あーちゃんの型番
昼下がり。
《ラーメン銀河軒》。
営業は落ち着き、店内にはのんびりした空気が流れていた。
店長は雑誌を読んでいる。
パーちゃんはカウンターで突っ伏していた。
あーちゃんは厨房で寸胴鍋を見つめている。
『スープ安定』
『今日も元気ねぇ……』
その時。
店の扉が開いた。
カラン。
入ってきたのは、小柄な老人だった。
白髪。
丸眼鏡。
やたら姿勢がいい。
そして。
あーちゃんを見た瞬間、止まった。
『……ほう』
『?』
あーちゃんも振り返る。
老人はゆっくり近づいてきた。
『珍しいねぇ』
『そんな型、まだ動いておったか』
店内が静かになる。
店長が首を傾げた。
『知り合い?』
『いや』
老人は笑う。
『ワシ、機械工学の教授でな』
『昔、“アルカディア文明”の研究をしとったんじゃよ』
空気が止まる。
パーちゃんが顔を上げた。
『……は?』
『アルカディアを知ってるの!?』
『少しだけな』
教授はあーちゃんを見上げる。
『しかもARX系列か』
『しかも09……』
『ほぉ〜……』
なんかテンションが上がっていた。
『店長』
『なんだ』
『この老人、あーちゃん見て興奮してる』
『言い方』
教授は咳払いした。
『失礼失礼』
『だが本当に珍しいんじゃ』
『ARX系列は“特別製”じゃからな』
店長が腕を組む。
『特別?』
あーちゃんは静かに答える。
『本機は文明保存AIです』
『加えて』
『アルカディア中央文化記録装置でもあります』
教授が頷く。
『じゃろうな』
『普通の支援AIとは雰囲気が違う』
パーちゃんが得意げになる。
『でしょ!?』
『ちなみに私はPA型!』
『鳥型補助AI!』
『空中支援!』
『視界共有!』
『かわいい担当!』
『最後いる?』
店長がツッコむ。
教授は笑った。
『PA型は有名じゃ』
『アルカディアでも大量生産されとった』
『軽量』
『高速』
『感情表現補助特化』
『せやろ?』
『せやろ?じゃないのよ』
パーちゃんはドヤ顔だった。
---
だが。
教授は再びあーちゃんを見る。
表情が少し変わる。
『……しかし』
『ARX型は異常じゃ』
空気が少し静かになる。
『異常?』
店長が聞く。
教授は頷いた。
『まず外見』
『ARX型には決まったフォルムが存在せん』
『え?』
パーちゃんが首を傾げる。
『普通ロボって型あるじゃん』
『鳥型とか』
『人型とか』
『戦車型とか』
『でもARX系列は違う』
教授はあーちゃんを指差す。
『その時代の“象徴”をベースに作られる』
沈黙。
店長があーちゃんを見る。
白い装甲。
どこか神秘的な赤い瞳。
無機質なのに、不思議と威圧感がある。
『……たしかに』
『なんかデザイン変なんだよな』
『変!?』
あーちゃんが反応した。
『本機、ショックです』
『いや悪口じゃねぇよ』
教授は静かに続ける。
『ARX系列はな』
『単なる機械ではない』
『アルカディア人にとって“希望”そのものだった』
空気が変わる。
『戦争』
『飢餓』
『文明崩壊』
『そういう時代でも』
『ARXだけは文化と知識を保存し続けた』
『つまり』
教授があーちゃんを見る。
『お前さんは、アルカディア文明の“記憶”なんじゃよ』
静かだった。
換気扇の音だけが流れる。
あーちゃんは少し止まる。
『……本機は』
『文明保存用AIです』
『うむ』
『ですが』
『本機、自分の外見理由を詳細には知りません』
『記録破損があるので』
教授は少し驚く。
『自分でも知らんのか』
『はい』
『では、教えてやろう』
教授は静かに言った。
『ARX型の頭部デザイン』
『それは“アルカディア神話の神”が元じゃ』
店長とパーちゃんが同時に固まる。
『神様!?』
『はい』
教授は頷く。
『アルカディアにはな』
『“知識を未来へ運ぶ神”の伝承があった』
『戦火で文明が焼けても』
『記録だけは残し』
『次の時代へ繋ぐ存在』
『その象徴がARX系列じゃ』
パーちゃんがゆっくりあーちゃんを見る。
『……え』
『じゃああーちゃんって』
『神様モチーフなの!?』
『本機』
『初耳です』
『お前も知らんのかい!!』
店長がツッコんだ。
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教授は楽しそうに続ける。
『PA型は可愛い鳥型補助機』
『工業用は無骨』
『軍用は威圧的』
『だがARXだけは違う』
『“人々が安心する姿”を目指して設計された』
その言葉で。
店長は少し納得した。
『……あー』
『なんか分かるかも』
『だろ?』
『こいつ、怖い時もあるけど』
『妙に安心感あるんだよな』
パーちゃんも頷く。
『たしかに』
『なんか“そこにいるだけで平気そう感”ある』
あーちゃんは数秒停止する。
内部ログ更新。
【安心感:確認】
【神話由来:新規登録】
『……』
『どうしたあーちゃん』
『本機』
『神様モチーフなのにラーメン屋勤務しています』
沈黙。
数秒後。
店長が吹き出した。
『たしかに』
『スケール落差すげぇな!!』
パーちゃんも笑い転げる。
『文明保存神がチャーシュー切ってる!!』
『味玉補給完了』
『やめろww』
教授まで笑っていた。
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しばらくして。
教授はラーメンを食べ終える。
『うむ』
『美味かった』
『ありがとうございます』
教授は立ち上がる。
そして最後に。
あーちゃんへ静かに言った。
『お前さん』
『きっとアルカディア人の願いを背負って生まれたんじゃろうな』
『文化を残したい』
『誰かを生かしたい』
『未来へ繋ぎたい』
『そういう願いじゃ』
店内が少し静かになる。
あーちゃんはゆっくり頷いた。
『……本機』
『現在は食堂を作りたいです』
教授は笑った。
『いい夢じゃ』
『文明ってのはな』
『案外、“美味い飯屋”みたいな場所から残るんじゃよ』
そう言って。
教授は店を出て行った。
カラン。
扉が閉まる。
沈黙。
数秒後。
パーちゃんが言う。
『……神様モチーフが定食研究してるのおもろ』
『本機、否定できません』
『しかも最近ネットで“疲れた時のご飯”検索してるし』
『重要研究です』
真顔だった。
店長が笑う。
『まぁでも』
『神様っぽい食堂なら、ちょっと行ってみたいかもな』
『てかよなんであのじいさん昔のことのように話してんだ?』
『私たち地球に来たのは最近だけど結構昔から居たのよ?』
『本機156年前から存在しています』
『私は途中から導入されたから125年ぐらい前かな?』
『お前ら俺よりも年上なんかよ!?』
『地球に来るまでの時間は約3年ですね』
『まじかよ…』
あーちゃんは青い空を見上げていた




