表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/148

苦難の旅障害多し

 逃避行は正直難航を極めた。


 文字どおり着の身着のままで逃げてきたからな。

 着替えなんてものはない。


 風呂だって山道を行く途中では入れない。

 村に着いても、貸してもらえるとはかぎらない。



 そう、貸してもらえない場合も多いのだ。



 どこからハインリヒ側に情報が漏れるかも分からん。

 なので我々から


『アデライド、ドミニク両殿下であらせられる』


 なんて名乗るわけにはいかない。


 で、名乗らなければ向こうも気付かない。

 私だって年末に初めて会うまで、ロクに顔知らなかったしな。

 まして山奥で暮らしている人が知るべくもない。


 結果、


『村で見掛けない人』

『こんな山奥には不釣り合いな、豪華な服を着ている』

『なのになぜかボロボロの、明らかに怪しい集団』


 となってしまい、関わるのを拒否されてしまうのだ。



 だが風呂なんかまだいい。

 女性陣はもちろんドミニク殿下も(こた)えているが、死にはしない。



 直結するのは食料だ。



 私やアネッサ、使用人たちにも、財布を持ち歩いている人はいた。

 だが手持ちなどたかが知れている。


 私たちがベルノを脱出するときは

 私、アデライド殿下、レディ・ド・ブロイ、騎手1人

 だったが、


 今はドミニク殿下、アネッサの他に


 ご公務への付き人多数


 がいて、20人近い集団になっている。


 人数分の食料を賄うと金はすぐに尽きる。

 どころか貨幣経済から隔離されて物々交換の地域もあった。


 そこで殿下たちが身に付けていた宝飾品に手を出すも、



「?」

「ダメか……」



 価値が分からなかったり、

 そもそも山奥の民にはあっても仕方ないものだったり。


 都市部ならひと財産レベルのものが通用しない。


 さすがにまだ、飢え死に寸前とか略奪せねば生きられんまではないが。


 慣れない環境、続く心身の激しい負荷。


 元々太っていたわけではないが、殿下たちも痩せてきた。

 アネッサも輪郭のふっくら愛らしくなっていたのが、戦場時代に戻った。


 みんな病気をしていないだけ頑丈なくらいだ。



 それでも我々が瓦解せずに旅を続けられているのは。


 もちろん立ち止まる方が危険というのもある。

 だが何より、



「殿下、ご負担をお掛けしました」



「いえ、これも、これが白十字王国という国なのですね」

「それを知りもせずに国家たる『王族』などと。恥じ入るばかりだよ」



 両殿下が文句ひとつ言わずに、どっしり構えてらっしゃるからだ。


 自分たちより偉い、ワガママを言うべき人が言わない。

 それだけでみんな不平を出しにくいし、


 そんな我慢の方向性ではなく



『あんな気丈に振る舞っていらっしゃる』

『あれこそは王族のあるべき姿か』

『であれば、私たちもその輝きをお支えしたい』



 前向きに導かれている。

 (つら)けれども迷うことなく、着いていっている。



「アネッサ。両殿下の人を率いるあり方には、騎士ながら見習うところがある」

「フューちゃんもちゃんとできてるよ」


 それはオマエが盲目的か、妹魔法の闇だと思う。











 そんな逃亡生活、ある日のこと。


 ちょうど町と町のあいだ、野営してひと晩明けた朝。


「どうだアネッサ」

「うーん、もはや釣り餌を食べた方が早いかも」

「んなバカな。殿下にミミズを食わせる気か」

「フューちゃんは?」

「私は最悪食ってもかまわんが」

「釣れてるかって聞いてんの」


 私とアネッサとあと数人で、川釣りをしていた。

 食料確保のためである。


 最低でも1人1匹分くらいは釣りたい。

 欲を言えば3食分釣りたい。

 メシの時間のたびに止まっていては、旅が進まんしな。


「遣いに出した彼は、ちゃんと食えているだろうか」

「神のご加護を信じよう。

 私たち悪いことしてないもん。きっと(たす)けがあるよ」

「ふーん」


 そんな神さまなら最初からピンチにするな。

 そもそも悪いことしてない私に妹属性魔法を与えるようなヤツだ。

 ゴミめ。


「大丈夫? 釣れてないの? なんかオーラがイライラしてる」

「あぁ、いや」


 いかんいかん。集中せねば。


 釣りとは繊細なものだ。

 その細やかさはときに、人と人との決闘すら凌駕する。

 冷静さを欠いては釣れるものも釣れん。


 一度頭の血を下ろし、風で首筋を冷やし、山の音に心を落ち着けていると


「……む」

「フューちゃん」

「アネッサ、


 静かに」



 静かななかに、明らか異物な気配を感じる。



「茂みに」

「いるな。


 全員今すぐキャンプへ戻れ」


 寝起きしていた場所は遠くない。

 というか見える距離だ。


 一斉に引き揚げ、私はハルバードを構えると、


「フューちゃん、来るよ」

「問題はどこの誰さんか、ってとこだが」


 細い道の先、朝メシ済ませたら進もうと思っていた方向。

 姿を現したのは、



 10人前後の男ども。



 全員斧やら剣やらで装備したソイツらは、



「よぉ、旅のお方。

 こんなところでどうしたのかな? 迷子か?」



「……エスコートは呼んどらんよ」



 明らかに山賊だ。



 チッ。

 神がどうとかいう話をしたと思えば。


 アンヌ=マリーとのゼネヴォン以来現れやがって。


「ツレねぇこと言うなよ。

 このあたりは危険なんだぜ?

 道には迷いやすいし虫や獣も出る。


 オマケに怖〜い()()()()まで出るって噂だ」


「ヒッヒッヒッヒッ」

「ゲッヘッヘッヘッ」


 なんだってこういう連中は笑い声まで下品なんだろうな。

 そういうロールプレイでワザとやっているんだろうか。

 でないと普通はゲヘゲヘ言わんぞ。


「で、お嬢ちゃんらはこのへんのシケた田舎に似合わねぇベッピン揃いじゃん?

 特別にオレらがお守りしに来てやったってワケなのヨ」


 品性がない

 ならまだしも、マイナスの人間性が滲む目でアデライド殿下を捉える。


「もちろん、特別料金でなぁ?」

「ひっ」


 穢らわしい。万死に値するぞ。

 殿下が怖がってしまわれたではないか。


「殿下、ご安心ください。

 私もアネッサも、あのごとき(やから)に遅れを取るものではありません」

「は、はい」

「おお? 女の分際で言うじゃねぇのよ」


 さっきからウルサイ先頭の男が、肩へ担ぐように持っていた斧を提げる。

 いつでも構えて、臨戦体制ってことだな。


 愚かな。


 私たちも先を急いでいるからな。

 邪魔しなければ見逃してやったものを。



 私たち騎士は、宿命的に多くを(あや)めねばならない。

 ゆえに、基本的に平時には、あらゆる命を慈しむ心が備わるものだが、


「アネッサ」

「うん」


 今日はな。今日ばかりはな。


 嫌なことは続くわ旅はキツいわ腹減ってるわで、



 とんでもなくイライラしているんだ。



「アイツら全員、生まれてきたことを後悔させるぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