吹奏楽夏大会
革命の瞬間…
俺は夏休みちょっと前から塾に行き始めた。
塾の時間は13:00〜18:00の5時間。
そして夏休みは吹奏楽コンクールに出るため午前中は部活だ。
なので夏休み毎日朝の8:00から、帰ってくる18:00ちょっと過ぎまでドタバタだった。
「コンクールまであと1日…そう考えるとあまり実感がないな〜」
部室のホワイトボードを見てお昼に持ってきたおにぎりを食べる。
うちら湯ノ峰中学校が出場するのは吹奏楽コンクールA編成の部。
県代表になると中部大会に出場ができる。
その県代表の中にも優勝兼朝日新聞社賞というものがある。
峰中はそこを狙っているのだ。あと1日の隣に書いてある字に目を移す。
「課題曲:メルヘン 自由曲:セルゲイ・モンタージュ……」
今回の演奏曲だ。
メルヘンは……たしか近鉄特急のチャイム音に使われているよね。
だけれど、確かチャイム音の方が先だから関係があるのかって考察している人もいる。
それが気になって自分も一回乗りに行ったけれど…全くフレーズが一緒だった。
自由曲で吹くのはセルゲイ・モンタージュ。
ラフマニノフのピアノ協奏曲2番をモチーフに作曲された曲。
特に最後に泣かせにくるような壮大なメロディーは音楽好きな人なら聞いたことがあるだろう…。
優雅な音にいろんな場面が感じられるそんな曲だ。
そういや…顧問の青髙先生が長年やりたかった曲と言っていたな。
青髙先生はこの道30年以上の吹奏楽のベテランの先生。県内の吹奏楽の先生といえばで名前が上がってくるほど顔が広く有名な先生だ。
俺らが入学すると同時に峰中に来て、顧問を続けてくれている…。
厳しい時もあるけれどものすごくおもしろい先生だ。
「明日は塾休みますって言わないとな……」
独り言を呟いた後、カバンを持ち部室を出た……。
そういや夏休みに入ってから先生に会っていない…。そろそろ会って喋りたいよ…。
先生の車は止まっているから部活をやっているか職員室にいるのか……いつも行き違いになってしまう。
2人とも学校にいるのにここまで会わないとか、これものすごい確率なのでは……?
そう思いながら駐輪場に向かい、暑い中自転車のカゴに荷物を置こうとした時、紙袋が入っていた─。
「え…何これ…って和から…すごい数のグッズ……。“いらなくなったのであげます。早めの誕生日祝わせてください”……って俺の誕生日10月なんだけど。」
それにしてもものすごい量……これ本当に貰っちゃっていいのか……?
─1年生冬… 先輩がやっていたアンコンの人数不足で心響がアンコンの方に参加し、青髙先生もそっちの指導にまわっていた時……1年生は朝と放課後一生自主練だった。
峰中の吹部の自主練ルールは同じパートの子とやるというものだったから和と2人でやっていた。
「ねぇねぇ、このYoaTuber知ってる?僕むっちゃ好きなんだよね〜〜!」
「!これ知ってる!!面白いよな!!」
俺たちはこんな話題で盛り上がっていた。
そこから自分がやっていたゲームを和がやってくれて…その話で盛り上がって……距離が一気に縮まって自分にとってものすごく楽しい時間になった─。
だけれど今は………俺は考えるのをやめ紙袋を大事に持って学校を出た。
……塾は俺にとっては地獄そのものだった。
5時間ぶっ通しの授業と、俺には周りの子が合わなかった……。
塾に行ったら一言も喋らない時間が続く。
周りはうるさくて自分だけ違う…場違いなところだった……。
◇
「次に8月24日に行われる中部大会に出場校の発表をします。」
司会の人がマイクを持ち緊張感を出している。
東海に行けるのは今回出場した15校のうち3校のみ…。
その中に朝日新聞社賞がある。まずはここで呼ばれないといけない……。
「県代表─8番、原市立原南中学校」
その瞬間会場に歓声がおこる。
南中は毎年東海に行っている強豪校。
環境が近いと言うこともあり、峰中からしたらライバル校だ。
歓声が少しおさまり司会の人が口を開ける。
「─10番、湯ノ峰町立湯ノ峰中学校」
すると、周りからわぁぁっと大きな歓声が聞こえてきた…。
…や…やった…!!その瞬間視界が歪み涙が溢れてくる…。
…峰中はもともと強豪校じゃなかった。
確か東海はこれで7、8年ぶりだったと思う。
去年はダメ金。一昨年は銀賞と散々な結果だった峰中が……すると、司会の人がまた口を開ける。
「─12番、原市立海浦中学校」
またもやものすごい大きな歓声が聞こえる
これはわかっていた。なんてったって海浦は県一だ。今回の演奏も凄かったし。
「最後に最も優秀だった学校に優勝・朝日新聞社賞を贈りたいと思います。」
ここだ、3校のうち1校………最高の演奏ができたから心配は……ない…!
「令和6年度、吹奏楽コンクール朝日新聞社賞は……」
司会の人がためる。
緊張が張り詰めている…今までファゴットに一目惚れをして、先輩の演奏が大好きになって木低のみんなと頑張ってきて……。
大変なこともあったけれどちょっと成長するだけでも喜びあって……それが一気に思い出されてくる……。
親にほぼ内緒で入部した吹奏楽部。
親に内緒で始めたファゴット。それから約3年……
「─10番、湯ノ峰町立湯ノ峰中学校」
……自分が1番知っている名前の学校が呼ばれ一瞬頭が真っ白になった。その瞬間─
「……っ、うっ……」
さっきの何倍もの涙が目から溢れてくる……。
自分でもびっくりしていた。
周りを見るとみんなも涙を流している…。
自分たちの代で……頑張ったんだな……そう思うと本当に涙が止まらなくなってしまった─。
峰中にとっては18年ぶりの朝日新聞社賞。
セルゲイの代は湯ノ峰吹奏楽と吹奏楽コンクールに革命を起こした─。
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次の更新は5月16日土曜日の予定です。
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