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逃げ上手の姫君(と女熊)

 カアアァ!


 なーにが『お兄ちゃん♡』だよ!


 コイツもう『おじいちゃん』って年齢だろうが!


 やっぱり殺しときゃよかったかな!

 どうせ老い先短いだろうしさァ!


 アデライド殿下が見てるけど、社会勉強ってモンだよなぁァ!?



 おほん。

 待て待て。


 いかに妹魔法に尊厳を貶められようと、心まで卑しくなるな。


 今の私は、私一人ではないのだ。

 守らねばならん、か弱き命がある。


 ……知らんあいだに母親にでもなったか?



 それは置いといて。


 目撃者は全員黙らせねばならん。


「ねぇ、そこのお兄ちゃんたちも」

「えっ、オレ?」


 配下の騎士ども5人も、一緒に地獄へ堕ちてもらう!



「お願い、見逃して?


 お兄ちゃんたちにはバレちゃったけど、本当はサプライズなの。

 いろんな人を呼ぶつもりだったの。


 私たち、ハインリヒ殿下みたいにできることが多くはないから。

 だからせめて、みんなが元気になれることをしよう、って


 ね? お願ぁい♡」



「「「「「「いいよぉ♡♡♡」」」」」」



 ケーッ!

 気持ち悪い声出しやがって!


 オマエらも同類だ!

 アデライド殿下の前で醜態を晒したなぁ!!


 思春期の少女の侮蔑という、この世で最も身を抉る視線をくらえ!


「本当? ありがとぉ!」

「ホッホッホッ、うむうむ。

 他の連中に見つかるまえに、早く行ってしまいなさい。

 お兄たまがよろしく誤魔化しておくから」


 お兄たま!?

 このジジイがお兄たま!?


 オッッッエーッ!!!!

 去年食ったメシまで吐きそうだ!!


 もう次の国王誰でもいいからコイツを法で規制しろ。



 まぁいい。

 何もよくないけどいい。


 恥をかくどころか、思わぬカウンターを食らってまでゲットしたチャンス。


 シャクだがお兄たまの言うとおり。

 ここでグズグズして別のヤツに見つかったら本末転倒だ。



「さぁ殿下! 急ぎましょう!」



 勢いよく振り返れば、そこには


 明らかに穢らわしいものを見る目のレディ・ド・ブロイと



 少し前傾姿勢で、両拳を顔の前に持ってきた、


 キラキラお目目のアデライド殿下がいる。



 なんだその顔!?


 まさか、まさかとは思うが、


「これが、



 これが四海を(たい)らかにした、ミュラーさまの交渉術なのね!?」



 違ぁう!!

 いや、何も違わないけど!!


 まさかとは思うがこのお嬢、



 感激しているのか!?



 アンタ(不敬罪)もアネッサ属だったのか!?



 あーあーそうか!

 どっちも童顔だし名前が『ア』で始まるしな!

 なるほど!


 ってなるか!

 これ以上カオスを増やすな!

 そもそも『アデライド』はミドルネームだろうが!


 ハンバーグにするぞ鑑定士のババア!!(?)


「私も身に付けないと!」

「なりません。ぜひおやめください。お願いします」


 いや、童顔のアデライド殿下ならいいのかもしれんが。


 ダメだダメだ。

 魔法でもないのに惑う男が出てくる。


 というか、隣でやってる私の悲惨さが浮き彫りになる。


 あぁ、もういいもういい。

 この際殿下は無視しても、レディ・ド・ブロイの視線に耐えられん。


 この話はもう終わり!


「さぁ! 先を急ぎましょうか! 殿下!」

「はい! お姉さま!」

「マジでやめてマジで」


 今度は姉になってんのかよ。


「行ってらっしゃ〜い。危ないから気を付けてねぇ〜」


 黙れよ色ボケジジイ。











「いいか。ミューズィンガーあたりまで行ってくれ」

「承知しました。そのあとは?」

「あなたはもう自由です。馬車も適当にお捨てなさい」

「殿下……!」

「これ以上私たちに関わっていては危険です。

 どうか安全に、生きて。


 そして、家族のもとへお帰りなさい。

 顔を見せて、一緒に暮らして。


 私たちにはもう、難しくなってしまったから」


「殿下……!」

「さぁ、行って」

「もっと、ずっと、お仕えしとうございました」

「生きていればまた会えます。

 むしろ最後に危険なことを頼んでごめんなさい。


 せめてのお詫びと餞別に、これを。

 路銀になさってください」

「殿下にお仕えできて、幸せでございました! このご恩は忘れません!」


 ベルノの城門。

 アデライド殿下御用の馬車が、南方を目指して走っていく。

 車内には誰も乗せず、馭者1人で。


 彼は囮だ。

 殿下の行方(ゆくえ)を撹乱するための。


 殿下は当初このやり方を悲しんだが。

 今は決意して、ガーネットのブローチを贈られた。


「さて、我々も出発いたしましょう。

 殿下。鎧の硬い背中ですが、しっかり捕まってください」

「はい」


 で、私たちはこれから馬で、ドミニク殿下やアネッサとの合流地点へ。

 殿下は御苑内での軽い乗馬のみ、レディ・ド・ブロイは一切の経験なし。

 それぞれ私と別の従者の後ろに乗ることに。


「飛ばします! ハイヤッ!」



「「「「「殿下! お気を付けて!!」」」」」



 大所帯で逃げるわけにもいかない。

 逃亡をカモフラージュするためには、()()()()()()にしておくのもマズい。


 城に残る従者たちに見送られ、開けてもらった門から飛び出す。


 馬で思いっきり風を切る感覚は、私にとっては久しぶりだが。

 あまり興奮して、殿下を振り落とさんようにせねばな。


「あっ、あのっ!」


 背後から聞こえる声は、やはりちょっと震えている。


「なんでしょう」

「どうしてミューズィンガー、南を指定したのですか?」

「あぁ」


 割とどうでもいい話だが。

 だからこそ、気を紛らわせるにはちょうどいいんだろう。


「今から我々が向かうのは西です。それなら東へ向かわせた方がいいのでは?」

「いえ、殿下。

 追っ手もいつかは『囮である』と勘付く。

 そのときこう思うでしょう。


『これは本当に逃げた道を誤魔化すためのものだ』

『となれば、おそらく南の逆である北か、途中の分かれ道の逆を行ったはず』


 と」

「なるほど! 西とは逆ですらないからこそ!」

「そういうこと」

「『好きの反対は嫌いではなく無関心』と言いますものね!」

「ん? まぁ、騙し合いのミソは、騙すよりも誤解させることです」



 その作戦が効いたか、そもそも追っ手が出ているのかも知らないが。






 日暮ごろ、私たちは無事カルツァーヌへ到着。



「フュうううちゃあああんん!!」



「慎めアネッサ」


 ドミニク殿下、アネッサと合流に成功した。

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