あらすじが5行だと…
あらすじ
異世界に投げ捨てられた
引きこもった
おっさん拾った
祭った
ダンジョンへ←いまここ
フィーネが、左手を上げたのを合図に、徹が予備のナイフを隠し扉に突き立て力任せに扉を開けた。
隠し扉の内部は、6m四方の小部屋であった。
その空間にカマイタチが荒れ狂う。
一通り、カマイタチが収まるのを確認して、コンラドが部屋の内部に飛び込んだ。
わずかに遅れたタイミングで徹もそのあとに続く。
さすがに、隠し部屋内部のカク猿もあれだけドアの外でごちゃごちゃやっていれば、人間の気配に気づいていた。
だが、いきなりの魔術による範囲攻撃。
浮足立ったところに、コンラドによる大槌の特攻により、混乱から立ち直ることすら許されなかった。
全長2.5m、先端重量200㎏にもなる大質量が振り回され、カク猿は抵抗らしい抵抗もできずに一匹また一匹と肉塊へと変じていた。
そのなかで、特に体の大きい個体が、せめて一矢報いようとコンラドの槌をかいくぐって迫る。
しかしその努力も、コンラドの槌をよけながら戦っていた徹によって大槌をよけた瞬間、首と胴体がきれいに二つに分かれることになった。
結局のところ隠し部屋内部にいた13匹のカク猿を殲滅するのに、フィーネが魔術を放ってから1分はかかっていない。
「ご…ごれがパーティプレイだが…?」
コンラドは、自分がやったことに対して呆然としていた。
「多分ね。いい働きしていたよ」
徹はそういいながら、拳を肩よりやや高めに持ち上げた。
それを見たコンラドも、おずおずと拳をあげて、徹の拳に合わせてきた。
コツンと軽く触れあっただけだが、二人とも何とも言えない満足感を感じていた。
「ウォォォオオオオオオオオオオオオ。やっだるだ!」
カク猿の死体のに囲まれた中で、いきなりコンラドが叫びだした。
「カーマ!おでもやる。めいぎゅうぜいはめざず」
「お、おう。がんばるかああああああああ。やーめーてえええええ」
興奮したコンラドによって、肩を激しく前後にられた徹はあられもない悲鳴を上げる。
(コンラド!空気!空気!せっかくいい感じで決めたのに!ぶち壊しだから!くびがあああ。ガックンガックンいってるうううううう)
その後、部屋の中に入ってきた3人によって救出された徹たちは、手分けしてカク猿から剥ぎ取りをしていた。
カク猿は、大型の猿の化け物であるために、特に肉や骨、牙には価値がない。
だが、その毛皮は防寒具としてそれなりの流通を見せているためにギルドの方で引き取ってくれる。
コンラドが叩き潰した個体はさすがにはぎ取れないが、形が残っているものは金になるために、毛皮をはいで魔石を回収していた。
(うーん。なんだろう。女の子が、血をしたたらせながら死体処理している姿って、軽くスプラッタだな。特にフィーネちゃんがやっていると、『うふふ。血の赤っていいわねー』みたいなアフレコ入れたくなってくるわー)
「ちょっと、トオルはなに見とれているの?」
怖いもの見たさでフィーネを見物していた徹にカシアが声をかけた。
「いやね。こう切り取ると猟奇映画のワンシーンみたいだなーって思ってね」
フィーネを中心にして、指で四角く枠取りしながらいう。
その向こうでは、フィーネが楽しそうに(?)に毛皮を剥いでいた。
「えいが?わんしーん??」
「あー…なんでもない。それでどうしたの?」
「えっとね。こっち来て、また隠し扉見つけたから」
「んー?別の出口とか?」
カシアに連れられて、とある壁のところへ行ってみれば、確かに隠し扉らしきものがあった。
それは、言われなければ気づかないような―普通の人間ならわからないように隠されていた。
「確かにあるね…ホントよくこんなもの気付くな」
「えへへへ。まあね」
カシアは胸を張ったために、爆乳とは言わないが分類としては巨乳に入る豊かな胸が前に突っ張られる。
それは徹の視線を釘づけにして、本能に大ダメージを与えた。
(グフウ…でかい…いい乳してやがるぜ…好みという次元を超越して本能にダイレクトアタックしてくるぜ…)
「そ、それでこの向こう側はどうなっているんだ?」
そのまま見ていると、むらむらと揉みたい、吸いたい、なめくり倒したい欲求が出てくるために強引に会話へ意識を戻した。
「ここは、開けられないタイプの隠し扉だから向こう側のことはわからないわ」
そういって、カシアは首を振った。
徹はためしに押したり引いたりしてみるが扉はびくともしなかった。
「どうしだだー?」
そんな、徹とカシアを見たほかのメンバーが、剥ぎ取りも終わって続々と隠し扉の前に集まってきていた。
「ここに開かずの扉があってどうしようかってとこ」
「ちょっど、どいでぐれ。おでがやってみる」
扉の前にコンラドを残して、ほかの人間は退避した。
コンラドは、大槌を担ぎあげるとスタンスを広くとり、神主打法よろしく大きく振りかぶった。
まるで教科書のような美しいフォームで振られた大槌は、大槌が折れ曲がるのではないかという音を立てて扉と激突する。
―ドンッガランッ……
壁を殴った衝撃に耐えられなかったコンラドは、大槌を落としてしまう。
そこには、凹みすらない壁が何事もなかったかのように鎮座していた。
「硬いわね。大槌で殴ってもびくともしないなんて」
余りの音に耳をふさいだカシアはつぶやくようにしゃべる。
