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230/237

第230話 レオが選ぶ名前

翌朝。


 王都中央広場は、人で埋め尽くされていた。


 商人。


 職人。


 兵士。


 使用人。


 貴族の使い。


 地方から来た旅人まで。


 誰もが。


 今日、三人が何を語るのかを待っている。


 広場の壁には、昨夜まで大量に貼られていた紙の跡が残っていた。


 **あなたが「本物の王子」だと思う者を選べ。**


 王宮は紙を回収した。


 だが。


 言葉まで消すことはできない。


「レオン殿下が本物に決まってる」


「でも身代わりだったって」


「ノアって男は王女の息子なんだろ?」


「オーウェンにも証人がいる」


「誰が嘘をついてるんだ?」


「王宮じゃないのか?」


 無数の声。


 その一つ一つを。


 広場の各所に紛れた者たちが記録していた。


     ◇ ◇ ◇


 王宮。


 広場へ続く控えの間。


 レオは窓から群衆を見ていた。


「すごい人数」


 ミレイが隣に立つ。


「はい」


「逃げたい?」


「かなり」


「逃げる?」


「逃げません」


「だよね」


 レオが小さく息を吐く。


「ミレイ」


「何?」


「一つお願いがあります」


「うん」


「ここにいてください」


「広場には?」


「出なくていいです」


「どうして?」


「今日説明するのは」


「私たち三人のことです」


「あなたまで」


「白鴉が作った舞台へ立つ必要はありません」


 ミレイは少し考えた。


「分かった」


「でも」


「はい」


「逃げてきたら捕まえるから」


「……逃げません」


     ◇ ◇ ◇


 扉が開く。


 ノア。


 オーウェン。


 ガレス。


 リアム。


 グレイストーン。


 最後に。


 セドリック王が入ってきた。


「準備はできたか」


「はい」


 レオが答える。


「ノアは?」


「できています」


「オーウェン」


「できてないって言ったら帰してくれるか?」


「くれないでしょうね」


「ならできてる」


 ガレスが鼻で笑った。


「お前、意外と図太いな」


「巻き込まれ続けるとこうなる」


     ◇ ◇ ◇


「レオン」


 セドリックが呼ぶ。


「はい」


「最後に確認する」


 王の表情は厳しい。


「本当に話すのだな」


「はい」


「お前が」


「本来のレオンではないことを」


「話します」


「そうか」


 それだけ。


 だが。


 セドリックの手は。


 強く握られていた。


     ◇ ◇ ◇


 広場。


 王宮正面に設けられた壇上。


 三人が現れた瞬間。


 声が爆発した。


「レオン殿下!」


「ノアだ!」


「あれがオーウェン!?」


「三人ともいるぞ!」


「誰が本物なんだ!」


 近衛が制止する。


 レオは。


 一歩前へ出た。


 群衆を見る。


 何千もの目。


 その向こう。


 窓。


 路地。


 人混み。


 観察者も。


 きっといる。


「始めます」


 声が。


 少しずつ静まった。


     ◇ ◇ ◇


「最初に」


 レオが言った。


「皆さんへお願いがあります」


「今日」


「私たちは」


「誰が本物の王子なのかを決めるために」


「ここへ立ったのではありません」


 ざわめき。


「じゃあ何のためだ!」


「貼り紙には選べって!」


「その貼り紙を出したのは王宮ではありません」


 レオは答える。


「誰が出した!」


「現在調査中です」


「また調査か!」


「はい」


 レオは。


 その声から逃げなかった。


「だからこそ」


「確認できたことだけを話します」


     ◇ ◇ ◇


「まず」


「ノア・ハーディング」


 ノアが前へ出る。


「彼について」


「複数の記録と証言から」


「本名がルシアン・アーデルである可能性が極めて高いことが分かりました」


 広場が騒然となる。


「アーデル!?」


「王家の?」


「アデライド王女の息子だ!」


「静かに!」


 近衛の声。


 レオは続ける。


「彼はアデライド王女の息子として生まれ」


「幼い頃」


「身元を隠してハーディング家へ預けられた」


「その記録が見つかっています」


「つまり本物の王子か!」


 一人が叫ぶ。


 レオは。


 首を横に振った。


「私は」


「その言葉を使いません」


「なぜだ!」


「ノアがアデライド王女の息子であることと」


「私が偽物であることは」


「同じ意味ではないからです」


     ◇ ◇ ◇


「次に」


「オーウェン・クロフォード」


 オーウェンが前へ。


 広場から声。


「第二王子!」


「失われた王子だ!」


「違う」


 オーウェン自身が言った。


 ざわめきが止まる。


「俺は」


「自分が王子だと思ったことは一度もない」


「現在」


「俺が王族だとする証言が三つ出ているらしい」


「だが」


「俺自身には」


「そんな記憶はない」


「記録は?」


 誰かが叫ぶ。


「調べてる」


「俺の出生記録も」


「両親の記録も」


「今確認している」


「だから」


「勝手に俺を王子にするな」


 少し。


 笑いが起きた。


