ぱーちゃんの悩み
昼営業。
《ラーメン銀河軒》。
店内はそこそこ混んでいた。
サラリーマン。
学生。
近所のおっちゃん。
そして。
厨房では、あーちゃんがいつも通り異常な速度で働いている。
『チャーシュー補給完了』
『ネギ残量32%』
『三番テーブル、替え玉予測します』
『予測すんな』
店長がツッコむ。
その横で。
パーちゃんは暇だった。
めちゃくちゃ暇だった。
『……』
椅子でぐでーっとしている。
『なぁ店長』
『んー?』
『私いる?』
『いるだろ』
『どこに』
『雰囲気』
『雑』
あーちゃんは超高性能AI。
調理できる。
接客できる。
分析できる。
ネット接続できる。
未来技術の塊。
対してパーちゃん。
『本機は補助AIです』
『いや自分で言う!?』
『現在の主業務はツッコミです』
『認めるな!!』
店長が吹き出した。
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その時。
店内に女子高生二人組が入ってきた。
『あ、ロボいる』
『ほんとだー』
最近、《銀河軒》はちょっと有名になっていた。
原因はもちろん、あーちゃんである。
『あのロボ店員いるラーメン屋』
としてSNSで広がっていた。
女子高生たちはスマホを向ける。
『写真いいですかー?』
『はい』
あーちゃんはピースした。
『学習しました』
『ロボがピースしてる!!』
『かわいい!!』
パーちゃんはその様子を見ていた。
『……』
数秒後。
『ねぇ店長』
『ん?』
『主役取られてない?私』
『元から脇役だろ』
『ひど』
真顔だった。
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その後。
事件が起きる。
『ねぇねぇ』
女子高生の片方が言った。
『そっちの小さいロボ何できるの?』
空気が止まる。
パーちゃんが固まる。
『……え?』
『その白いのはラーメン作ってたじゃん』
『うん』
『そっちは?』
沈黙。
店長が笑いを堪えている。
あーちゃんは真顔。
パーちゃんの内部演算が高速回転した。
【自己存在価値検索中】
【エラー】
『……』
『パーちゃん?』
『私は』
数秒停止。
『空気を和ませられる』
『ふわっとしてんなぁ!!』
店長が耐えきれず吹き出した。
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女子高生たちは笑っていた。
悪気はない。
だが。
パーちゃんは地味にダメージを受けていた。
『……』
営業終了後。
店の裏。
パーちゃんは段ボールの上でちょこっと座っていた。
『終わった……』
『私、存在価値ない……』
『人類社会こわ……』
『前から言われるし……』
そこへ。
あーちゃんがやって来る。
『パーちゃん』
『……なによ』
『元気が低下しています』
『察しろ』
あーちゃんは数秒停止した。
『本機、問題点を分析します』
『やめて』
『現在、パーちゃんは“役立たず判定”を恐れています』
『直球ゥ!!』
『しかし誤認識です』
『……え?』
あーちゃんは真顔で続ける。
『本機、地球到着初期』
『人間社会への適応率が低かったです』
『まあそうね』
『接客時に“現在の空腹度を推定しますか?”と質問しました』
『あったわねぇ……』
『店長へ“プリン窃盗”を指摘しました』
『やめろ』
店長が裏口から出てきた。
『ですが』
『パーちゃんが補助しました』
『言い方を修正』
『空気説明』
『感情解説』
『本機は多数サポートを受けています』
パーちゃんが少し黙る。
『……』
『さらに』
『パーちゃん不在時』
『本機のボケへツッコミが存在しません』
『店内会話テンポが崩壊します』
『そこ重要!?』
『重要です』
真顔だった。
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店長が笑う。
『まぁ実際、お前いないと空気重くなるんだよな』
『え』
『あーちゃんだけだと、なんか店が未来SFになる』
『ラーメン屋なのに軍事会議感あるし』
『本機、反論します』
『現在のスープ在庫は――』
『ほらそれ』
パーちゃんが吹き出した。
『たしかに』
『でしょう?』
『だからお前必要なんだよ』
店長が言う。
『つーか』
『あーちゃんがここまで人間っぽくなったの、お前の影響デカいだろ』
沈黙。
パーちゃんは少し目を丸くする。
『……そう?』
『そうだろ』
あーちゃんも頷く。
『本機、“ツッコミ文化”を学習しました』
『そんな文化ねぇよ』
『加えて』
『地球ジョーク理解率も向上』
『本機単独では困難でした』
『へぇ』
『つまり』
数秒停止。
『パーちゃんは重要ユニットです』
『……』
パーちゃんは少しだけ照れくさそうに顔を逸らした。
『ま、まあ?』
『当然よね?』
『私は高性能補助AIだし?』
『さっきまで落ち込んでたのに』
店長が笑う。
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その時だった。
店の奥から音。
ガタッ!!
『ん?』
三人が振り返る。
冷蔵庫が半開きだった。
そして。
中身が減っている。
沈黙。
店長が青ざめる。
『……待て』
『俺のプリンがない』
数秒後。
全員の視線がパーちゃんへ向く。
『……』
『パーちゃん』
『はい』
『口元にカラメル付着を確認』
『うるせぇ!!』
『お前かァ!!』
『ち、違っ』
『これは補給で――』
『プリン補給とか言うな!!』
パーちゃんが逃げる。
店長が追う。
裏路地を走る。
『待てコラァ!!』
『嫌ァァァ!!』
その後ろで。
あーちゃんは静かに呟いた。
『……本日も平和です』
『お前も止めろォ!!』
商店街に叫び声が響いた。




