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母の常、人の常

『国母』ってのは、そのときその代の国王を産んだお人だ。

 つまり目の前にいらっしゃる中年女性は、


 先王の妻、皇太后であり、



 我らが怨敵、ハインリヒの母上であらせられるお方だ。



「そうはおっしゃられますが。

 あなた方は今、ハインリヒと争っておられる反乱軍。

 私たちの敵でございましょう」

「その敵でもなんでもなかった、同じ国家の私たち。

 それが切り分けられ、争う現状をこそ終わらせたいのです。

 あなたとだって争いたくはない」


 もちろんウソ偽りない本音だ。

 が、



「私と争わず手中に入れ、人質となさるおつもりなのでしょう?」



 当然その意図はある。

 今この瞬間にあっては、9割くらいある。


「お切りなさい。さもなくば窓から飛び降ります。

 息子の(かせ)になりたくはありません」


 うーむ、困ったぞ。

 無理矢理取り押さえて連行することはできる。

 飛び降りを阻止するのだって、私のフィジカルなら朝飯前だ。

 今は夜食の時間だけど。


 だがなるべく、同意の上でお連れしたいところだ。


 別に人道的なナンタラじゃない。

 相手が本当に死ぬ気なら、今ここで止めても無駄だ。

 あとでいくらでも舌を噛めばいい。


 それに、人質や捕虜ってのは、結局味方の懐に収容するわけで。

 脱走騒ぎならまだいい方。

 獅子身中の虫になられたら目も当てられん。


 ここはやはり『味方』として引き入れたい。


「融和的なことおっしゃいますが、ハインリヒは別でしょう。


 あなた方からすれば不倶戴天の敵、国家の大罪人。

『殺さずに収める』などと言われるのであれば。

 そちらの方が、よほど信用に(あたい)しません」


 いや、いちいち()()()()()ではあるんだが。

 それ以上に


『結論が決まっていて理屈を足している』


 人の()()だ。

 こういうのは


『理屈じゃないから説得不可能』


 か


『根拠はないから割とアッサリ』


 のどっちか。

 なんにせよ、理屈はあってくれた方が助かるんだがな。

 そこをひっくり返せば終わるんだし。


 あ?


『妹魔法でイチコロだろ』


 って?


 アレは時間制限付きの洗脳だ。

 放っとけばそのうち切れる。

 そしたらまた掛けなおし、定期メンテナンスの手間が掛かる。


 いや、決して自身の誇りのために言い訳しているんじゃない。



 これでも定期的に、フルール軍の兵士たちが


『なんでオレたち他国の内戦に命を懸けさせられてるんだ』


 って我に帰らないよう、妹リサイタルしているんだ。

 さすがにこれ以上は勘弁してくれ。


 いくら鑑定ババアお墨付きの『魔力無尽蔵』ったってな。

 限度はある。

 これ以上は戦場で臨機応変に使う余裕がなくなる。


「あなた方には、いえ、世界にとってはそうでも。

 私にとっては、息子なのです」

「息子、ですか」


 親の子に掛ける、言い方があってるかは分からんが


『執念』


 ってのは、並々ならんからな。

 私もレディ・ド・ブロイの相手でよく知っている。


 だが。


「私は母になったことがないので分かりません。

 母親としてハインリヒ王を


『愛する長男を殺せど愛する息子』


 と思えるのか、本当はこらえておっしゃられるのか。


 ですが、子ではあったので分かります。

 子とて親を慕うものです。


 マルグリット殿下すら葬ろうとした王が、皇太后陛下には手出しなさらないように」

「それは私が王位継承の立ち場にいないからでしょう」

「影のフィクサーとして辣腕を振るう例は数多ある。

 それでもです」


 エレオノーラさまは


『何が言いたいんだろう』


 って顔をしている。

 迂遠な説得になっているが、それでいい。


 微妙に分からない話をされている方が、聞く耳を持つからな。

 意固地な相手に正面から行くと、そのまま衝突するもんだ。


「ですので私も肉親の情は分かります。


 ですがあなたは国母です。

 ただの母、ただの個人ではありません。


 国の母であり、国民の母です。


 どうか私たち子らの慕う気持ちに、お応えいただけませんでしょうか」


 こうなったらもう、


『大丈夫ですよ』

『こうした方があなたにとって得ですよ』


 みたいな()()()()()()はナシだ。


 王族としての矜持に賭ける!


 あのハインリヒの母だが、フリードリヒ殿下の母でもある。

 可能性、なくはないだろ!



「ミュラー卿、あなたはそうかもしれませんが。



 あなたが戴く主人(あるじ)たちは、そうではないでしょう」



 お?


「フレデリカ、ドミニクは私がお腹を痛めた子ではありません。

 しかして国母に対する『国民』の枠でもなく。


 そのうえこの戦いが終わり、あの子らのいずれかが王位に就いたなら。

 私は邪魔者でしかありません。


 それが『私を慕う』と?」


 ……


 ……………



 はっはぁぁ〜ん。

 なるほどなるほどぉ〜。


 そうか、アレかぁ。


 散々理屈並べといて、



 両殿下にイジメられないか怖いんだな?



 自分の方は


『憎い(めかけ)の女とその子どもたち』


 って散々イジメた自覚があるもんなぁ?

 復讐されると思ってるわけだなぁ?


 それならまだ、さっき私が言ったとおり。

 ハインリヒといる方が、イジメられはしないもんなぁ。


 なんだなんだ。

 読みは外れたが、よっぽど私たちと同じ小心な俗物じゃないか。

 やりやすくて助かるじゃないか。


 だったら、こういう手合いの説得は簡単だ。



「でしたらマルグリット殿下にお会いになれば分かりますよ。

 我々が鉄血より保護してから、少し()()()()なされました」



 まぁ私の知るかぎり、そもそもマルグリット殿下にはイジメられていないが。

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