表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/33

邪神はパンツをはいていたのだろうか・・・

徹は、パーティーでの11層以降に潜ることをせず、10層でのレベリングに2か月を費やしていた。

最低でも、徹、フィーネ、エッカルトの3人のレベルが、40台を越してから11層以降の攻略する予定を立てていた。

現時点でも、11層以降の攻略は問題なく進めることはできるだろうが、不測の事態への対応や再び強敵(チェイサー)との遭遇を考えると、へタレを自負する徹にはGOサインは出せなかったのだ。








レベリングを初めて1週間程度たつ頃には、だいぶパーティーで迷宮に潜ることにも慣れだし、今はカシアとコンラドの二人で、昼食の準備をしていた。

その一方で、食事の係りではない徹は、見張りをしながら魔術のトレーニングに励んでいる。

壁を背にして、座っている徹の手のひらの上には、光輝く幾何学模様の造形物が現れては消え、現れては消えを繰り返している。


「カーマさん…それ…なにをしているのですか?」


そんな徹のよこから、不意にフィーネが声をかけてきた。

フィーネもエッカルトも徹と同じように見張り番だが、魔術によって身体強化して聴覚・視覚が向上している徹に比べれば、索敵能力は低い。

二人ともそのことを自覚しているらしく、索敵能力の高い、徹やカシアと組む時は少し気がゆるんでいる。

そんなフィーネが、徹の手でもてあそばれているものを不思議そうに眺めている。


「んー?これ?ただの光系の魔術だよ」

「う…嘘です。そんな魔術は見たことありません」


フィーネも最近パーティーメンバーに慣れてきたのか、ぼそぼそで聞き取りづらかった声が大きくはっきり発音するようになってきた。


「嘘じゃないですよー。みんな言語魔術を馬鹿にしすぎだよ?あれだって、攻撃一辺倒の脳筋魔術じゃないんだから」

「そ…そんなこと…でも、そんな魔術の事なんてどんな本を見ても…書いてありません」

「まあ、そうかもね。簡単に説明するとまず魔術っていうのは、詠唱することによって世界の法則の那辺(なへん)に干渉するよね」


徹の説明が始まるとフィーネは、一言も聞き漏らさないと食い入るように徹の口を見つめる。


「そしてその干渉の象徴というよりは発現といったほうがいいかな。まあ詠唱によって引き起されるものが、魔法陣といわれるものだよね。この場合は『(ブライト)』これだね」


初めは、徹の使う高速言語により詠唱の簡略化に驚き、教えてもらおうとしていたフィーネだが、教えてもらっても全く理解できなかったために諦めて反応を示さなくなっていた。

徹が呪文を唱えると、徹の指先に淡く碧く光る直径2㎝ほどの円形の魔法陣が現れる。


「この魔法陣は、普段は詠唱後に魔力を通して望んだ現象を発現するためにすぐ消えてしまうね」

「はい…そうです。魔法陣は、魔力を通してしまったり、数秒時間がたったりすると消えてしまいます。そのために魔術を知らない人間は、魔法陣の存在さえ知りません」

「そうだね。消えてしまう原因というのが、魔法陣にある魔力が枯渇してしまうからなんだ。ただ在るだけでも魔力を消費してしまうし、魔力を通して望んだ現象を発現させたりするとそれだけ魔法陣の維持のための魔力を消費してしまうからすぐに消えてしまうんだ。だけど、逆に言えばその枯渇してしまう魔力を補給し続けることができれば消えることはない」


そういう徹の指先には先ほどと変わらない魔法陣が存在し続けていた。

それを見たフィーネが、あわてて真似しようと詠唱してみるが、魔術が発現してしまってすぐに魔法陣は消えてしまった。


「そこは、要練習ってとこだね。魔法陣を維持するために魔力を通すっていうのは魔術を発現するために魔力を通すのとは全く違った感覚だから、それをつかめるまでは苦労するかもね」

