アルトニアの迷宮、渓谷エリア
こんにちは!
宿の中に入ると、チラッと食堂の方を覗いて見たけど二人の姿はなかった。
とりあえず、森の中を歩いてきて少し汗をかいた身体を拭きに部屋へ戻ると、二人が泊まっている隣の部屋から気配が無いことに気が付いた。
(どっか、行っとるんやろうか?)
身体を拭き終ると、やることも無くなるのでベットに寝転ぶと夕食の時間まで寝ることにした。
コンコン!
ドアがノックされる音で目を覚ますと、二人が来たのだと思い身だしなみを整えると入るように伝えた。
「なんや、開いてるで」
「お食事の時間が終わりますが、どうなさいますか?」
「なんや、マスターかいな、態々悪いな、すぐ行くから頼むわ」
「かしこまりました、お二人様はお姿が見えないようですが、どうなさいますか?」
「どういう事や」
「それが、お昼前にお出掛けになられた筈なのですが、まだ戻って来られて無いのです」
「そっか、二人の分はええわ、後で厨房を借りるかもしれんけどええか?」
「はい、勿論大丈夫ですよ、厨房の方にも伝えておきます」
結局、二人は戻って来なかった。
何か有ったのかもしれないと思い、ギルドで聞き回ったりしてみたのだが、見かけた人は何人か居るにはいるが全員が街を歩いているのを見たというだけで、手がかりは見つけられなかった。
二人の実力なら、ただの人拐いや暴漢であれば対処できるだけの力が有るのは知っているが、絶対という訳ではない。
街の隅々まで探して回るが、結局朝になっても見つける事ができなかった。
宿に戻ったらいるかもしれないと思い宿に戻ると、目の下に隈を作った店主が入り口近くのカウンターで待っていてくれた。
店主の様子を見ると寝ずに帰りを待っていてくれたのだと分かる。
「お帰りなさいませ、どうでしたか?お二人は見つけられましたか?」
「アカンわ、その様子やと、此処にも戻ってないみたいやな」
「はい、お客様が出て行かれた後、ここで待機していましたが、お二人のお姿を確認できませんでした。何かに巻き込まれて無ければ良いのですが」
「そうか、すまんな、休んでくれや、後は俺の方でなんとかするさかい」
宿にも戻っていないみたいで、二人の泊まっている筈の部屋の合鍵を使って、二人の部屋に入ると荷物がそのまま置かれた状態で二人の姿だけが見つからなかった。
そろそろヒルトと約束した時間になるので、店主に数ヵ月分の宿泊料と飲食代等をチップと一緒に預けると何時もの待ち合わせ場所に向かった。
「おはようさん」
「んな!?ってカケルか、おはよう、二人の姿が無いようだが?それにその格好はどうしたんだ」
今はチャックとして行動している時の、覆面ローブ姿で顔を隠しているのでヒルトに驚かれたが、声がカケルだと分かるとホッとした様子になった。一応ヒルトにはお忍びで観光しに来たAクラス冒険者だったと言うことしておいた。
「ああ、なんか色々有ってな、今は別行動してるんや」
「そうか、それよりも此方は二人で大丈夫なのか?更に手強くなるぞ」
「それなら大丈夫や、本気を出したら今日中に此処を制覇できる位の余裕はあるで」
「ははは、それは頼もしいな、お手柔らかにお願いする」
「わかったで、そういう訳やから今日で40階層まで進んでしまおうと思っとるし、装備を貸しとくわ」
そう言いながら、アイテムボックスから自分が使わないアイテムを一式取り出していくと、ヒルトが最初は驚きに目を見開いていたが、最後の方になると光を失った目でアイテムを見つめていた。
「こっから、ヒルトに合う奴を装備してくれ」
「……あ、ああ」
「俺はこれなんか、ええと思うで、ヒルトは氷魔法と火魔法を使うさかいな、これやったら氷、炎、光属性の魔法強化とボーナスが付くさかいおすすめやで」
「これだけ、レジェンドクラスの物が並ぶと、俺の価値観が崩壊しそうで恐ろしいな、本当にこの中から借りても良いのか?傷が付くかも知れないぞ」
「ええって、こんなん腐るほど有るさかいな、気にせんと使ってくれや」
「一応言っておくが、国宝と言われても納得出来そうな物まであるぞ?」
「これがか?嘘言ったらアカンで、俺からしたら言い方悪いけどゴミみたいなもんや」
ゴミと言うのも強ち嘘ではないし、ヒルトの国宝という事も嘘ではない。
チャックからすれば自身が持っている最高ランクのレア度10の装備からすれば、今ヒルトに貸そうとしているレア度4の装備は素材として余るだけで、勿体ない精神とアイテムボックスが無ければ、直ぐに売り払っていただろう。
ヒルトの方はというと、この世界のではレア度と呼び方をせず、ノーマル、レア、ハイエンド、エクストラ、アルティメット、アーティファクト、レジェンド、エンシェント等いった呼び方が普通で、一般的に流通している装備がレアまで、ハイエンドは名匠と呼ばれる一握りの人物が作った物で、エクストラ以上ともなるとダンジョンでごく稀に発見された物を国同士がオークションや戦争で奪い合う位の価値がある。
