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202/203

おそらく一番効果的な使い方

「はい、フューちゃん。ハチミツ湯」

「いたのかアネッサ」

「フューちゃんがいるところになら、私はどこにでもいるよ」

「前線で指揮を執るよう言っておいただろうが。

 重大な軍規違反だぞ」

「フューちゃんが甘え声で妹をする。

 それは私にとって全てに優先されるのです」


 いつかアネッサのせいで負けそうだ。

 今のうちに目を潰しておいた方がいいかもしれん。


 まぁ、それはあとでいい。


「でもハチミツ湯いるでしょ? ちょっとでも回復しないと」

「それは、そうだな」

「私、気が利くから! むふーっ!」

「次は視野を広げてくれ」


 しかし事実、私はすぐにでも回復しなければならない。

 糖分と魔力の相関は知らんが、ないよりマシだろう。


 というのも、


「……」

「ほら早く♡」


 やはり今目を潰した方がいいかもしれん。


 左にいるのがアネッサ。

 右を向くと、そこには男の騎士がいる。


 白十字王国西方方面軍でもない、

 フルール王国側でもない、


 ベルノ騎士団の鎧を着ている。


 盗んだ? 死体から剥ぎ取った?

 違う違う、人聞きの悪い。


 彼は御殿を攻略したとき捕虜にした男だ。

 正当な経緯(?)で入手したものさ。



 で、私が今回の戦で勝つため、

 膠着状態を打開するために編み出した策。


 単純だ。

 もうお察しの方もいるだろう。



「じゃあお兄ちゃん♡


 次のターゲットを呼んできて♡」



 捕虜が敵兵と見分けられないのをいいことに、偽の伝令に仕立て上げたのだ。


 そして敵の騎士団を


『少数ずつ』


 騙して切り離し、こちらまでやって来させ、



「じゃあ他のお兄ちゃんお姉ちゃんたち。

 来てもらったところ()()でゴメンナサイなんだけど、


 前線に行って、私たちの味方を助けてあげてほしいの」



 洗脳し、寝返らせる。


 敵の戦力が減り、その分味方は増える悪魔の戦法だ。

 倍々ゲームで戦力差が開いていく。


 今日の戦場は魔力に溢れる一騎当千が無双できる環境ではない。

 鮨詰めで泥臭い近接の団体戦。



 つまり数が勝敗に直結する。



 洗脳は引き入れた直後の相手を戦力にカウントできるのがいいよな。

 ただの捕虜だったらこうはいかん。裏切るかもしれない。


 しかもこれは内戦だ。

 将来味方になってもらわねばならない人材を、殺さず済むのも非常にいい。


「もっと早くこの手が使えたらよかったんだがな」


 さすがにここまで()()()()()()()なら、多少の恥や魔力は惜しまない。

 が、


「でも普段の野戦じゃ難しいよ。このいち騎士団規模でも、楽ではないんでしょ?」

「それは、な」


 条件を揃えるのが案外難しかった。


『一定の数を隔離できる地勢と手段』


 がなかなか難しい。


 何もない原っぱだと分断が難しかったり、丸見えだったりする。

 そもそも喚声悲鳴金属音の中で、どれだけ私の声が聞こえるものか。


 数万人とかを洗脳するスピーチってのは、期待値が低い。

 まず途中で弓矢に(たお)れるだろう。



 でも、建て物内での戦闘とか、少人数すぎる区切りもな。

 いつもの


『門番を洗脳して通してもらう』


 とかならいいんだが。

 そうでないなら、いちいち説得するより倒した方が早い。

 基本いつも何かを急いでいる戦場なので、余裕がない。


 と、言い訳を用意したところで、


「さて、次の獲物に備えないとね」

「あぁ。だが、ほどほどにせんとな」

「疲れるから?」

「フルール軍以外にも『定期メンテナンス』が必要なヤツを抱えすぎてみろ。

 人類史上初、脳が内側から破裂して死ぬ」

「結局『疲れる』ってことだ」

「それはそうなんだが、雑にまとめられるとな」


 またやらない理由が増えた。

 もうちょっとやるけど。











 少しずつ敵騎士団を削り取っていく。


 さっきノリノリで


『倍々ゲームで戦力差が』


 とか言っていたが。



 正直、時間は掛かるものと思っていた。


 洗脳してから次の騎士団が来るまでインターバルがあるしな。

 一度の数にも限度があるし。


 だが、明日以降の展開には響いてくるはず。

 何より今日を負けない効果が高い。


 そういう投資のスタート的な気分でいたのだが。


 意外なところに効果はあるもんで。



 まだ夕方にもなっていないが、そろそろ1日の下り坂を意識しはじめる時間帯。


 私のおかげか知らんが、前線の速報が


『拮抗状態』


 から


『味方がじわじわ押している』


 に変わった頃。


「よし! 夜戦までには流れを決めるぞ!」


 なんてアネッサと()()()()()いたのだが(ていうかオマエは前線に戻れよ)。



 それから1時間もしなかったと思う。

 またも前線から早馬(はやうま)が来た。


 曰く、



「敵方が撤退していきます!


 お味方の勝利です!」



「ほう!」


 唐突な決着があったのだという。


 正直疲労もあって、まだ洗脳した騎士団は3つ。

 数にしちゃ1,500いるかどうか。

 一気に戦況を動かせるほどの実感はない。


 あ、でもひとりでこの人数を減らしたんだぞ?

 大偉業なんだからな? 私偉いんだからな?

 頭死ぬほど痛いぞ。



 グチはさておき。

 相手方は


『死んでも戦わないヤツはオレが殺す』


 とか言い出しそうなハインリヒを戴いているのだ。


 多少流れが傾いたくらいなら、むしろ


『せめて報告できる体裁にはまとめねば!』


 と、踏みとどまると思ったのだが。


 意外な幕切れだった。



 その後の経過については。


 勝つのはもちろんいい。

 戦闘が早めに片付くのも当然いい。


 だが逆に言えば、敵をコテンパンに叩けたわけじゃない。

 総崩れさせたわけじゃない。計画的撤退だ。


 戦闘開始まえに、なんなら一番意識していた



『野戦の勢いそのまま、拠点まで落としてしまう』



 という展開には至らなかった。

 そこは少し不満が残る。



 その晩、どうしてそうなったのか捕虜に聞いてみたが(洗脳した捕虜ではなく、相手の撤退時に普通に捕らえた正気のヤツ)、


 どうやら



『指揮官が宮殿から戦場を見下ろしていた』


『すると指示もなく勝手に移動していく部隊が散見された』

『迂回して敵陣へ切り込んでいくので、優秀な団長の現場判断かと思っていたのだが』


『しばらくすると敵側に加わって味方に攻勢を仕掛けている!』


『複数となると、味方全体にマズい流れが蔓延していることになる』

『一度仕切りなおさねば、大変なことになる』


『そういう経緯で撤退を判断したらしい』



 とのことだった。











お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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