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サリーとアンとコンコルドと妹

「と申しますのは」


 副官も同じように前後を確認するが、特には思い当たらないようだ。

 エッシェンバッハはというと、耳元に手を立てている。


「やっぱり」

「教えていただいてよろしいでしょうか?」

「うん」


 確信を得た指揮官は、確実な情報として部下に伝える。

 それでもアゴに手を添えてはいるが。



「ここまで一切味方が合流してこなかったし、


 続いてくる気配もない」



 今度はリアクションを待たず、エッシェンバッハは続ける。


「僕らは


『好機を捉えるべく遊撃隊として動け』

『別働隊の増援に迎え』


 って指示を受けたはずだ」

「御意」


「僕らだけなのか?」


「……確かに」


 副官はもう一度振り返る。

 といっても第六騎士団の面々で何も見えないが。


 しかし、エッシェンバッハを真似て耳を澄ませるも、


 遠い喚声が聞こえるのみ。

 こちらへ近付いてくる足音の(たぐ)いは一切ない。


「好機であり、勝ちに行く乾坤一擲の策であるならば。

 もっと戦力を投入するべきだ。

 僕らだけ行かせてなんになるというんだ」


 なるほど、疑問を持つにはじゅうぶんすぎる違和感だろう。

 特に(いくさ)の潮目を見極める男には、この


『手落ち』


 は見過ごせないものがある。


 だが一方で、


「もともと拮抗していたのです。お味方優勢というのも、我々は感じていなかった。

 他の部隊も動かそうとしたら、押し返されかけてやめたのでは?」


 全ての軍人が高いレベルにいるわけではない。


『鉄鹿』のような怪物もいれば、クレマン・フォン・ツィマーのようなモミアゲもいる。

 フューガ・フォン・ミュラーなど評価対象外の珍獣である。


『全員が高い視座・正しい見識で判断し、戦場では常に最適解がぶつけ合われる』


 そんな幻想を、ある程度現実的目線に落とし込むのが副官の役目でもある。


「あるいはこちら、別館へ来たのは我々のアドリブです。

 本来の命令は


『御殿を攻撃せよ』


 だった。


 本館の奪還作戦に参加しているのでは?

 むしろこちらへは来ないのが当然です」


「確かに」


 エッシェンバッハはアゴに手を添えたまま頷く。

 あり得るというか、普通に考えればそうなるのだから。


 彼らはときに、いわゆる


『自分ができるから周囲もできると思い込み怒る、指導に向かない上司』


 状態に陥り、『サリーとアン課題』めいた勘違いを起こしたりする。


 皆さまもぜひ注意されたい。


 あとツィマーがフューガによくキレられているのは、ツィマー側のレベルの問題である。


 それはさておき。


「よし。じゃあ味方が後方で支えているうちに、僕らが戦いを終わらせよう。

 彼らの努力、献身、犠牲。無駄にしてはならない」


「「「「「おおおおーっ!!」」」」」


 第六騎士団は改めて前進、突撃への方針を固めた。


 ここまで来ると逆に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれない。


『副官が前進ありきで意見を補強している』


 と。


 それはおそらく『コンコルド効果』というものだろう。


 簡単に言えば



『ここまで来たのに途中でやめたら()()()()()()



 である。

 今までの時間や投資を惜しみ、計画が傾いていてもやめられない止まらない。

 邪悪なかっ◯えびせん。


 そのうえ彼らの目の前には、



 この戦争を終わらせられる、黄金のニンジンがぶら下がっているのだ。



 進みたい。進むしかない。

 キレイな言い換えをするなら、


『自分たちの危険と天秤に架けて、逃す未来が大きすぎる』


 だから彼らはこのようなことを言い合う。


 このように()()()()()()状況でなくとも。

 そもそも戦場に出れば、命の危機は訪れるのだ。

 戦闘の最中の判断だけでなく、まず向かうのに勇気がいる。


 ときに彼らに必要なのは、

 森羅万象を見通す目ではなく、

 国士無双の神の一手ではなく、


 自らを奮い立たせる言葉なのだ。



 だが戦争はロマンではない。



 この戦場にいないあなただからこそ分かるだろう。


 いくら言葉で飾っても、


 冷静な事実の把握を武器にしてきた者たちが、それを捨ててしまったならば。











「迷路を抜けてからも長かったな」

「長かったというか、どのみち迷宮じみていたというか」


「だが諸君! 別館はもう目と鼻の先だ!

 存分に……」



「団長! アレを!」



「ん?」

「アイツは……」

「あのハルバードは!」

「間違いない!」



 その先には、待っているのだ。




「女の子を待たせるなんて、いけないんだぁ、




 お兄ちゃんたち♡」




 人々を破滅の水底(みなそこ)へ引きずり込む、セイレーンの歌声が。











 皆さんお元気か。フューガ・フォン・ミュラーだ。

 忙しいので名前芸(?)は割愛とする。


 というかネタが尽きるので廃止とさせていただく。

 長年のご愛顧ありがとうございました。


 おう、この作品ももう完結していいぞ。

 だからもうこれ以上ページをスクロールしなくていい。

 こら、やめろ。


『今日はいつもに増して荒れているな』


 って?

 分かるだろ?

 言わせるな。


 やめろ。

 読むな。

 見るな。

 聞くな。



「お兄ちゃんお姉ちゃん! 協力してくれてありがとう!」


「いやいや、なんのなんの♡」

「かわいい妹のためだから♡」

「投げキッスで手を打とう♡」

「はぁ!?」

「殺すぞ!」

「人の妹をそういう目で見てんじゃないわよ!」

「吊るせ!」


「内ゲバしないで〜」



 御殿別館、正面玄関前。

 両殿下の神聖なるお住まいの御前にて。


 誰も幸せにならない大惨事が起きているからな!


「君ら、いったいどうしてしまったんだ! おい!」

「ちょっと寝ててね♪」

「ぐえっ」


 ちょっと危ないところだった。

 この指揮官、魔力が強く、消耗もしていなかったようで。

 悪魔の妹魔法1発で落ちなかった。


 だが敵は騎士団。

 部下の方を落としてしまえば、拘束させるのは()()()()


『そのまえに反撃されなかったのか』


 って?

 私は負けんよ。


『危ないところだった』


 っていうのは、戦闘じゃなくて正気の人間に痴態を見られたからだ。


 でも今頭を強く殴って気絶させたからな。

 次は掛かるさ。

 ついでに記憶も飛んでいるかも。


 まぁ念のため、目が覚めたらネチネチと消耗させるが。

 最初ので死んでおけば、苦しまずに済んだものを。

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