「う…う、う、がんばります」


フィーネはうなだれていたが、力強くこたえた。


「それで、この魔法陣が消えないように魔力を供給しながら、魔術を発現するとこういうことができるのさ」


徹がそういうと、徹の指先から光のスジが飛び出し、次第に幾何学的な模様を。

初めは2次元で描かれていたものがだんだんと3次元で立体的な構造物へと変化していった。


「こうやって、細かい構造物をつくっていくことが、魔力制御―魔術制御の訓練になるのさ」


そういっている間にも徹の指先から出ている光は変化を繰り返して、だんだんとヒトガタを取り出していった。


「そして、ひと工夫加えるとだな。ほいさ」


掛け声とともに、徹の指先にあるヒトガタは色彩を帯び、そのヒトガタが何であるか判明した。


「これは…私?」

「んむぅ。ちょい、エッカルト君こっちおいで」


徹が、隣で話についてこられなくてボーっとしているエッカルトを呼んだ。


「ほらほら、ここからのぞいて見て」


徹はそういうとしたから上に向けて指を刺した。

エッカルト君は無邪気な表情で下から上へ覗き込む。

それは完全に徹の作ったフィーネ人形のスカートを覗き込む形となっていた。


「パンツまでしっかりと作りこんであるでー(キリっ」


フィーネ人形のパンツを覗き込んでいたエッカルトはその徹の言葉で我に返って、顔を赤らめて後ずさった。

だが、エッカルトより顔を赤らめたフィーネによって避ける間もなく頬をはたかれていた。


「エッカルトのバカ!それにカーマさんもなんてことするんですか!」


怒ったフィーネは今までにないほどはっきりとしゃべっている。


「おちつけ!パンツ単体に興奮するのはただの変態だが、穿いているパンツに興奮するのはただの着えろだ!なんだ、フィーネちゃん的には穿いてない方がいいのか?露出趣味があったとは!恐ろしい子!」

「あ、う…そ、そんなことないです」

「うんうん、わかるわかる。フィーネちゃんはパンチラ派だよね。いやーチラ理と見せることによって男心をもてあそぶなんて、悪女!ひどいわ私信じていたのに!」

「あ…悪女じゃ…ないです…」

「いあいあ、謙遜することはないのじゃよ…(略」


興奮して流暢にしゃべれるようになったフィーネちゃんだったが、そこは歳の甲というべきか徹の方が一枚上手だった。

フィーネが顔を真っ赤にしてワタワタしているのを助けたのはエッカルトではなくてカシアであった。


「なーに、女の子にセクハラして遊んでるのよ」


カシアは徹の頭頂部をつかんで首を無理やり後ろに引っ張っている。

一見軽く頭をつかんでいるように見えるが、万力のような力でギリギリと徹の頭蓋骨を締め上げていた。


「あの、そのカシアさん?超いたんだけど。そろそろ俺の頭がトマトみたいにパーン逝くよ?すぷらっただおおおおおおおおおお」

「んー?なにかいった?」


カシアは文句を言う徹の頭をさらに締め上げながら、にっこりを笑う。


「ずいまぜんでしたあああああああ」

「うん、よろしい。それじゃ、お昼の準備できたからみんなおいで、コンラドが待ってるよ」


そういってフィーネを連れて行くカシアの後を追って、徹は痛む頭をさすりながら後を追おうとした。

だが、そんな徹を呼び止めたものがあった。

それは最近、めっきりと口数の減ったエッカルトだった。

初めて会ったころと比べれば別人のように物静かになっていた。

そのエッカルトが真剣な目で真っ直ぐと徹を見ている。

徹が気配に気づいて振り向いてみると、ついてこない徹とエッカルトを不審に思い、カシアとフィーネが立ち止まって待っている。


「あー、カシアたちは先行ってお昼とっていてくれ。俺はちょっとエッカルト君と人形(フィギュア)について熱い男同士の語り合いをしなければならんからな!」













カシアからあきれ顔で了解もらうと、さっきまで見張りをしていたところまで戻って座り込んだ。


「座ったらどうだ?」


そんな徹を見守りながら、ずっと立っていたエッカルトに座るように促す。

するとエッカルトは、徹の正面に腰を下ろした。


「それで、どうしたいんだ?」


徹にはエッカルトが求めているものが痛いほどよくわかっていた。

この1週間の迷宮探索で、エッカルトはろくに戦闘に参加していないのだ。

エッカルトはこれまで思春期特有の全能感と将来への希望、根拠のない自信にあふれていた。

だが、パーティープレイで全く役に立っていないという現実が、ずっとエッカルトのプライドをきづ付けていたのだ。

特にずっと一緒にやってきたフィーネ―どちらかといえば、ずっと守ってきたつもりでいた―でさえ、戦闘には欠かせない要員であった。


「俺が…俺が、コンラドさんの隣に立てるようになるにはどうしたらいいんだ?」

「さあ?」

「さあって…俺には、教えてくれないってことか?」


徹は正直困っていた。

予想どおりの事ではあるが、訪問者(ヴィジター)として経験値蓄積による身体能力の強化、スキル獲得によって強くなるエッカルトに対して、徹はあまりにもその恩恵が少ない。

