第240話 王であるということ
中央広場の混乱が完全に収まったのは、日が傾き始めた頃だった。「王政廃止」「ノア即位」「レオン継承承認」「セドリック退位」――四つの偽文書は、どれも正式な決定ではない。そのことだけは、王都全域へ何度も確認可能な形で伝えられた。
## 会議室にて
王宮の大広間ではなく、小さな会議室に、セドリック、レオ、ノア、グレイストーン、議会代表、王室監査院、そして地方行政を代表する数名が同じ机を囲んでいた。
「では」と議会代表が言う。「本題へ入りましょう」
机の中央に置かれた一枚の紙には、**現王セドリックの統治継続について**と書かれていた。ミレイは今日の会議には入っていない。王子としてではなく当事者として、レオが向き合わなければならない話だった。
「先に言っておく」セドリックが口を開いた。「私は、必要なら退位する」
「ですが」議会代表が応じる。「それを今ここで決めるつもりはありません。昨日マルセル・グレイが一人で王家の是非を決めようとした。我々まで同じことをするべきではないからです」
レオが少しだけ目を上げる。誰か一人が答えを決めない――それは自分と同じ考えだった。
「では何を確認する」グレイストーンが尋ねる。
監査院代表が答えた。「陛下の行為です。まず白鴉の存在をいつ知ったのか、何を止め、何を放置し、何を隠したのか。そして現在まで、その隠蔽がどのような影響を与えたか。そこからです」
セドリックは頷いた。「分かった。全部話す」
レオは王を見つめる。昨日までこの人は、王として多くのことを自分の中だけに抱えていた。その結果、誰にも確認できない秘密が増え続けたのだ。
## 過去の告白
「最初は」とセドリックが語り始める。「父の死の少し前だった。私はリーベルで行われた試験について断片的に知った」
「誰から」
「アデライドだ」
ノアがわずかに顔を上げた。「母が?」
「そうだ。アデライドは父の私的な記録からリーベルという名を見つけ、その後エドガー・ロウと接触した」
「エドガーさんとは、当時から?」レオが尋ねる。
「私は直接は数えるほどしか会っていない。妹の方が彼を信用していた」
「なぜ母はエドガーを」とノア。
「彼が王家の人間ではなかったからだ。アデライドは王宮内部の者だけで調査することを、最初から嫌がっていた。王家自身の問題を王家だけで調べれば、都合のいい結論になる――そう言っていた」
レオは小さく息を吐いた。その考え方は、今自分たちがやろうとしていることと同じだった。
「それで、白鴉研究班についてはいつ知ったのです」と監査院代表。
「正式名称を知ったのは、研究班発足から半年ほど後だ」
「その時点で何をした」
「監察局へ活動停止を求めた。結果は、研究目的を証言信頼性の検証に限定すると回答された」
「信じたのですか?」
「……一度は」
「一度?」議会代表が問い直す。
「後に、実験対象が存在すると分かった。その時、アデライドともう一度内部調査を始めた。その後、妹が病に倒れた」
## ノアの問い
ノアの表情が強張る。
「そして、亡くなった」セドリックは続けた。「私は白鴉との関係を疑った。でも証拠が消え、証人も話を変えた。そこで私は一度、調査を止めた」
「なぜ母が死んだのに」ノアの声には、責めるというより理解できない響きがあった。
セドリックは目を逸らさなかった。「怖かった」
「何が」
「次にお前が狙われることが」
「だからルシアンを外へ?」
「そうだ」
「名前を変えて?」
「そうだ」
「俺に何も知らせず?」
「……そうだ」
ノアはしばらく黙っていた。「安全にするためなら、何をしてもいいと思った?」
「当時はそう思った」
「今は?」
「間違っていた」
ノアの目がわずかに揺れる。「全部?」
「お前を王宮の外へ出したこと自体が間違いだったとは、今も言い切れない。危険は実際にあった。でも、何も知らせず、お前自身の人生をこちらだけで決めたことは間違いだった」
