ドキドキ☆ 山賊パニック大作戦
「相変わらず君は美しいね、フロイライン」
「オマエは相変わらずモミアゲが長いな」
「なんだいそりゃ」
「もう身分も私の方が上だからな。
今までにも増して、口調に気を使う必要がない」
「やはり相変わらずだ。そして君はそここそが愛らしい」
『相変わらずウザくてキモくて鼻につく』
と言うべきだったか。
いや、言うまい。
今ばかりはさすがに頭が上がらん。
モミアゲ史上初めて、私の役に立とうとしとるんだ。
優しく対応しよう。
何がどうなってモミアゲがここにいるのか。
一生分の功績をあげようとしているのか。
それは私たちが山賊のアジトに乗り込んだときまで遡る。
「お兄ちゃんたちに、償いの機会をあげる」
「償い、ってぇと?」
あの日、両殿下に
『ハインリヒを倒し、あなた方が天に立ちなさい』
と語ったあと。
それはそれとして、ドミニク殿下のおっしゃるとおり。
まずは無事に逃げ延びなければならない。
その手助けを、罪深き賊どもにさせようってことだ。
「お兄ちゃんたち山賊って、なんかネットワークみたいなものはあるの?」
「いやぁ? 商工会じゃあるめぇし」
「ちっ、使えないな」
「えっ」
「あ、いや、なんでもないよ」
なんだ。
早速アテが外れたぞ。
コレだから山賊は。
ただでさえ生きる価値がマイナスのくせに。
アンヌ=マリーに焼かれちまえ。
「むしろ逆だよなぁ」
「っスねぇ」
「どういうこと?」
「オレたち山賊は奪うことで成り立つ職業よ」
「クズめ」
「えっ」
「続けて?」
危ない危ない。
下手に妹モードを切らすと、洗脳も途切れかねない。
相手が魔力ゼロ耐性ゼロのボンクラどもで助かった。
南方でやった、そこそこ実力のある騎士とかだったらマズいところだ。
「だからできるだけ楽に、効率よく奪いたい。
逆に言えば、あまりそれ以上の労力は使いたくない」
山賊の生き方をやめた方が、労力はいらんと思うぞ。
いや。こういう生き方の方が性に合うって意味で楽なヤツもいるか。
私も貧農の出身だから、畑で生きる過酷さは知っている。
「だから一番マズいのは、
『略奪を終われない』
ことだ。
もしそのへんの旅行者なら、
『オレたちは金目のものを奪うだけ』
『旅行者は命が助かる』
だけの話。
win - winで終わるだろ?」
「どこがだよ殺すぞ」
「だがこれが同業者と当たった場合。
お互いこれが全収入、日々のメシのタネ、命の源だ。
ただの通行人みたいに
『荷物は諦めて帰る』
なんて選択肢はねぇ。
結果、殺し合って奪い合うことんなる」
やっぱりこういう手合いはロクな死に方せんよな。
それは(どうでも)いいとして。
「だからそれを避けるべく、オレたち山賊は
『縄張り・狩り場が被らないようにする』
っつう紳士協定を結んでいる」
「し、ん、し……!」
「笑うところじゃないぞー」
いやオマエそれは鏡見ろよ。
面と相談しろ。
外見も中身も、人生通して泥団子の方が同じ生き物してただろ。
「そのために山賊は、お互いの位置関係を正確に把握している。
ネットワークとは逆、繋がらねぇために」
「ほほーう」
そうかそうか。
そのマメさを、マメに生きることに使えよ
とは言いたいが。
いいぞ。すごくいい。
そういうのを私は求めていたんだ。
「つまりさ」
「うん?」
「お兄ちゃんに頼めば、
別の山賊のところに連れていってくれる
ってことだよね?」
「へあっ!?」
さすがに予想外だったらしい。
もともと品がない感じのドングリ眼が、さらに見開かれる。
「話聞いてたか!? 山賊同士が会うのはメチャクチャ危険で!」
「連れてってくれるだけでいいの。あとは私がなんとかするから。
争いにはならないよう保証する」
「でもなぁ」
「お願ーい☆」
「いいよぉ♡」
けっ!
という流れで、私はとにかく山賊に会いまくった。
移動を続けつつ、行く先々で、数珠繋ぎで。
「初めましてお兄ちゃん! ちょっと頼みたいことがあるの♡」
「任せなさい!」
「なんでも言ってくれ!」
「んも〜♡ しょうがないなぁ〜♡」
「ブヒヒヒヒヒヒ!」
「オレは今、兄として無上の喜びを感じている……!」
「『初めましてお兄ちゃん』って、文章破綻してるよね」
「うるさいぞアネッサ」
「きっと生まれると同時に引き離された、悲劇の兄妹だったのよ」
「殿下。聞かなかったことにしてください」
「それが片や山賊、片や騎士となって。
重なるはずのなかった運命が今、交錯したのね」
「殺し合いになってそう」
「殿下」
「感動の再会だわ」
「アデライド」
最初は中央に行って、貴族や大臣相手にこうするつもりだったのに。
巡り巡って、まさか山賊どもとコネクションを形成するとはな。
騎士だったころには考えられん。
堕ちたなフューガ・ミュラー。
なんて自虐したくなるような。
そうまでして私が実行した計画。
それは、
「ちょっとあちこちの幹線道路に行って、
派手に暴れ散らかしてほしいの」
これにより、西方領はそこそこ面倒な騒ぎになった。
広範囲で問題が同時多発。
大混乱とまでは言わんが、ちょっとしたパニックに。
「フューちゃん、こんなことして何が目的なの?」
「そりゃオマエ、
ここまでてんやわんやになったら、
追手も私たちを探している場合じゃないだろ」
実際読みが当たったかは知らん。
いちいち追手に会いに行って確かめるわけにもいかんしな。
だが騎士たちは鎮圧に駆り出されるし、
中央から来る連中はあの道もこの道も通行止めで動けない。
事実として。
今日このときまで私たちが
誰かに捕捉され、追われる
そんな状況にはならなかった。
そうこうしているうちに、先発させた遣いがロージーヌへ。
無事モミアゲに私のラブレター(けっ!)が届いたらしい。
これでなんとか、こちらの事情が伝われば。
せめて西方方面軍には逮捕されないよう、裏から手を回してくれれば。
と思ったのだが。
思わぬ副産物。
届いた返事を黒ヤギさんせずに読むと、
『童話の王子はいつも遅れてやってくる。
あと少しだけ待っててネ ちゅっ♡』
「殺すぞ」
この混乱に乗じて、
『自らも山賊討伐に出動する』
という名目で、直接会いに来てくれることとなったのだ。
「冷静に考えたらさ。アイツが来て何か得することある?」
言うなアネッサ。
ない。
という流れがあって。
私とモミアゲは今、テーブルを挟んで向かい合っている。




