常夏の楽園
こんにちは‼
透き通ったマリンブルーの海と、遠くまで続く白い砂浜。照りつける太陽は海を照らしキラキラと海を輝かさせている。南国の楽園の様な場所。
晴れ渡った空を見上げながら、チノは三日前にアルトニアから出て行った、カケルの事を考えていた。
カケルと二人でこの美しい海岸線を歩けたら。
チノは、何処までも続く海岸線を、想い人と手を繋ぎながら歩く幻想を見ていると、ケイトに呼ばれた気がしたので、振り向いた。
「チノ!そっちへ行ったぞ!」
「え!?」
ケイトの声で、現実に引き戻されたチノが最初に見たものは、自分に猛スピードで向かってくる、ウミウシの様な魔物だった。
黄色い身体に、赤紫の斑点が特徴の魔物で、体長は三メートル程にもなるこの魔物は、全身をヌメヌメとした体液で覆っており、頭部からは刀剣の様に鋭く鋭利な角が生えている。
そのウミウシの魔物が、角を前に出し、チノの直ぐ目の前にまで迫っていた。
反応の遅れたチノには、今から避ける事が出来ない。避ける事もウミウシの攻撃から身を守る事も出来ないチノは、数秒後に来る衝撃と痛みを覚悟してギュッと目を瞑った。
「アイスバインド」
チノにウミウシの突進が当たる直前、ギリギリ間に合ったヒルトの拘束魔法が、チノを狙っていたウミウシを地面ごと凍らせて、動きを完全に止めた。
チノが目を開けると、顔の数㎝前にウミウシの鋭い角があり、当たっていたら運良く助かったとしても、顔に一生残る怪我をしていただろう。
「あ、ありがとう」
「何度目だ、次は間に合うか分からないぞ」
「・・・うん・・・気を付ける・・・」
今、チノ、ケイト、ヒルトの三人は、アルトニアのダンジョン四十二階層に居る。
ここは常夏の楽園の様な場所で、透き通った海と大小様々な島で構成されている。
思わず浮かれてしまいそうな場所だが、島の密林には獰猛な魔物が潜み、海の中には虎視眈々と獲物を狙う魔物達が待ち構えている。
とてもじゃ無いが、チノが妄想していた様に、バカンスを楽しめる場所ではない。
カケルが二人の元から去って行った日から、チノは上の空だった。
今日だけでも何度も危ない場面があり、さっきの様に、助けて貰う事があった。
ケイトは逆に、カケルと別れてからは、より一層稽古に打ち込む様になり、ケイトの実力では危険な魔物と対峙しても、自分から挑むようになっていた。
そのせいで、ケイトの身体には常に生傷がたえない。
ヒルトはそんな二人を見ていて、痛ましく思っていた。
現実逃避をして何度も死にかけるチノと、少しでもカケルに近付く為に、無茶を続けるケイト。
二人とこのまま一緒にダンジョンに潜っていたら、近い内に二人が死んでしまう。
今まで運良く助かってきたが、それが何時までも続く訳が無い。
昨日もケイトが、密林に生息しているワータイガーと戦い、大怪我を負って生死の境にいたのだ。
それなのに今も、拘束魔法の溶けたウミウシの魔物と満身創痍の身体で戦っている。
チノがフラフラと無用心に海に近付き、魔物に襲われかけたのは何度あっただろうか。
ヒルトは一度、地上に戻る事にした。
このままでは、目的を達成する前に大切な友人の想い人を死なせてしまう。
「アイシクルレイン!」
ケイトの捨て身の猛攻に、弱り始めていたウミウシの魔物に止めの魔法を発動させると、小さな氷の弾丸が豪雨の様に、猛烈な勢いでウミウシの魔物に降り注ぎ倒した。
「一旦地上に戻らないか?四十階層の魔物は流石に手強い、ここで手に入れた素材で二人の装備を新調してはどうだろうか?」
「う・・・でも・・・」
「でも、どうしたのだ、チノ」
「・・・」
「俯いて黙ってても、分からないぞ、チノも武器が壊れているだろ」
「ぅぅぅ」
「ケイトもだ、薬もポーションも使いきってしまっているだろ?それに、怪我も」
「・・・ぁぁ」
「これ以上は、引きずってでも連れて帰るつもりだ、いいな?」
まだ、未練が残っている二人は、四十三階層がある方をチラチラと見ながらも納得し、ヒルトの意見に従う事にした。
何時もと違い、将来人々の上に立つ人物としての強さを見せられ、自分達の事を思っての事だと分かるので、二人はヒルトに何も言うことが出来なかった。
そして、二日かけてコロセウムに戻って来た瞬間、二人は極度の疲労と怪我が原因で倒れてしまった。
二日後、ようやく意識を取り戻したケイトは、完全な状態では無い身体で、稽古をしていた所を拘束され、次の日目を覚ましたチノは、コッソリとダンジョンに入ろうとした所を、偶々居合わせた冒険者に捕まった。
余りにも度が過ぎるので、急遽ヒルトがギルドに呼ばれ、事態の説明をする事になり、二人はヒルトの実家に軟禁されることになった。
そして翌日、チノが朝早く起きて、ヒルトの部屋に来たかと思えば、開口一番に「ねぇ、もう大丈夫だよ、サクッとジオトータスの昌洞卵を取りに行こうよ」と、ヒルトの元に元気一杯な声で言いに来たのだが、病人の様にやつれた顔をしているチノにヒルトが頷く事は無かった。
それから数日が経ち、だいぶ顔色の良くなった二人が、今日も朝からヒルトの部屋に、ダンジョン行こうと言いに来た。
「ねぇねぇ、何時になったら行くの?」
「そうだ、私達はもう大丈夫だ」
「目の下の隈と胸の傷」
「「うぅ・・・」」
あれから殆ど眠れていないチノと、ワータイガーとの戦いで負った怪我の事を言われて、二人は黙りこんでしまう。ここ数日はそこで話しが終わっていたのだが、今日はリリアがヒルトの部屋に来ていた。
「そうですわよ、お二人のお気持ちはお察し致します。ですが、無理をして二人が苦しむのをカケルさんが望んでいるでしょうか?」
「「・・・無い、」かな」
「でしょ、私もそう思います。ですので、お二人には少し間、私と一緒に修行をしていただきます」
「修行?」
「修行か、剣の稽古か?それとも弓か?」
「何を仰っていますの、花嫁修行に決まっているでしょう」
「「花嫁!?」」
「そうです、花嫁修業です。ヒルト様々から大体の事情は聞いております。話を聞く限りお二人はカケルさんに気があるそうで、カケルさんもそうでは無いかと聞きました。なので、お二人には気分転換も兼ねて、カケルさんが驚く様な女性になって頂きます。」
「カケルくんが!?キャーー!ちょっと、ケイト!カケルくんが、カケルくんが!」
「私には分かっていたぞ」
「フフフ、チノさんったら。ですので、宜しいですわね?」
「グヘヘヘェ~、!!、ゴホン!そ、そういう事でしたら、リリア様のご厚意に甘えさせて頂きます」
「花嫁・・・花嫁かぁ」
かくして、ヒルトの婚約者、リリアと共に花嫁修行をする事になった二人は、一度ヒルトの実家を離れ、リリアの実家があるハイフォルベルンへ行くことになった。
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地図って書いた方が書くとき分かりやすいのかな?最近、世界観とかを細かく決めた方がいいか悩み中。




