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ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
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第12話

視点:プラーミャ




バレーノはしばらくしたら涙も引き、落ち着いたようだった


ただ悪いとだけ言って支度をさっさと済ませ、部屋を後にする

私もそれを追った


…彼が泣いている間、私はただそばに座ることしかできなかった


前を歩く、私より少し背の高い、悲しそうな背中の彼を、改めて私たちと同じなのだと思う


バレーノは一言もしゃべらない

そんな彼にかける言葉も浮かばない

きっと私は今も無表情のままなのだろう

表情を変えるのは得意ではない

それがきっとこの雰囲気を更に悪くしている


…私って何もできないんだな


広間につくと、ちょうどオースがダイニングのほうからやってきた

その手には一人用の朝食がある

恐らくレガトゥスのものだろう


罰の力を使ってバレーノを探したことによる疲弊は並大抵ではないようだ


私たちはある条件が揃った場合だけ力の使用が許されている

そのため私が以前力を使ったのはもう何年も前だ

あまり覚えていないが、その疲労は凄まじいものだった


レガトゥスは今そんな疲労を感じているのか

あまり無理はしてほしくないが、そう言ってもあの人はきっと力を使うことをやめない


そんなあの人に、私は何も返せていない

感謝してもし足りないものをくれたのに

私は何も―


オースは浮かない顔のバレーノを見て少し不思議そうな顔をしたが、すぐにほほえみ、朝食はもう置いてあるからねと言った


我に返り、マスクでくぐもっていてもしっかり聞こえるその声にうなずくと、オースはそのままレガトゥスの書斎へ向かう


ダイニングに向かうとすでにハビアンがいた


バレーノの様子を心配するような表情を見せたが、何も言わずにベーコンエッグをほおばる


私たちも何も言わずバラバラに席につき、オースが用意してくれた朝食に向かった


スープをゆっくりと飲み、焼きたてのパンを口に入れる

オース特製のフルーツジャムの酸味と甘味が広がる

…あたたかい


斜め前に座ったバレーノの顔はなおも浮かない

今の彼には、全て冷たく感じるのだろうか


最初にオースの食事を口にしたときはとても驚いていた

こんな食事は初めてだったのだろう


その時の瞳が、今の彼にはない

それがなんだか気にくわない


バレーノはさっさと食事を済ませ、片付けるとダイニングを出た

鍛練場へ向かうようだ


私はそのまま食事を続ける


…変なの、なんだかすっきりしない


ふと、ハビアンが立ち上がった

食器を片付けると、私の向かいのイスに座り、こちらを見つめる


「…なに」


「またなんかあったのか?」


「別に…バレーノが変な夢でも見たらしい」


「…過去のことか?」


私は黙ってうなずき、パンを口に入れる

ハビアンは悩ましげに表情を曇らせた


「まぁ…過去があいまいなのは俺たちも一緒なんだがな」


その言葉に私は手を止め、ハビアンを見る


「…ハビアンはまだわかってるほうじゃない」


ハビアンは苦笑いを浮かべる

「まぁお前やバレーノに比べたらな。お前らは唯一覚えていることに過去への手がかりがほぼない。それに比べりゃましってだけよ」


過去の記憶はきっかけがあると少しずつ戻ってくるらしい

でも私が唯一覚えているのは…なんのことかもわからない名前

これではきっかけも探せない


ただ霧の中に手を突っ込んでも、なにも得るもなはない


…ハビアンにはわからない

なに1つ思い出せない悔しさも、虚しさも、はがゆさも―


そう思ったが、口には出さない

出したって何の意味もないから

スープを飲み干し、食器を片付けようと立ち上がる

ハビアンは黙って私を見ている


と、突然ハビアンが私の頭を掴み、わしゃわしゃと撫でた

「?!」


慌ててハビアンの腕を掴み、静止しようとするがお構いなしに揺さぶられる

「な、なに…っ」


「あのなぁプラーミャ、言いたいことははっきり言えよ?抱え込むな。お前は感情を表に出さなすぎるんだよ」

ハビアンは明るく、それでいて強い口調で言った


手の隙間からハビアンの目を見る

…茶色のやさしい瞳

なぜか安心する


感情を出す…か


「…か、過去が何もわからないのって、すごく虚しいの。私も、多分バレーノも…夢に見てはすぐに忘れて、大切なこともわからなくて…だから…ハビアンには…全部はわからないよ」


違和感、変な気分

別に感情なんて出さなくても…


「そうか。ならやっぱりお前ならバレーノの助けになれるんじゃないか?俺や、他のやつらよりずっと」


「…え?」


「あいつはまだ知らないことばかりで、自分のこともわからなくて、それなのに新しいことばかりあって…俺が思う以上にいっぱいいっぱいなんじゃねえか?」


ハビアンの目を見る

その目は相変わらずまっすぐに私を見ている


「ただ見るんじゃなくて、お前のできることを考えてみな?立場の近いお前の思っていることが、したいことが、あいつの助けになるんじゃないか?」


…助けになる?私が?

居場所もなかった、大切なことも思い出せない私が、自分の思うことで…誰かの助けになれるの?


ふと、レガトゥスに初めてメディウムに連れてこられた時のことを思い出した


レガトゥスは私に言った


これからはここが、わたしがあなたの居場所です

その先はあなた自身で道を探しなさい

時には、あなたが誰かの道に、居場所になるのですよ、と


バレーノにはメディウムという道を示してあげた

それだけで良いと思っていた

だって私には誰も助けられないと思うから―



ハビアンの手をどかし、さっと食器を片付け、ハビアンを見る

ハビアンはにっと笑った

私は振り返り、ダイニングを後にした


鍛練場の扉を開けると、バレーノは短刀を振り、形を確認していた

私を見て少し驚いた素振りを見せたが、また鍛練に戻る


そんなバレーノにつかつかと歩み寄る

そして肩をつかみ、無理矢理にこちらを向かせた

驚いた表情を見せたが、その瞳には明らかに出会った時の輝きがない


…ただ思うままに、相手の様子を見ることもなく、たんたんと口にしてみた


「君に忘れたくなかったなにかがあるなら、一緒に探していこう。これからはここが、私たちが君の居場所だよ。時間はかかる。その過程は多分とても辛い。でも…君は一人じゃないから。大切ななにかを、約束を、果たしにいくんでしょう?ならしっかりしなよ。君は私たちの仲間なんだから、ここに、君の記憶を開く鍵があるはずだから」


こんな長々と自分の考えを言ったこと、あんまりないな

やっぱり変な気分…

決まりが悪くなってふっと目をそらす


そしてもう一度、彼の目を見た


…その瞳は確かに震えていた


あ―


咄嗟に謝ろうと思ったその瞬間


「…ありがとう」

絞り出したような声が聞こえた


ふっと息が抜けた

知らないうちに息を止めていたらしい

肩から手を放す


バレーノは潤んだ目をぬぐい、こちらを見て小さく笑った

そしてもう一度ありがとうと言った


…つられて私も笑っていた


不思議だった

自分の気持ちをしっかり出すのも悪くない…のかな…?


誰かがくれたただ一言で、こんなにもあたたかくなるとは思わなかった


と、コンコンと鍛練場の扉がノックされた

振り返ると、オースがいた


「…レガトゥスが二人を呼んでるよ。指令だってさ」




第13話へ続く

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