そのエクストラ以上の武器や装備が、専用のケースや箱に入れられる事なく、無造作にテーブルの上に並べられているのだ。
ヒルトは、貴族として様々なレアリティのアイテムを見る機会が有ったので、この程度で済んでいるのだ。
一般市民がこれらの価値を知った上で、この状況を見たとしたら、盗みを働こうとするものや、身体を売ってまで手に入れようとするものまで現れるだろう。
恐らく今カケルから薦められている装備も、ヒルトの様な素人でもアーティファクトに思える、未知の技術が使われているのが持った瞬間に分かった。
持っただけで大幅に増幅される魔力が、実際に魔法を放った時に数倍に膨れ上がって敵に襲いかかるだろう。
装備を選ぶ度にゾクゾクとする感覚を感じながらも
薦められた装備をつけると、更にヒルトを力の濁流が襲った。
「セット装備、氷炎シリーズはどうや?なかなかええやろ?」
「これに慣れたら、元に戻れなくなりそだな」
「そら、元の奴と比べたらそうなるわな、そや、そないな物でもええんやったら、結婚祝いや、ヒルトにやるで」
「な!?これがどれ程の……そうか、家宝にさせてもらう」
この装備一式でどれだけの価値が有ると思っていると言おうとしたが、腐る程にあると言っていた事を思い出して、言いかけた言葉を飲み込んだ。
カケルは「家宝なんて大袈裟な」と言っているが、この装備を身に付けた自分や子孫が戦場で戦うのを想像するが、負ける、という想像はできなかった。
むしろ手柄を上げてマスルド家が更に大きくなる予想しかできなかった。
アルトニアのダンジョン30階層・渓谷エリア、一般的な冒険者パーティーが到達できる階層の中でも人が一番集まる所だ。
安全に効率良く、安定した収入が見込める為に、態々危険なダンジョン深層まで潜らない冒険者が多いこの世界では絶好のスポットになっている。
主に産出される物は、鉱石やフィールドに自生する植物などがあり、魔物も利用価値のある素材を多く残す様になる。
魔物の種類も多く小型の魔物は、ゴブリンやコボルト等に代表される人形の魔物に加えて、昆虫やキノコ、オオカミや熊などの獣系の魔物まで現れる。
大形の魔物では、レッサーワイバーン、トロール、グリフォン等の姿も見かける事ができる。
中には危険なキメラ等の魔物も居ることには居るが、数も少なく隠れてやり過ごす場所も多いために、被害は少なくなっている。
その地に、カケル(チャック)とヒルトが到着した。
コロセウムから転送されて直ぐの場所には、これから狩りに出かける冒険者パーティーが数組、今から危険な魔物の領域に踏み入れるとは思えない感じで談笑しながら準備を進めているところだった。
数組のパーティーは顔見知りらしく、何処で何を採るや、狩ってくるなどの話をしていたが、カケル達に気が付くと、パーティーの代表らしい大剣を背負った強面の大柄な女性が歩み寄ってきた。
身長も高く筋肉質で、露出した腹筋は見事に割れている。着ている鎧も露出の多い守る面積が少ないビキニアーマーに近い物だが、スピードを意識して装備を軽くしているのだと分かる物だった。
「おやおや、二人は見ない顔だね、此処は初めてかい?」
「俺は、一回だけ来たことあるで」
「一回だけなら、分からない事もあるだろ?私達と一緒に来るかい?」
「お気持ちだけで、結構ですわ、先を急ぐので失礼します」
「そうかい、無理だけはするんじゃ無いよ、死んじまったら何も残らないからね」
「ご忠告感謝するわ、姐さんの方も気をつけるんやで」
「アハハ!言うねぇ、私達にはそんな心配は必要ないさね」
少し話を聞いてみたが、どうやらこの階層をメインに活動している冒険者達は殆ど全員が顔見知りらしく、チノとケイトの事も知っていたが、昨日と今日は見ていないらしい。
自分達はチノとケイトの二人と一緒に活動している冒険者で、昨日から姿が見えないの探していると説明して、見かけたら保護するかギルド伝えといて貰えるように頼んだ。
読んで頂きありがとう‼
ー情報更新ー
アルトニアダンジョン30階層
豊かな自然に囲まれた山と渓谷のエリアで、渓谷の川そって上流に進んで行くと次の階層に行くための通路がある。
だが川へ来た魔物と遭遇することがあり、比較的歩きやすい川の近くは視界が開けているために、上空からワイバーン等の飛行できる魔物が襲いかかってくるので、水分補給以外で川に近付く冒険者は少ない。
かといって、山の深くに迷い込むと大型の魔物に狙われる事になるので、ギルドでは初めて渓谷エリアへ向かう冒険者に、渓谷に慣れたパーティーを紹介するなどの安全措置をとっている。




