アルトニアの迷宮、21階層
こんにちは!
昨日の疲れがまだ残っているけど、今日から約一週間はダンジョンに籠りっぱなしになるので、良い気分転換になったと思う。
ベットから抜け出して、装備の確認や寝間着を片付けると、準備を整えて二人を待つことにした。
一週間も空けるので今日までお世話になったこの宿を出るので、帰ってきたら別の宿屋を探す事になる。
少しして二人が降りて来たのでギルドへ行くと、既にヒルトが待っていた。
「ヒルト、おはよう」
「おはよう、早速行こうじゃないか」
「アハハ、ヤル気だねー」
「勿論だとも、これから厳しくなるからな」
「それは良いことだが、焦りすぎるなよ」
「ヒルトもヤル気だし、行こう」
二日前の遅れを取り戻さんとするような、気迫に満ちたヒルトが先頭でコロセウムに着くと、ダンジョンに入った。
ダンジョン21階層、そこは煉瓦の様な物で出来た迷路の様なフィールドで定期的に通路が変わるので地図が役に立たない階層なっている。
それなら壁は壊して進めば良いと思うが、とてつもなく頑丈な素材で出来ていて、壊した所から直ぐに直っていく為に現実的では無い。
それこそ壊して進もうと思うのなら、A~Bランク冒険者が持っているような強力な装備と力で自動修復する前に壊して進むしかない。
とてもじゃないが一般的な冒険者では壊して進む事は難しく、迷路の様なダンジョンを徘徊する魔物と戦いながら壁を壊して進むのは、一般的に出来ないと考えられている。
そして、この階層で厄介な存在なのが、ゴーストやレイス等の死霊系の魔物で、壁をすり抜けて移動してくるので、突然現れたり他の魔物と戦っている最中に、いきなり後ろから魔法で攻撃されてピンチになったという話はこの階層ではよくある事らしい。
この死霊系の魔物が居る階層では、神聖系の魔法を使える魔法使いに一時的にパーティー入って貰うのが楽に30階層に行く手段になっている。
それは何故かと言うと、神聖系の結界魔法で死霊系やアンデッド系の魔物が近づき難くなる魔法があり、突然襲われる危険性が下がるので、死霊系の魔物が出る階層専門で雇われ冒険者をしている聖職者や神聖系魔法の使い手が居るほどだ。
しかし絶対神聖系の魔法が使える魔法使いや聖職者が必要ということは無い。
死霊系の魔物は魔法処理された武器や属性魔法でも倒す事が出来るので、戦闘回数が増えるのを気にしなければ、俺達の様に少し時間と労力がかかるが、30階層へ行く事も可能だ。
21階層に着いた俺達は、迷路の様な通路に入って直ぐに死霊系の魔物を発見した。
実体が無く遠目からは只の霧にしか見えなかったが、不気味な呻き声を上げながら、少し紫が混じった白い霧が不自然に漂ってきた。
近付くに連れて悪寒が増して鳥肌が立ちそうな霧の魔物は、ヒルトの集めてくれた情報によると、ミストカースと呼ばれる魔物で、魔力を込めた武器や魔法で簡単に散らして倒せると書いてあった。
注意点はミストカースを大量に吸い込んでしまうと、霧に含まれた毒によって痺れや苦痛を感じる様になり、場合によっては死に至る場合が有るそうだ。
(弱いけど、うっかりしてたら危ないな……)
「カケルくん、サクッとやっちゃって」
「ああ、そうだな、慣れておかないと」
「では、次は私に回して貰うぞ」
「んじゃ、最初の貰うね」
(少し遠い所を漂っているけど、待つ必要も無いな)
そう判断して歩いて近付くと、剣槍に魔力を込めて扇ぐ様に当ててみた。
情報の通り魔力を込めて扇ぐだけで、ミストカースは霧散してしまい、甲高い声を響かせながら何も残さないで消えていった。
「えーーーっと、倒せた?」
「ああ、大丈夫だ」
「ほんとミストカースって、嫌だよねー、何も残さないし、うるさいだけだしー」
「なんだ、警戒するほどでも無かったな、機会が有ればで良いかな……」
「機会なんて嫌程あるよ、夜とか夜とか」
「チノ、何か恨みでもあるの?」
「あるよ!たーくさん!前来た時にね、ミストカースが五月蝿くて、全然寝れなかったんだよーっ、もう、最悪だったぁー」
「ああ、あの時か、」
「そうそう、あの時のー」
「あの頃、チノはアンデッドが苦手だったからな」
「あー!それ内緒にしといてって言ったよね」
「そうだったか?」
「ケイトのイジワルー」
「アハハ、チノに怖いの有ったんだ」
「どういう意味よ」
「そのままの意味だけど?」
「もう、カケルくんまで~」