いや、その恩恵が少ないというよりは、『魔道書』の恩恵が多すぎるといったほうがいいだろう。


「だいたいだな。俺は魔術師だぞ?お前みたいな、戦士で典型的な前衛職っていうのとはわけが違うんだ」

「だって、カーマは…カーマさんはコンラドさんと一緒に前衛やってるじゃないか!」

「あれは、魔術を使ったうえで可能な高速戦闘だ。素地が全然違う俺をまねてもどうにもならんよ」


徹の言葉にエッカルトをうなだれる。

エッカルトは、馬鹿ではない。徹が言わんとしていることは理解できていた。


「とはいっても、俺としてもエッカルト君が強くなってもらわないと困るからな。協力くらいはできるぞ」

「え?」

「なんだ?自分がいらない子だと思っていたのか?とりあえず、俺にステータスを見せてもらってもいいか?」

「うん。わかった」


エッカルトはそう素直に返事をして、壁に向けて自分のステータスを投影した。


――――――――――――――――――――――

Name エッカルト・エーレンフリート

Level 28

Age 17

Job 剣士

HP 890

MP 120

Str 93

Vit 89

Int 23

Dex 66

Agi 50

Mnd 40

Luck 65


Skill 剣術 盾術 闘志 防人


装備 ブロードソード

   カイトシールド

   皮の胸当て

   皮のズボン

   皮の手甲

   皮のブーツ

――――――――――――――――――――――




「……おい。ステータス高いなてめえ。俺よりレベル下のくせにステータスは上じゃねーか」

「まあね。俺とフィーネは登録時にはもうステータスの平均が20超してたからね。カーマとは出来が違うんだよ」


エッカルトが自慢げに胸を張った。

さすがは、ギルド長(ゲオルグ)お墨付きの期待の新人といったところだろうか。


「えー、ステータス高いくせによわっちい男の人ってちょっと…」


徹の言葉が、急所を直撃したらしくエッカルトはいきなり下を向いて泣きそうな顔になった。


(ちょっ、打たれ弱すぎだろう。これでmind40もあんのかよ!マジでステータスとかあてになんねえ)


「ま、まあ。冗談はこれくらいにして、どうするかだな」


考えるまでもなく答えは出ていた。

現状で、エッカルトの持つステータスは徹を超えコンラド達に迫る勢いを見せている。

だが、このパーティーにおいてエッカルトの仕事がないのは、彼の戦闘スタイルに大きく関係している。

エッカルトの戦闘スタイルは、べた足でどっしりと大地を踏みしめ、盾をもってモンスターの攻撃をいなし、カウンター気味に攻撃を加えることだった。

このスタイルでは、フィーネと二人ならばいいが、このパーティーでは働く場所がなかった。


「あれだな。戦闘スタイルを変えようぜ」

「変えるったってどうしろっていうんだよ」

「いままで、ずっとべた足でガードオンリーだっただろ?これからは回避を覚えようぜ」

「回避っていったって、そんなのすぐにできるようになることじゃないぞ」

「なに当たり前のこと言ってんだよ。コンラドだってカシアだって訪問者(ヴィジター)として10年以上こつこつたたき上げてあそこまでになっているんだ。それにフィーネちゃんだって、影でコツコツと魔術を勉強して使えるようになってきたんだぞ。そんな人間に普通の手段で、一夕一朝で追いつけるわけないだろう」


徹の言葉にエッカルトは、いまだに持っていた甘い部分を打ち抜かれたようにショックを受けていた。

どこか、徹に相談すればすぐに強くなれると無意識的に勘違いしていたところがあった。


「じゃあ、どうすればいいんだよ…」


徹はその言葉に、少しだけ悩むふりをする。

そして、歯切れの悪いような口調でこういった。


「俺の故郷にはだな、心眼というものがあってだな」


心眼


目や耳などの感覚器で知覚することが出来ない情報を経験と想像力で推論することによって見えない物の具体的な形質や挙動を把握すること、また科学的な推論に基づいて見えない物の本質を理解する能力のことである。 武術においては相手の挙動を予測して行動することで相手を制することを心眼で見切ったなどと表現している。


by wikipedhia

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