到着
こんにちは‼
貴族や富豪が利用する、豪華な竜車に揺られること五日、チノとケイトの二人はリリアと共に、ベルン伯爵家が治める都市、水上都市ハイフォルベルンへとたどり着いた。
ここハイフォルベルンはローグル王国が誇る湖、ベルン湖の浅瀬に作られており、都市が湖に浮かんでいるように見える。
このハイフォルベルンが水上都市と呼ばれている由縁だ。
水路が都市中に引かれ、移動には船を利用する事もでき、生活の一部になっている為、ハイフォルベルンに住む住人にとって、湖の水は無くてはならない大切な物だ。
都市に入るための門には、観光に訪れた国内外の人々が、湖に架けられている橋に長蛇の列を作っており、入門審査の順番を待っている。
その列の横を、竜車に乗ったチノ達が素通りして行くと、ハイフォルベルンに住む住人や兵士達が、竜車が通り過ぎるまで頭を下げていた。
「うひゃー、リリア様すごいねー」
竜車に取り付けられた小窓から見える光景に、チノが驚きの声をあげている。
「フフフ、代々ベルン家は、湖に住まわれている、ベリガ・メリシュルム様に仕える巫女の家系として、ベルン湖の管理を任されておりますの」
「ベリガ・メリシュルム様?」
「何処かで聞いた様な気がするんだけどなー」
「勇者のお話にも出ておられますわよ」
「あー!もしかして、なん百年も前に現れたっていう魔王を倒した、勇者様の仲間の水魔法使いの女の子!?」
「ええ、その通りですわ」
「しかし、リリア様が言っていた、代々仕えるとは、どういう意味なんだ?なん百年も前に生きていた人なら寿命で生きてないだろう」
「フフフ、まだ生きておられますわよ。勇者様の物語に出ていた女の子の正体は、ベルン湖を御守りになっている水龍なのです」
「うそ!?そうだったんだ、私の知ってる絵本じゃ、女の子として出てたから、ビックリだよ」
「なるほどな」
「フフフ、そろそろ街に入りますわよ」
「うわぁ、綺麗だねー」
「ああ」
湖と街が一体化した街並みは、水路を行き交う船と水生の亜人種で賑わい、石畳で舗装された道には、お洒落な建物が並んでいた。
この世界では珍しい街並みを楽しみながら行くと、ようやくベルン伯爵の屋敷に到着した。
屋敷と言うよりも、神殿の様な城というのが正しいだろう。
大きく立派な造りの白亜の城は、白い柱が幾本も並び、広すぎない庭には色とりどりの草花が生い茂り、城の中程から湖になっている。
「でっかいねー」
「ああ、すごいな」
竜車から降りて、城を見上げていると、庭の方から水着の幼女が駆けてきた。
「帰って来るの早いしぃ、ヒルトと喧嘩したしぃ?」
「メル様、ただいまですわ、喧嘩して帰ってきた訳ではありませんので、ご心配なされなくても大丈夫ですわ」
「なら良いしぃ、二人は誰だしぃ」
「お二人は、ヒルト様に協力して下さっている、チノさんとケイトさんです」
「へぇ~、ヒルトの女かしぃ」
「違うよ!」
「リリアも大変なんだしぃ、結婚前に愛人を紹介するとか、ヒルトには、がっかりなんだしぃ」
「違うってば!」
「違いますわよ、この方々はヒルトの友人の伴侶になりたいと、一緒に勉強をする事になりましたの」
「なるほどだしぃ」
「そういう事だから、よろしくねー、って話聞いて無い!」
メルと呼ばれた幼女は、自分が納得すると、直ぐに何処かへ駆けて行き、姿が見えなくなった。
「げ、元気な妹さんだね」
「違いますわよ、あの方こそ、ベリガ・メリシュルム様ですわ」
「な!あの幼女がか?」
「ええ、なんでも、ショウ・エネェーをするために、特別な時以外は、あのお姿をされているそうです」
「「ショウ・エネェー?」 」
こうして、チノとケイトの花嫁修行が始まった。
その頃、カケル(チャック)はというと。
「という事がありまして、お嬢様方は、ハイフォルベルンにて、ハナヨメシュギョウなる物を始められるそうです」
「ブハ!!!」
「主、どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもない、その調子で頼むわ」
「畏まりました」
二人がそんな事になっていたとは知らず、クロームからの報告聞いたカケル(チャック)は、置いていった事に後悔した後に、盛大に吹き出していた。
(いやいや、二人やったらありやし、ええんやけど、二人の気持ちが重い)
「やっと戻ってきたのかい、貯まってるんだったら、アタイに言ってくれれば良いのに」
イゾールの冒険者ギルドの前で、堂々と言いきっているのは砂鳥の一人だったジルだ。
トイレに行くと言って、クローム報告を聞いていただけなのだが、何を想像したんだか。
既にイゾールに到着していたカケル(チャック)は、他のメンバーとは別れて、一人でイゾールを観光してから、王都に向かう予定だったのだが、砂鳥のパーティーメンバーだったジルが、半ば無理矢理カケル(チャック)に付いてきた。
「やから、俺には相手が居るって言ってるやろ」
