究極の2択(アンサーは3択目)
モミアゲと別れてから、しばらく経った。
気付けば春は真っ盛り
どころか夏の気配がする。
今はまだ馬に乗っているだけいいが、歩けばうっすら汗をかく季節だ。
じきにハイキングを続けるのは厳しい季節になってしまうだろう。
というころ我々は、ロージーヌに到着した。
ゼネヴォンを失っている現状、西方第一の都市だ。
当然、西方方面軍の最重要拠点でもある。
それだけの大都市なのだ。
正直言って、すでにモミアゲに会えた今、近寄りたくはなかった。
人目に付くことは避けられないからな。
いくら西方方面軍として我々を見逃す構えでも。
中央からの捜査員がいるかもしれんしな。
だが、背に腹は変えられん。
何せアネッサの故郷であるモノ=レジーヌへ行く道だからだ。
ご両親の安否自体は無事らしい。
どうやらモミアゲがひと足先に保護してくれているとか。
急に有能になりやがって。
投げキッスくらいならしてやってもいいぞ。
ロージーヌにゃいないだろうし、どのみち届かんが。
とりあえずは郊外の水車小屋に腰を落ち着ける。
真っ先にすることはモミアゲの旗を燃やすことだ。
いやいや、誤解だって。
万が一私たちの潜伏がバレて、アイツの旗も見つかってみろ。
ハインリヒ殿下に内通がバレて、迷惑掛かるだろ?
だからこれは気遣い。
さすがにここまでしてもらったんだ。
騎士時代西方方面軍に来たときの、あの扱いの悪さはもう憎んでいない。
本当はまだちょっと文句言いたい。
それはさておき。
「で、ロージーヌへ潜入するメンバーだが」
次にすべきは作戦会議だ。
西方。作戦会議で都市潜入。
なんかデジャヴだな。
やっぱり旗燃やして正解だった。いや、手ぬるかったか。
「私と、あと2人ほど募りたい」
「はいはいはいはい!」
「アネッサは留守番だ」
「なんでよ!」
「私がいないあいだ、誰が殿下を守るんだよ。
それにオマエも傅役やってるんだ。面が割れてる方の人間だぞ」
『街の様子はどうか』
『中央の追手による捜査網は敷かれていないか』
を確認したいのに、こちらからバレに行くことになりかねん。
「じゃあむしろフューちゃんじゃなくて私が行くよ。
そっちの方が倍は顔知られてるし。
私は西方顔だからロージーヌでも浮かないけど、北方系でやたらデカくて
『今はカタギだったとしても、過去に絶対複数人殺してる』
みたいな顔してるフューちゃんじゃ、やましいことなくても目を付けられるよ」
「殴るぞ」
「ふふっ」
「アデライド殿下」
もっとも、騎士だから複数人殺しているのは反論できない。
でも騎士は最初からカタギだし。
「でも見た目は置いといてさ。実際私の方が目立たないでしょ?」
「それはそうだがな。軍人のセオリーを思い出せ」
アネッサも勘が鈍っているか?
『軍人とはどのような戦場にも適応するものだ』
とは言ってきたが。
戦場ではない環境に慣れるのも早かったのかもな。
素直がすぎる。
「ここまで一連の方針は、私に決めさせてもらっているからな。
情報状況は可能なかぎり、直接触れておきたいところだ」
「確かに」
結局潜入は、私と使用人の男女1人ずつで行うことにした。
モミアゲめ。
アイツの気遣い、助かるのは助かる。
事実、今回もファインプレーだ。
延々森を抜けてきた私たちの服はクタクタヨレヨレボロボロ。
なのに物だけみれば、元々上等なのは分かってしまう。
街に入ったら、明らかにワケアリと分かってしまうところだ。
私なんて鎧だしな。
そこで、アイツが小屋に置いていってくれた物資が役に立つ。
なんと着替えを用意してくれていたのだ。
これで大都市に入っても浮かないこざっぱり感を演出できるのだが、
「さぁ! 2人とも! 気を引き締めていくでございますですわよ!」
「ミュラー卿ってジョークもおっしゃるんですのね」
「わけあって半年近く、演技力を磨く日々だったのさ」
モミアゲめ!
殿下に気を遣ったのか知らんが、
服が全部上等すぎるんだよ!
潜伏したいのに目立つだろうが!
