表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/148

まぁ大抵の問題より家庭の事情の方が大変なものである

「それは、マズいことになったな」

「マズいことになりましたね。

 あぁ、シェフには


『今夜のスープもおいしゅうございました』


 と伝えてください」


 アンヌ=マリーが給仕の方を振り返る。

 そんな誤解があったかは置いといて。



「『だから私だけ食事に呼んだ』



 そういう解釈でいいか?」

「ええ、そのように」


 アンヌ=マリーが口元をナプキンで拭っていると。


 ワゴンに載せられチーズが運ばれてくる。

 食事は修道女らしく質素だったが、フロマージュは()()()()いただくらしい。


 彼女の視線はそちらに奪われながらも、


「その返事ができるということは。



『何がマズいのか』正しく理解できている、



 という認識でよろしいですね?」

「うむ」


 この持ってまわった言い方。

 やはり私がイメージしたのと同じ絵図が、アンヌ=マリーの頭にもある。



 何も、白十字王国と戦争になるのがマズいのではない。


 それは今までもずっとそうだった。

 今は彼女自身がゼネヴォン統治に心を砕いているから、小休止になっていただけ。


 戦争を歓迎はせんが、『悪化』ではなく『元に戻る』だ。


 まだ騎士を辞めて数ヶ月。

 変な話、我ながらそこの肝は据わったままだ。



 また、負けることも考慮しなくていいだろう。


 こちらも以前と同じ、アンヌ=マリーとモミアゲのマッチアップだ。

 結果は誰もが知るところ。


 一方的なコールドゲーム

 が宣告される直前、私が雨を降らせてノーゲームにしたようなものだ。


 で、今回は私もフルール側にいる。

 もはや負ける方が難しい。

『負ける』と少しでも不安になる方が難しい。


 だからアンヌ=マリーも


『マズいことになった』


 とか言いつつ、シェフをフォローしたりチーズに気を取られたり。

 全然余裕そうな態度でいられるのだ。

 余裕を通り越して()()()


 じゃあ何がマズいって言ったら、



「バレんようにせねばな」

「いずれはバレるでしょう」



 アデライド殿下だ。



 その片鱗はすでに出ている。


 このまえのモノ=レジーヌ攻防戦を非常に嫌がったのだ。



 自分の身柄を争って、

 祖国に大きな戦が訪れると思えば。



「脱走、はー、する、まいが」

「本当に?」

「断言は、できん、な」



『私の身を差し出せば、戦いは回避されるのでしょう!?


 ハインリヒ兄さまのところへ参ります!』



 言われたこともないセリフが鮮明に浮かぶ。

 耳元で言われていると錯覚するくらいだ。


「むしろ王位継承で邪魔なのは男系のドミニク殿下だ。

 お一人だけ行かれても仕方あるまいに」

「そういう問題ですか?」

「そういう問題ではないけど」


 とにかくモミアゲごときより、よっぽどアデライド殿下に注意せねば。


「これでも異国の姫君なんだ。

 いっそパルディエンヌあたりにでもお招きいただけないのか?」


 パルディエンヌはフルール王国の首都だ。


 本来ならとっくに移送させられていてもおかしくない。

 というか普通はフルール国王に謁見するべきであって。


 だが『亡命してきた美姫』という立ち場だ。

『敵国から奴隷用にぶんどってきた乙女』ではないが。


 ある程度好奇の目が向けられるだろう。

 それこそゼネヴォンで塔に籠る以上の晒し者だ。


 それをアンヌ=マリーが気遣って、


『西方の侵攻と統治に使えるから』


 と中央に言い訳し、留め置いてくれているのだ。


「宮殿へ行かれるのですか?」

「前線からは遠いしな。背に腹は変えられん」

「別に善意だけでなく、利用価値としても残っていただきたいのですが?」

「ドミニク殿下がいらっしゃる。

 第一、アデライド殿下は乗り気でないからな。

 そっちのお偉いさんから


『利用価値がない』


 とか言われるまえに、さっさと参上した方が印象もよかろう」


 殿下と戦争がデリケートなら、引き離すのが一番早い。

 火元には可燃物を置かないことだ。


 しかし、


「得策ではないですねぇ」


 アンヌ=マリーは薄く笑う。

 目は笑っていない。


「あなたは使えるでしょうから」

「む」


 それはつまり、


 殿下の傅役としてパルディエンヌに上がっても、

 私だけゼネヴォンへ返される


 ということだろう。


 実際私まで中央に置く意味はないしな。


 どころか白十字王国軍に詳しく、英雄『女熊』でもある。

 自分で言うのもなんだが、


『世界征服が終わるまで前線にいろ』


 とでも言われかねない人材だ。


 いやさ、私も槍働きで上がってきた生粋の騎士ジャンキーだ。

 殿下のためなら()()()()ではないが。



 祖国を追われ、フルール王国の首都で独りぼっちになったら。


 いよいよ殿下は病んでしまわれるだろう。



 レディ・ド・ブロイも一緒に行けばいいのかもしれないが。

 彼女には悪いが、


『いざというとき頼りになる人間』


 がいないことに変わりはない。


 立ち場の弱い若い女が、女好きの国で無防備。

 前線より危険だ。


「『あなたが殿下の側にいるべき』


 というより、


『殿下があなたから離れるべきではない』


 のです。


 となれば。

 アデライド殿下は花壇でも鉢植えでも、どこへでも飾れましょうけれど。

 あなたのような大木はやはり、庭に植えられる。


 都合の利く方が合わせるべきです」


「ふーむ」


 本来切り分けて食べるべきチーズのブロックを、

 アンヌ=マリーはカッティングボードごとテーブルに移す。


「困ったな」

「困ったでしょう?」


 だが戦は避けられんだろう。

 こちらがいくら不戦主義でも、仕掛けられたら戦いだ。


 で、そうならないための通告が来ているわけで。

 その戦争回避の最終手段を、蹴ることは決まっているのだから。


 となると、


「アデライド殿下にご満足いただける戦にせねばならんな」

「そんなものありますか?」


 アンヌ=マリーのチーズをスライスする手が止まる。


「あるともさ」


 彼女は何も悪くないが、この場に漂う


『行き詰まった感』


 には飽きた。


 ご退場いただくべく、自信満々に返しておくか。



「私にならできる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