「そ…それなら私が…魔術でやってみます」
フィーネちゃんが珍しく、積極的にやる気を出してきていた。
その発言に、徹がうなずくとコンラドは痺れた手で大槌を拾って、隠し扉の前を開ける。
「憤怒の火よ
嫉妬に燃え上がる火よ
貴方は焼き尽くす
その威をもってここに
火よあれ」
フィーネは、流暢に詠唱を紡ぎ、放たれた赤い炎は一直線に扉に向かう。
だがそれもむなしく、扉にはじかれると何の効果もなく霧散してしまった。
(詠唱がいちいち怖い上に、なんでこれだけそんなに流暢なのさ…怖いよ…スプラッタだよ…)
「あう…ダメでした…」
フィーネはしょんぼりと効果音が聞こえてきそうな感じに肩を落とす。
そんなフィーネの肩をカシアがやさしく抱いてあげていた。
「仕方ないわ。迷宮の壁を壊すなんて聞いたことないもの」
「んーじゃあ、次は俺の出番だな!真打は最後に登場するってね」
「はいはい。それで、トオルは何かいい案でもあるの?」
「まあ、見てろって」
徹はそういうと、隠し扉を軽くノックした。
音を確認してから、扉に文字を書いていく。
『腐』
徹によって描かれた紋章魔術は、淡い光を放ち、扉に沈み込んでいくように消えて行った。
だが、それだけで扉には全く変化がない。
一同、その光景を黙って見守っていた。
(……おうふ。自信満々でやったのに!効果ないってどういうことよ!赤っ恥!ひゃっはー。殺してくれ!もう俺を殺せええええ)
徹はやけくそになって、まるで調べるようにもう一度扉をノックした。
だが、徹たちには、その音に変化を感じられなかった。
「おお?カーマでも駄目だが…?」
「まって!扉の音がさっきと違う。トオルは何をしたの?」
「えっ?扉を脆くさせよとしただけだよ」
(扉を腐蝕させて穴をあけようとしていただなんて言えない!でもカシアちゃん良いフォロー!マジ天使!)
「それじゃあ、もうちょっとやってみるかね」
徹は内心の動揺を悟られないように、何度か扉に向かって魔術を使用した。
2回ほど、魔術を施したあたりから、トオルにもわかるように扉のノック音が変化し、二ケタを超えるあたりで、扉がグズグズになっていることを確認した。
「これくらいでいいかな?コンラド、もう一回扉殴ってくれる」
「了解だあ」
コンラドが先ほどと同じように大槌を振りかぶって扉を殴ってみると、今度は鈍い音を立てて、扉が殴られた部分を中心にばらばらになって向こう側に落ちて行った。
「へー。トオルの魔術って便利ね」
「まあね。便利といえば便利だけど、これにも欠点はあるよ。要は使いようかな」
「欠点?どんな」
「簡潔に言うと、指向性が低いってことかな。たとえば、さっきのフィーネちゃんの魔術と同じことをしようとすると、火を出す魔術とその火を飛ばす魔術って二つを同時展開しないといけなくなるっていう欠点があるかな。飛び道具としての攻撃魔術だったら、言語魔術の方が有用性は高いよ」
なるほどとうなずくのは、魔術を使えるフィーネちゃんだけでほかのメンツは、あまりピンと来ていないようだ。
現在、全員で無理やり開いた扉の向こう側を覗き込んでいる。
「縦穴…」
誰かがそうボツリとつぶやいた。
扉の向こう側には部屋はなく、地下へと続く正方形の縦穴が続いていた。
底が見えることはなく、暗闇をたたえている。
「これどうやって行き来するの…?そこのロープ?」
カシアが指差す先―四角い竪穴の中央付近に3本ほどゴム質のロープが上からぶら下がっていた。
「いや…多分違うな。カシア、ちょっと松明かしてもらえるか?」
徹は、カシアから松明を受け取ると縦穴を照らした。
よほど底が深いのか松明で照らしても下の方が見えることはない。
そのまま覗き込んでいても仕方がないので、おもむろに松明を穴に落とした。
(落下までに4.5秒ってことは、だいたい100mぐらいか…1階層の高さが3mで階層と階層の間がだいたい1mぐらい距離があるからこの下は32か33層くらいか…ということは、あと最低でも24層はあるってことか。ここを降りてショートカット…?100mも伸ばせるロープなんてあるのか?いや、魔術を使えばいいか?………)
徹が縦穴を除きながら思考の海に没頭していると、カシアが横からのぞきこんできた。
「ねえ、なにやってるの?」
「ん?ああ。今、この縦穴がどれくらいの深さまで続いているか計っていたんだ」
「そんなのわかるの?今のたいまつで??」
「世の中いろんなことを考える人がいてね。こういう計測法があるんだ。ここは、だいたい33層くらいまで続いているかな」
「そんなに下まで?もしかして、ここを通ってカク猿はこの階層にきてるのかな?」
「多分ね」
「ぞれって、このひもを伝って登ってぐるってごどか?だいへんだな」
「そうねー。上っただけで疲れちゃうんじゃないかしら」
「それじゃ、ここ塞げば、もうカク猿は現れないんじゃねーの?」
「そんなことはないだろう。多分ここ以外にも、こういう構造物があるはずだ。じゃなければダンジョン中に均等にモンスターが配置されるということはないだろうしな」
縦穴の前に集まって話し合ってみたものの、結局それが何であるか結論もでず、迷宮探索を再開することになった。
ただ徹だけが、隠し部屋から出るときに一度だけ、振り返りつぶやく。
(だけどこの構造物ってもしかしてエレベーター…?まさかね…)