軍人のくせに、そんなことも分からんのか!
これだから育ちのいいヤツは!
騎士といえば軍人だがな!
その誇り高さ、見た目やカッコ付けを気にする生き方。
正直戦場においては、相性最悪だ。
だからこそ自律、規範意識、憧れ、
『戦場で貫けるヤツはたいしたもんだ』
『普通は無理だ』
を込めて
『騎士道』
が語られるのであって。
見てくれや誇りなんて捨てちまえよな!
私の妹属性魔法を見倣え!
みんな私みたいになったら、世界はいよいよ終わりだぞ!
……いかんいかん。
思考が支離滅裂だ。
これも妹魔法の悪い副作用だ。許さんぞ鑑定士のババア。
とかいう恨み節は、いつか直接本人たちを殴るとして。
私たちは今、
『わりと身分がいい観光客』
という設定で街中に潜入している。
メイドがお嬢さま、私ともう1人が付き人夫婦。
私より普通のメイドの方が可憐に見えるのは仕方ない。
で、塗装を変えノコギリで削り。
改造したドミニク殿下の馬車で繰り出したのだが。
「これは」
目抜き通りのあちこちに、
柵で関所が設けられている。
「これは、どちらでしょう?」
男の方が聞いてくる。
つまるところ、
『モミアゲは私たちを見逃すと言っていた』
『だからこの関所も、ヤツの差し金なら素通りできるだろう』
『だが逆に、中央からの差し金だった場合は』
ってことだろう。
「西方方面軍ではありませんか?
こんな大規模にできるほど、中央の人員が来ているとは思えませんわ」
「いや、それでいうとツィマー卿は山賊退治に出ているんだぞ?
ロージーヌにここまで兵が残っているのか?」
どちらも一理ある。
逆に
『我々は山道周り道で時間が掛かった。
追手が幹線道路を突っ切っていれば、到着していてもおかしくはない』
『ロージーヌはフルール王国軍との前線か近い。
一定数の兵力は残していておかしくはない』
反論もできる。
「どう思われますか?」
「とりあえず、考えることはどこでもできる。一旦引きあげよう。
ヤツらが追手だった場合、チンタラしてて見つかる方がマズい」
モミアゲ本人がいてくれりゃ、聞けば済むことなんだが。
いつもいつも絶妙に役に立たんな!
なんだかんだ、ここまでうまく行っていた逃亡劇だが。
我々はモミアゲへの憎しみを噛み締める
『1回休み』
となった。
隠れ家に帰って報告してみると。
こちらでも意見が分かれた。
「でもツィマー卿が
『このルートを通るように』
とおっしゃっていたのでしょう?
だったら大丈夫なのは保証済みではないでしょうか」
とはアデライド殿下。
「いやいや。あの日ツィマー卿とお会いしてから、それなりの日数が開いている。
入れ違いで留守にハインリヒ兄上の手勢が来ることもあるだろう。
何より、ツィマー卿からこのことについての言伝がないこと。
それが答えみたいなものだよ」
とはドミニク殿下。
「疑わしいなら安全をとって迂回しようよ」
とはアネッサ。
「でもモノ=レジーヌへ迂回するなら、また山でしょう?
ルートを外れては、司令官閣下(※モミアゲのこと)と連絡が取れなくなるわ」
とはレディ・ド・ブロイ。
5人詰め掛けた狭い丸テーブルには上座がない。
それと同じように、今回もまたそれぞれに理がある。
「どうするの? フューちゃん」
「うーむ」
非常に悩ましいところではある。
いつもより距離が近いせいで、全員の視線がより刺さるし、
その視線の運命が、私の判断で決まる。
戦場でも指揮官として幾度となくあった話だが。
慣れるもんではないし、
問題発言になるが、やはり背負う命の重みが違う。
考えろ。考えろよ。
綱渡り、ワンミスで終わりだ。
ん、待てよ?
そうか。
かくなるうえは。
「私としては……」
あれからしばらくの日数がすぎた。
季節は晩春と初夏を反復横跳びしている。
そんなある日の昼まえ。
私たち一行は、草原である人物と合流した。
モミアゲでも、アネッサのご両親でもない。
「お久しぶりですね。また会うことになるとは」
「うむ、同感だ。それにしても、
ずいぶんとゲイル語がうまくなったじゃないか、えぇ?」




