第13話
視点:バレーノ
レガトゥスの書斎へと向かう道で、プラーミャはこちらを見て、もう大丈夫なのかと言いたそうな目をした
大丈夫だよと言ってほほえむと、安心したようだった
表情に大きな変化はないものの、その目を見るとなんとなく思っていることがわかる
これまでずっと顔色を伺う生活をおくっていたからだろうか
なにはともあれ、心配してもらえることはありがたくて、少しくすぐったかった
―焦ることはないとわかっていても、真っ暗な記憶を見ることに…少し恐怖を覚えた
夢の中で、俺はなにを見たのだろう
ただ、早く約束を果たさなくてはと焦り、悲しくなったのは覚えている
目が覚めた時、その全てを忘れてしまったことが、また悔しくて、悲しくて…目が熱くなった
だけど不思議だ
プラーミャに助けになろうと言われた時には、違った意味で目が熱くなった
あれはなんでだったんだろう?
涙を流したのは久しぶりだった
変わらぬ日常の中に涙なんて必要なかった
恐怖も、悲しみも、感じるだけ無駄だったから
でもさっきの涙は…恐怖でも悲しみでもなかった
じゃああれはなんだったんだろう…変な気分だ
あのとき俺はなんで涙が出たんだ?
そうこうしているうちにレガトゥスの書斎についた
扉を開けると、レガトゥスと、ハビアンも一緒にいた
レガトゥスは昨日と変わらずイスに腰掛け、優雅にコーヒーを飲んでいる
ハビアンはそのそばに立ち、ちらりと俺の方を見た
そしてなにか安心したのか、ふっと笑った
なぜか俺も安心する
さっきまで一人で焦って、沈んでいたのが嘘のように、俺の心は安らいでいた
レガトゥスはカップをカタリと置くと、にこりと笑った
「おはよう諸君。では早速ですガ、君たちに新たな指令を出しましょウ」
昨日同様、レガトゥスはそばにある地図を開いた
そして杖で昨日の場所より少しずれたところを指した
「ここから、アムンストの声が聞こえましタ。お分かりの通り、昨日アムンストを発見した場所からかなり近い距離デス。ここにアムンスト発生の原因があるのかもしれませン。大至急アムンストの退治、原因の究明をお願いしまス」
アムンストが近い場所で2日連続で
彼らがどのくらいの頻度で現れるのかはわからないが、確かに気になる
だが、それと同時に俺にはよぎった思いがあった
アムンストが現れたということは、人間がそうなってしまったということ
俺たちは、その人間を殺さなくてはならないのか―
でも…それでも…人間がアムンストになってしまう原因がそこにあるなら…
「…わかりました」
俺はまっすぐにレガトゥスを見つめ答えた
レガトゥスは試すような目で笑う
「おやぁ?嫌ではないのですカ?」
そんなレガトゥスに俺は力強く言った
「そこに彼らを救う手掛かりがあるなら」
レガトゥスは満足した様子で、さらに深く椅子にに腰掛けた
「ふむ…いいでしょウ。しかし、手掛かりがすぐに見つからなかったり、アムンストが我々を襲うようであれば、すぐに殺しなさい。プラーミャ、しっかりと見ておきなさいネ」
「はい」
プラーミャは昨日のように嫌そうにはしなかった
俺はそれにちょっと驚いた
一人がいいと言っていたのに、なにか心変わりでもしたのだろうか?
レガトゥスはにっこりと笑った
「では行ってきなさイ。ハビアン、案内を」
ハビアンははいと返事をすると、扉へ向かう
俺たちの横を通りすぎる時、俺の頭をくしゃくしゃとなでた
ひょっとして心配させていたのだろうか?
だとしたら情けないな、俺
曖昧な記憶に怯えて、迷惑をかけて…
真っ暗な場所を手探りで探すのは不安だが、それに押し潰されないようになろう
俺も彼らの道に、居場所になれるように―
昨日同様、俺たちはメディウムのエンブレムが描かれた石板の上で立ち止まる
ハビアンはこちらを振り返り、にやりと笑った
「バレーノももう罰について知ったから目を閉じなくてもいいな?よく見とけよ?」
そう言うと前を向き、目の前の岩壁に思いっきり張り手をくらわした
すると突然、目の前の岩壁がぐにゃりと歪んだ
そしてまるで生きているかのように俺たちを包み込んで中に引き入れた
あまりの出来事に目を閉じてしまう
強い風が吹く
おそるおそる目を開けると、何も見えなかった
ものすごい早さで動いているのがわかる
暗い…これはさっきの岩壁の中か?
周囲の感覚はゴツゴツしていない
なめらかに、すごい勢いで進んでいく
ほどなくして俺たちは地上に放り出されるようにして地中を脱した
着地した足元の土は先程までの柔らかさはなく、普通の固い地面だった
俺が驚きを隠せないのを見て、ハビアンは大笑いした
「びっくりしたか?真似すんじゃねえぞ!俺の手だから簡単に岩壁の奥深くのあれにまで衝撃がいくんだ。罰も使わずにあれに衝撃を与えるのは結構しんどいからな!」
岩壁の奥深くに衝撃を与えたらああなるのか?
あれはいったいなんなんだ?
まだまだ不思議なことだらけだ…
難しい顔をしていたであろう俺の背中をぽんとプラーミャが叩く
「行くよ」
ハビアンはにっと笑った
「行ってこいお前ら!無事に帰ってこいよ?」
俺はそんなハビアンに笑いかけた
「いってきます」
プラーミャも小さくほほえんだように見えた
そしてすたすたと進んでいく
俺もその後を追った
ここで、アムンストを…そうなってしまった人間を助ける手掛かりが見つかることを願おう
そう強く思い、俺たちは見慣れた城下町を進んでいった
第14話へ続く