暫くチノをからかって遊んだ後、気を取り直して出発することにした。
迷路の様に複雑な通路をマッピングしながら進んでいると、他の冒険者に出会うことになった。
そのパーティーは、男6人組で一人は雇われの魔法使いだと見た目だけで直ぐ分かる格好をしている。
彼方も俺達に気が付いていて、俺達だと分かると手を振って来てくれた。
「おぅ、この前はありがとな、俺の事はガルって呼んでくれ」
「この前?」
「あんたらだろ?ミルタウロスを食わせてくれたの、んだったかな………か…か、かける、だったよな?兄ちゃんが挨拶してたじゃねーか」
「ああ!なるほど、カケルで合ってますよ」
「やっぱりなー、そうだよな」
恐らく、このパーティーのリーダーなのだろう、ガルという中年の男が挨拶をしてくれた。
どうやら、この人達もミルタウロスで宴会をやったときに居たらしく、口々に「うまかった」「何時っでも助けになるぜ」等と感謝してくれた。
「あの時の、お礼っちゃ、あれなんだが、27階層で、黒いオーガが見つかったらしいから、行くなら気を付けていけよな、俺達は帰るから」
「黒いオーガ?」
「普通のオーガより数倍強いらしいぞ、たまたま逃げ帰って来る途中の奴等に会ってな、聞いたんだが酷い話だった」
「そ、そうだったんですか、ありがとうございます」
「いやいや、これ位どうってことねーよ」
「いえいえ、知らなかったら危なかったですし」
「んーまぁ、そうだな!そんじゃ、またな」
これは、かなり優良な情報を貰ったかもしれない、知らずに27階層に行ってたら、この中の誰かが犠牲になってたかもしれない。
ガルさんには仲間の命を助けてもらったと言っても過言では無い。
ガルさん達のパーティーが去った後、これからどうするか相談することになった。
「で、黒いオーガなんだが……私達では倒せるとは思えない」
「んー、そだねー、私達じゃ無理だろうねー」
何時もは余裕そうな二人も、今回ばかりは真剣な顔で話している。(相当ヤバイ相手なんだな……)
「チノとケイトでも無理だったら、倒されるまで諦めるしか無いか」
「そうか……、それで、倒されるとしたら、どれ位の時間がかかるものなんだ?」
「うーん、運が良かったら一ヶ月?長かったら、ギルドが動くまでに時間がかかるし、それから上級の冒険者に頼むのに時間も必要だし、数ヵ月かかる時もあるねー……」
「な!そうなのか!?……それは不味い!」
「どう、不味いんだ?」
「式が行われるのは、半年後なんだ、遅くても一ヶ月前には、素材を手に入れなければ間に合わない」
ヒルトが凄く落ち込んで、ダンジョンの壁を殴って八つ当たりをしている。これは、どうにかならないものか……
(チャックに頼むか?いや、それは、どうなんだろう?それで良いのか?運が良かったら黒いオーガとも会わないで済むかもしれないしな)
「よし!行こう!」
「何を言ってるんだカケル」
「もし、出会ったら、死んじゃうかも知れないんだよ?」
「それでもだよ、運が良かったら見つからずに済むかも知れないでしょ?」
「そうだが……」
「危険なのは分かってる、でも、ヒルトの結婚式を最高の物にしたいんだ!」
「その、ヒルトが死んじゃうかもなんだよ?」
「俺が絶対に守るから、だから、お願いだ!」
「カケル!そこまで必死にならなくても良いんだぞ」
「ヒルトは中途半端で良いの?」
「それは……」
「うーん、どうする?」
「ああ、わかった、カケルがそこまで言うなら、付き合おう」
「はぁ、わかったよ、危ないと思ったら逃げるよ」
「ありがとう」
「すまない、私の為に危険を冒させてしまって、心より感謝する」
通常のオーガすら倒したことが無いし、強さも分からない。なのに黒いオーガという通常のオーガよりも強い魔物と戦う危険があるのに進むのは、我が儘だってわかってる。
それでも、折角の異世界だし冒険してみたくなったんだ。
呼んで頂きありがとう!!
ー情報更新ー
ミストカース
淀んだ空気のある場所やアンデッドが出現する地域に漂っている事が多い。
魔物としての危険性は低いが、身体を構成している霧の様な物は、毒性を含んでおり、大量に吸い込むと、身体の痺れ、幻覚、激しい痛み等を引き起こす。
ミストカース自体に自我は無いとされているが、アンデッド以外の生物が生息域に近付くと、襲って来ることから、スライムに近いのでは無いかと議論されている。




