表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/123

第83話 壊す者と守る者

刃と刃がぶつかる音が、夜の広場に鋭く響いた。


 最初の一撃は探りだったが、次の瞬間には連続した攻防へと変わっていた。間合いは近く、互いの呼吸すら読める距離。速さも技量も拮抗しているが、戦い方はまったく違う。


 レオは受け流す。力で押さえ込まず、軌道をずらし、崩しながら流れを制御する。対して黒い外套の男は、迷いなく急所を狙い続ける。無駄がなく、感情の揺れもない。戦いそのものが、ただの手段であるかのような動きだった。


   ◇ ◇ ◇


「守っているつもりか?」


 男が踏み込みながら言う。刃が一直線にレオの喉元を狙う。


「その均衡とやらで」


 レオは言葉を返さない。体をわずかに捻り、刃を紙一重で外すと、そのまま相手の腕の角度を変えて力を逃がす。反撃には出ない。まだ読む段階だ。


「人はそんなもので守れない。疑いは残るし、恐怖も消えない」


 男の声は冷静だった。


「だから壊れる」


 連撃が来る。速度が上がる。押し切る意思がはっきりと見える。


 レオは一歩踏み込み、相手の軌道を外側へ誘導する。完全に防ぐのではなく、流して崩す。わずかに生まれた隙で距離を切る。


   ◇ ◇ ◇


「だから壊すのか」


 レオが初めて口を開いた。


 短い一言だったが、重みがあった。


 男は笑う。


「違う。元から壊れるものを、早めているだけだ」


 再び踏み込む。今度の一撃は鋭い。迷いがない。最短で急所を狙う。


 レオはそれを受け流しながら、足の位置を変える。衝撃を逃がし、次の動きへ繋げる準備をする。


   ◇ ◇ ◇


「人は変わる」


 レオが低く言う。


 男の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


「壊れることもある。でも、それで終わりじゃない」


 レオは一歩前に出る。


 受けるだけだった動きが、変わる。


   ◇ ◇ ◇


 踏み込む。


 男の刃を外へ逸らし、そのまま間合いの内側へ入り込む。最短距離での打ち込み。速さではなく、位置で勝つ動きだった。


 男がわずかに後退する。


 初めて、明確に“下がった”。


   ◇ ◇ ◇


「……なるほど」


 男は息を吐いた。


「守るだけじゃないか」


 その目が細くなる。


「壊しに来ている」


 レオは答えない。ただ構えを崩さず、相手の動きを見据える。


   ◇ ◇ ◇


 広場の外周では、ガレスたちが状況を抑えていた。小競り合いは続いているが、大きな混乱には至っていない。兵の配置も維持され、逃げ道はほぼ塞がれている。


 この戦いが終われば、すべてが決まる。


   ◇ ◇ ◇


 男が再び動く。


 今度は完全に本気だった。迷いも探りもない。一直線に間合いを詰め、連続で斬り込む。


 レオは受ける。しかし、その受けは単なる防御ではない。流しながら位置を取る。足の置き方、体の向き、相手の重心——すべてを計算し、少しずつ主導権を奪っていく。


 そして、わずかな隙が生まれる。


   ◇ ◇ ◇


 レオは踏み込んだ。


 男の腕の外側へ回り込み、軌道を完全に外す。そのまま体勢を崩し、押し切る。


 鈍い音が響き、男が大きく後退する。


 石畳を滑る音が、夜の広場に残った。


   ◇ ◇ ◇


 距離が開く。


 決定的ではない。


 だが、流れは変わった。


   ◇ ◇ ◇


 男は笑った。


 今度ははっきりと。


「いいな」


 低く言う。


「それでこそだ」


 その目に、わずかな狂気が宿る。


「なら——壊しきってみろ」


   ◇ ◇ ◇


 空気が再び張り詰める。


 フェルトハイムの均衡は、この一点に収束していた。


 守るか、壊れるかではない。


 どちらの意思が、この町に残るか。


 物語は、決着の直前へと踏み込んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