アンタソ村
こんにちは!
今日も変わらず、平和な草原に伸びた一本道を歩く一行は、進路上に見える厚い雲を見て、テンションが下がり気味であった。
「雨雲か?」
「みたいだねぇ、やだやだ、あたい達長耳族の女は水が苦手なんだ」
「そうなんや、泳ぎが苦手とか?」
「違うんだよねぇ、毛が濡れるのが嫌なんだよ」
「種族の違いってやつやな」
昨日の今日で、二人の関係は気まずくなりそうなものだが、二人の共通の秘密が出来たお陰なのか、昨日よりも仲良くなっていた。
二人共、昨日の事は綺麗サッパリ忘れる事にした様である。
そして昼頃、雨雲の下に差し掛かった一行は、雨でぬかるんだ地面に馬車の車輪をとられながらも、確実に前に向かって進んで行ったのだが、今日の目的地、アンタソ村の近くまで来た時、雲の動きにリンフォードが違和感を覚えた。
「止まれ!!トグサ、あの雲変じゃないか?さっきから動いてない」
「ん?まさか、そんな訳・・・ありそうだな」
「それに、雨に混ざって焦げた様な臭いがする」
「俺には何も感じ無いが、リンがそう言うなら間違い無いだろ」
「止まれ!」トグサの声に後ろに続く馬車が減速し、完全に止まると、後ろに居るメンバーに緊張が走る。
今まで休憩以外で止まることは一回も無かったのだ、前方で何か問題が起こったと直ぐに分かる。
最低限の護衛役を残して人を集めると、直ぐに緊急の話し合いが行われた。
リンフォードが前方で焦げた臭いがする事と、雲が村が存在する場所の上空を中心に止まっている事が異常だと、集まっている全員に説明した。
結論は直ぐに出た。
何者かが魔術的に雲を捜査して、村を襲撃している可能性があると判断されたので、数人でアンタソ村の様子を見に行くということに決まった。
通常の村であれば何か問題が起こったと判断したのなら、道を迂回して村を見捨てるだろう。
しかしこの村はアルトニアとイゾールを繋ぐ、宿場町の様な役割を持つので、何か起こった場合はアルトニアやイゾール周辺を行き来する者達にとって痛手となる。
それで偵察隊が急遽編成される事になった。
村をよく知る商人のアニモーと、トグサ、リンフォード、カケル、カッサンドラの5人だ。
五人で村に向かって進むこと約30分。
そこで変わり果てた村を見ることになった。
家の殆どが全壊し焼失しており、僅かに残った数件も半壊という有り様だ。
村の大通りだった場所には死体が重ねられ、ごく僅かに生き残った人達が死人の様な様相で、死体を集めているのが見える。
「おい、何があった!?」
トグサは近くに居た生き残りの女性に駆け寄り声をかけると、焼けた服の間から痛々しい火傷が見える女性が、助けが来たと安心したのか泣き出し、話を聞ける状態では無くなった。
女性の声に気が付いた生き残り達が集まってくると、その中の一人、村の男から話を聞くことができた。
生き残りは此所に集まった、男二人、女三人、子供二人、老婆一人の合計八人だけだそうだ。
「ドラゴンだ、ドラゴンに乗った魔術師が襲って来たんだ。」
そう話し始めた男は恐怖に顔を青ざめさ、震える声で何が起こったかを伝えようとしているが、恐怖のあまりまともに話せてはいなかった。
その男の話を纏めるとこんな感じだろう。
二日前の事だ、始めは急に雲が村の上空に現れたので、雲を観察していると雲の中からドラゴンに乗った魔術師らしき人物が現れ、ドラゴンと共に村を焼き払っていったらしい。
その話を聞いた偵察に来た一行は驚きを隠せないでいた。
「ドラゴンを使役するだと!?そんな事があり得るのか?」
「私の知っている限りでは、不可能では無いですが、限りなく不可能に近かいと本には書いていたと思います」
リンフォードの叫びの様な問いかけに、カッサンドラが直ぐに答える。
この世界では今までにドラゴンを使役した人物が存在した話は数少ないが残っているのだが、何れも伝説に残る偉業を成し遂げた英雄達の話だ。
人よりも知能や能力が高く、永きを生きるドラゴンや龍は余程の理由が無い限りは人に使役される事は無い。
それがこの世界での常識だった。