「いいじゃないか、その子達の為にも練習しとかないと」
「はぁ、その練習したら、後が怖いしやらへんって、てか、そもそも何で俺に付いて来るんや」
「その事かい?強い雄と子孫を残そうとするのは当然じゃないのさ!」
「ば!」
「そういう訳で、アタイはカケルに決めたのさ・・・という訳で、練習ついでに子孫を残さないか?」
「残さねーよ!」
言っても聞かなさそうな、肉食系ウサギの事は早々に諦めて、ジルの道案内でイゾールを観光する事にした。
イゾールはローグル王国の貿易の中心地だ。
国内外から集まった物を一度イゾールに集め、王都へと運んでいく。
その為、この街には一旗上げようと田舎から出てきた者や、それを狙うアウトローな集団がいて、イゾールの一区画は、無法地帯の様になっている。
そんな一面を持つイゾールだが、その無法地帯を除けば、手に入らない物は無いと言われる程、様々な店が建ち並び、商人達が自分の客を取られまいと競い合い、煩すぎるほど賑やかだ。
色々な店を見て回り、少し疲れた俺達は、ジルがイゾールに来ると必ず行くという店で休憩しようと、路地に入って行った。
細い路地を縫うように進んで行くと、お目当ての店にたどり着いたのだが、何やら騒がしい店の様だ。
「結構賑やかな店みたいやな」
「おかしいねぇ、何時もは静なんだけど」
「へぇ~、とりあえず入ってみるか」
ガシャン!!俺達が店に入ろうとした瞬間に、店の窓を突き破り、何か大きな物が飛び出して来たと思ったら人だった。
「どうしたってんだよ、マスター」
「ゴホゴホ!ジルちゃんか、情けない所を見せてしまったね」
「それよりさ、大丈夫なのかい」
「あ、ああ、大丈夫、大丈夫」
「大丈夫て、どないしよったんや、おっさん、ただ事や無いやろ」
窓から飛び出してきた店主の様子を見ていると、店の中から、いかにも脛に傷のありそうな野郎がゾロゾロと十人出てきた。
「ああ!知り合いか!?」
「いえ、この人達は偶々通りかかっただけの人です」
「そんな事はどうでもいい!!ネェちゃん、良い身体してるじゃねぇか、おっさんの借金を返すのに手伝わねぇか?」
「借金?」
「そうなんだよ、このおっさんに貸した金を返さねぇんだよ」
「あのお金は既に返したと言ってるじゃないですか、この人達には手を出さないで貰えませんか」
「はぁ!?知らないなぁ、この紙を良く見てみろよ、全額返せてねぇだろ?ああ!?」
ガラの悪い男が見せてきた借用書には、大きく幾ら貸して一週間の利子は幾らと書いた所とは別に、借用書の保管費用として毎日金貨10枚と書いてあった。
とても小さく、文字の中に紛れ混ませているので、注意深く読まないと気が付かない様に偽装されている。
「そんな説明無かったじゃないですか、そんな風に書かれていたら、誰も気付きません」
「書かれてるもんは、書かれてるんだよ!契約魔法で契約しただろ!?これは絶対なんだよ」
「ゴチャゴチャとうるせぇ!!」
「あぁ!?なんだ、兄さん、文句があるってのか!?」
「さっきから聞いてたら、キャンキャン鳴きやがって。おっさんは契約する時、小さく書いてある方は、気が付かなかったし、契約の内容も、聞いて確認したんやな?」
「ええ、契約する時、どういう契約か詳細は聞きました」
「ほな、その契約はあんたらのミスやないか?」
「ミスってなんだよ!?この借用書にはしっかり書いてあるだろうが」
「説明不足や、説明不足、おっさんが聞いた時に、ちゃんと答えへんかった奴が悪い。アンちゃんらには悪いけど、借用書を置いて、帰って貰えんやろか?」
「バカ言ってんじゃねーぞ、お前らやっちまいな!」
ガラの悪い男達が、ナイフや剣を取り出すと、一斉に襲いかかってきた。
それを的確に避けながら、一人が殴りかかってきたので、顔面で受け止める。
「なぁ、これで正当防衛成立やんな?」
「そうさねぇ、武器を出した時点で、よかったと思うんだけど」
「なんや、一発損したんかいな、ジルはおっさんの方、頼むで」
「はいはい」
それから、一瞬で決着がついた。
素人に毛が生えた程度の相手では、数秒しかもたなかった。
店の前に寝られても困るので、一人だけ起こして、即席の台車に気絶した野郎を乗せて帰した。
その後、散らかった店の片付けを手伝って、休憩しようとした時に、店のドアが蹴破られた。
いい加減に休憩させて欲しい。
読んで頂きありがとう‼
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ー情報更新ー
位置情報(話に出てきた町)
王都を中心に考えると、東の方角にハイフォルベルンがあるベルン湖と、国境になっている山脈がある。
南南東に行くと、トーストの町があり、カケルがゴブリンに襲われた川はベルン湖に続いている。
南の方にはイゾールとアンタソ村、アルトニアがあり、深緑の森が国境を跨いで続いている。
カケルは王都に向けて北上し、チノ達はトースト経由でハイフォルベルンへ向かった。