ノアは返事をせず、ただその言葉を聞いていた。
## レオン王子代替措置
「次に、レオン王子代替措置」議会代表が話題を移すと、空気がまた変わった。レオは顔を上げる。「本来のレオン王子が亡くなった後、なぜ代替を必要としたのです」
セドリックがゆっくりと説明する。「当時、王宮には王子の死をすぐ公表できない事情があった。外国との交渉、継承順位、国内の派閥、そして白鴉。だから短期間、身代わりを置くと決めた」
「誰が」
「私だ」
「反対は」
「いた」
「誰」
「グレイストーン」
全員が公爵を見る。「……若い頃から」グレイストーンが深く息を吐く。「陛下とは意見が合わないことが多かった。今もですが」
「余計だ」
「私は」グレイストーンが続ける。「一度始めれば終わらせられなくなると申し上げた。その通りになった」
「レオが王子として、期待以上にうまくやったから?」議会代表が尋ねる。
「……そうだ」
レオが少しだけ笑った。笑いではない笑みだった。「期待以上、便利な言葉ですね」
「レオン」
「分かっています。今は怒る時間ではありません。でも少しくらい嫌味は言わせてください」
「……好きにしろ」
「代替措置を終了しようとした時期は」監査院代表が尋ねる。
「三度あった」
「一度目」
「一年後」
「なぜやめた」
「外交問題」
「二度目」
「三年後」
「なぜ」
「国内貴族の対立」
「三度目」
セドリックが言葉を止める。「五年後」
「その時は、なぜ」
「……」
レオが王を見る。「何です」
「お前自身が王子であることを疑われ始めていた」
「誰に」
「宮廷の一部だ。理由は、本来のレオンと幼少期の記憶が一致しない」
「当然ですね」
「そうだ」
「そこで」セドリックが続ける。「公表すればお前がすべての責任を負わされると考えた。だから守ろうとした」
「守ろうとした?」
「そうだ」
レオの表情がわずかに固まる。「でも、その時に話してほしかった」
「……ああ」
「私自身にどうするか聞いてほしかった」
「そうだな」
「また決めたんですね。お前のためだと思って」
長い沈黙が流れた。
## 問題の中心
「陛下」監査院代表が口を開く。「ここまでの話では一貫して、本人を守るため、国を守るためという理由で情報を隠している」
「はい」とレオ。「それが今回の問題の中心だと思います」
全員がレオを見る。「悪意があったかどうかではなく、本人に選ばせなかった。国民にも知らせなかった。そしてその結果、秘密そのものが白鴉やマルセルに利用された」
「もし」ノアが尋ねる。「最初から全部出してたら、こうならなかった?」
レオは首を振る。「分かりません。別の問題が起きたかもしれない。でも少なくとも、今みたいに他人に暴露される形にはならなかった」
会議は夕方まで続いたが、結論は出なかった。セドリックを王として残すか、退位させるか――それを一日で決めることはしない。代わりに三つのことが決まった。一つ、王家の過去について独立した調査委員会を設置する。二つ、先王、セドリック、白鴉、リーベル、レオン代替、ルシアン秘匿に関連する資料を可能な限り公開する。三つ、セドリックの統治権について、調査期間中は重大な単独決定を制限する。
## 静かな夜
「王なのに一人で決められなくする?」会議後、レオから話を聞いたミレイが驚いて言った。
「はい。陛下本人も同意しました」
「怒らなかった?」
「少し。やっぱり。でも」レオが少し笑う。「最後は自分から、その方がいいと言いました」
王宮の客室で、ようやく二人きりになった。ミレイは椅子へ座る。「疲れた」
「私もです」
「レオは今日ずっと座ってただけじゃない?」
「精神的に疲れるんです」
「はいはい」
「信じてませんね」
「半分」
レオがミレイの隣へ、少し近く座る。「何」
「昨日言いましたよね」
「何を」
「終わったらあなたのところへ戻ってこいと」
「言った」
「なので」レオはミレイの肩へ額をつけた。「戻りました」
「……重い」
「すみません」
「頭じゃなくて、意味が」
「それは知っています」
「離れる?」
「嫌です」
「じゃあそのまま」
「はい」
しばらく、何も話さない。王、王家、白鴉、マルセル、国――全部が、少しだけ遠くなる。
「レオ」
「はい」
「フェルトハイム、帰れるかな」
「帰ります」
「いつ」
「数日以内には」
「今度こそ?」
「今度こそ」
「ルナ、怒ってるかな」
「かなり」
「ソラは?」
「お菓子があれば、少しは」
「それ、教育によくないよ」
レオがほんの少し笑う。「帰りたいですね」
「うん。森にも?」
レオが少し目を開ける。「森?」
「最初の、あの花畑。ずっと行ってないでしょ」
「かなり」
「落ち着いたら行こう」
「二人で?」
「子供も」
「……」
「何その顔」
「二人がよかったです」
「駄目」
「少しくらい」
「駄目」
「では、子供たちが寝た後に、村から森まで」
「夜に? 危ないです」
「自分で言った」
「……では、いつ行けば」
「普通に、家族で行こう」
レオは少し不満そうだったが、それでも「分かりました」と答えた。
「偉い」
「子供扱いしてません?」
「ちょっと」
## 取調室にて
その夜、別の場所――王宮警備棟の取調室に、拘束されたマルセル・グレイがいた。逃走できる状態ではない。向かいには、同じく拘束されたエリアスがいる。
「久しぶりですね」マルセルが言う。
「そうだな」
「私があなたを作ったと思いますか」
エリアスが冷たい目を向ける。「思わない」
「意外です」
「お前は材料を渡した。だが選んだのは私だ」
「では、後悔を?」
「それも、まだ分からない」
「曖昧ですね」
「お前にだけは言われたくない」
マルセルが少し笑う。「レオンは興味深い」
「レオだ」
「……あなたまで?」
「本人がそう呼べと言った」
「私は記録上の名を使っているだけです」
「だからお前は負けた」
マルセルの笑みが少しだけ消える。「負けた?」
「お前は最後まで、紙の上の人間しか見なかった」
「私は人間を見ていたつもりですが」
「観察対象としてな」
「同じことです」
「違う」
エリアスは椅子へ深くもたれた。「それを私は今頃、少しだけ分かった」
## 新たな不安
翌朝、レオが王宮の食堂へ入ると、リアムがすでに待っていた。
「早いですね」
「レオ様も」
「眠れなくて」
「同じです」
「何かありました?」レオがパンへ手を伸ばす。
「一つ」リアムが書類を置いた。「マルセルの隠し部屋から昨夜、追加で見つかりました」
「何です」
「一覧です」
紙には百近い人名が記されていた。「これは白鴉の観察対象?」
「違います」
「では」
「各地で記録を書き換えられた可能性がある人物です」
レオの手が止まる。「全部確認する必要があります」
「はい」
「何年かかる」
「分かりません。ですが、やるしかありません」
レオは一覧に目を通した。名前、出生、死亡、婚姻、犯罪歴、土地所有、職歴――さまざまな項目が並ぶ中、一番下に見覚えのある地名があった。レオの表情が変わる。
「フェルトハイム」
「はい」
「何が」
リアムが紙の該当箇所を指す。
**対象記録――出生。対象者――二名。**
レオが嫌な予感を覚える。「名前は」
リアムが次の紙を差し出した。そこにはこう書かれていた。
**ルナ。**
**ソラ。**
レオの顔から完全に血の気が引いた。
「……何ですか、これ」声が低くなる。
「まだ」リアムが答える。「内容は確認できていません。一覧に名前があるだけです」
「何を書き換えた」
「だから、まだ分かりません」
レオが立ち上がる。「フェルトハイムへ行きます」
「はい」リアムは止めなかった。「今回だけは、私もそうするべきだと思います」
ミレイ、子供たち、家――ようやく戻れると思った場所。だが、白鴉とマルセルが残したものは、まだそこにも届いていた。