そのドラゴンは既に飛び去っており、姿も見えないので戻って来ないと判断した生き残り達が、このまま村を死体と共に捨てて行くのも忍びないと思い火葬の準備をしていた所に俺達がやって来たという事だった。
既に脅威が無くなった村へ、待たせていた一行を連れてくると、村の現状を見て各々が悲痛な反応を見せたが、直ぐに行動を開始した。
商人は食料の配布や今後の相談。
回復魔法が使えるメンバーは治療。
その他は瓦礫の撤去や死体を集める作業。
各々が出来ること行い、日が落きる前には一息入れることができた。生き残りの人達はこのまま全員一緒にイゾールへと向かい保護してもらう事に決まった。
俺達冒険者にも追加で報酬もあるそうだ。
その日の夜、半壊した家屋を利用して取り合えず寝るだけは出来るようになった場所を囲む様に、四人一組で警戒にあたり一夜を過ごした。
翌朝目が覚めると、生き残り達は一ヶ所に寄り添うように集まっており、殆どが寝れていないのが分かった。
五歳位の幼女の顔には涙の後が残っており、泣き疲れたのだろう、もう一人の子供と一緒に生き残りの少女に膝枕をされてグッスリ眠っている。
この少女はこの子達の母親では無い、この子達の母親は倒壊した家の残骸から二人を守り抜いたのだが、その時の怪我が原因で俺達が来る前日に亡くなったそうだ。
眠る二人を見てカケルはこの悲劇を起こした犯人を見つけた場合は、必ず捕まえて後悔させると誓い外へと出た。
外には、リーウェ、ジル、ヴィヴィアナ、テラーの四人が見張りをしており、大鍋にスープが湯気を上げていた。
カケルは一人で離れた場所に行くと素振りをしながら、深緑の森で別れたオーガのクローム連絡をとった。
「おはようさん、今大丈夫か?」
「おぉ!これはこれは、主様、いかがなさいましたか?」
「少し頼まれて欲しいんやけどええか?」
「勿論でございますとも、それで、なにをすればよろしいでしょうか?」
「今、魔術師とドラゴンに襲われた村に来とるんやけどな、ドラゴンが何処行ったか分からへんし、二人に見付からんように二人を守って欲しいんや、いけるか?」
「問題無いと思います。それでは今日からお嬢様方の護衛を始めたいと思います」
「悪いな、礼はちゃんとするさかい頼むわ」
「ここに居たのかい、素振りする位ならあたいの相手をしておくれよ」
「ん?ええで。(ほな頼んだで)」
ジルが此方に来たので通信を切ると、ジルがわざとらしく頷き、誰かを呼ぶ所だった。
「そうかいそうかい、ほら!二人共此方に来な、カケルが相手をしてくれるってさ」
「ジルだけじゃ無かったのかよ」
「カインとリーウェに頼まれてさ、いいだろ?」
「はぁ、分かったよ」
「アレは俺が言い過ぎた、この通りだ、頼めないか?」
「よろしく」
「あんなん気にしとらんって、ええさかい、始めるで!」
カケルの声を合図にリーウェ、カインが同時に攻撃を仕掛け、その後直ぐ後からジルの槍が迫ってくる。
二人の攻撃を最小限の動きで避けながら突っ込むと、眼前まで迫ったジルの槍を頭を傾ける事で避ける。
そして密着している二人が横一列になる場所スルリと移動すると纏めて槍の石突きの方で膝を掬い上げる用に倒すと、突き放った槍を引き戻そうとしているジルの槍を持っている方の肩を押して重心を動かすと足を払い地面に倒す。
「あのな……ええとは言ったけど、いきなり三人同時に来るなや!」
もっともな意見である。
地面に転がされた三人には悪びれた様子もなく、苦笑いを浮かべている。
「カインがこうしようって言った・・・」
「お、おい!リーウェ」
「三人でも無理だったねぇ、面白そうだったから協力してみたんだけど」
「カイン、ちょっとええか?」
「ひゃ、ひゃい!」
カインを立ち上がらせ、腕を肩にまわすと「男だけの話がある」と言ってカインが連行されていった。
疲労困憊で小鹿の様に足を震えさせたカインと、やりきった感のあるカケルが戻って来たのは数十分の事であった。
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