブル。
壁のメニュー。
全部、少し埃を被っていた。
『……』
『どうよ』
店長が聞く。
数秒停止。
『本機』
『想像しています』
『何を』
『疲れた人類へ定食を提供しています』
『言い方』
『学生がいます』
『サラリーマンがいます』
『猫もいます』
『猫確定なんだ』
パーちゃんが笑う。
その時。
店の裏から。
にゃあ。
猫が出てきた。
三毛猫。
めちゃくちゃ偉そう。
『うわほんとにいた』
猫は当然のように入口前へ座る。
完全にオーナー面だった。
あーちゃんの瞳が光る。
【店舗適性:上昇】
【猫:存在確認】
【成功率:微増】
『猫で経営判断するなァ!!』
店長が爆笑した。
でも。
あーちゃんは静かに店を見ていた。
古い食堂。
閉じたままの店。
だけど。
彼の中ではもう。
少しだけ未来が始まっていた。
最近投稿できてなくてすみません!