「笑い事じゃないぞ」


 オーウェンが言う。


 今度は。


 さらに小さな笑い。


 張り詰めていた空気が。


 僅かに緩んだ。


     ◇ ◇ ◇


 そして。


 レオ。


「最後に」


「私です」


 再び。


 広場が静かになった。


「現在」


「私について」


「本来のレオン王子ではないという文書が」


「王都で出回っています」


 誰も。


 声を出さない。


「その内容は」


 レオは。


 一度。


 息を吸った。


「事実です」


 瞬間。


 広場が爆発した。


「何!?」


「やっぱり偽物だ!」


「王宮は騙してたのか!」


「じゃあノアが!」


「待て!」


「殿下は!」


 無数の声。


 近衛が動こうとする。


 レオは手を上げた。


「続けます!」


 声を張る。


     ◇ ◇ ◇


「私は」


「生まれた時からレオンという名だったわけではありません」


「事情があり」


「本来の王子の身代わりとして」


「レオンの名を与えられました」


「本物はどこだ!」


「本当のレオン王子はどうした!」


 その声に。


 レオは一瞬だけ目を伏せた。


 そして。


 逃げずに答えた。


「本来のレオン王子は」


「すでに亡くなっています」


 広場が。


 再び大きくざわめいた。


「死んでるのか!?」


「じゃあなぜこいつが王子に!」


「誰が決めたんだ!」


「王宮が隠してたのか!」


「その経緯についても」


 レオは声を張る。


「確認できている事実を」


「順に説明します」


「ですが」


「今ここで」


「分からないことまで」


「分かったようには話しません」


     ◇ ◇ ◇


「では偽物だな!」


 男が叫んだ。


「お前は王子じゃない!」


 その言葉に。


 広場が静まる。


 皆。


 レオの答えを待った。


「……分かりません」


 レオは言った。


 ざわめき。


「何だそれ!」


「自分のことだろ!」


「はい」


「だから」


「自分で考えます」


     ◇ ◇ ◇


「私は」


「王子という立場を」


「自分で選んだわけではありません」


「幼い頃から」


「王子として振る舞うことを求められました」


「間違えないこと」


「弱さを見せないこと」


「誰に対しても笑うこと」


「皆が望む」


「完璧な王子であること」


 レオの声が。


 僅かに震える。


「私は」


「それが嫌でした」


 群衆が静かになる。


「ずっと」


「逃げたかった」


     ◇ ◇ ◇


 控えの間。


 ミレイは。


 窓際で。


 じっとレオを見ていた。


 森で出会った。


 あの青年。


 王子ではない顔。


 完璧でもない。


 少し面倒で。


 甘えたがりで。


 弱くて。


 それでも。


 誰かを放っておけない人。


     ◇ ◇ ◇


「ですが」


 レオが続ける。


「王子として生きた時間まで」


「偽物だったとは思いません」


「困っている人の前へ立ったこと」


「領地で皆さんと話したこと」


「失敗したこと」


「逃げたくても」


「それでも戻ったこと」


「それらは」


「私が実際にしたことです」


 誰も。


 声を上げない。


「血が違うなら」


「全部嘘になるのでしょうか」


「名前が与えられたものなら」


「その名前で生きた時間も」


「存在しなかったことになるのでしょうか」


     ◇ ◇ ◇


 エリアス。


 記録に存在しない王族。


 その男が。


 人生をかけて問い続けたもの。


 記録されなければ。


 人間は存在しないのか。


 周囲が否定すれば。


 その人間は。


 消えるのか。


 レオは。


 その問いへ。


 初めて。


 自分の答えを出そうとしていた。


「私は」


「皆さんに」


「私を本物の王子だと選んでほしいとは言いません」


 広場の隅。


 小さな帳面を持つ男が。


 手を止めた。


「ノアを選ぶなとも」


「オーウェンを選ぶなとも」


「言いません」


「なぜなら」


「私たちは」


「選択肢ではないからです」


     ◇ ◇ ◇


 ざわめき。


「どういう意味だ?」


「貼り紙には」


「三人から選べと書いてありました」


「でも」


「なぜ選ばなければならないのですか」


 静寂。


「ノアには」


「ノアの人生があります」


「オーウェンには」


「オーウェンの人生があります」


「そして」


「私には」


「私の人生がある」


「誰か一人を本物にするために」


「他の二人を消す必要はありません」


     ◇ ◇ ◇


 人混み。


 記録係たちが。


 次々と文字を書き始める。


 **選択拒否。**


 **対象レオン――設問そのものを否定。**


 **群衆反応――**


 そこで。


 一人の手が止まった。


 周囲から。


 拍手が聞こえたからだ。


 一人。


 二人。


 まだ。


 小さい。


 やがて。


 別の場所からも。


     ◇ ◇ ◇


「最後に」


 レオが言った。


「私自身のことだけ」


「答えます」


 拍手が止まる。


「私は」


 一度。


 目を閉じた。


 王宮で。


 何度も呼ばれた。


 レオン殿下。


 完璧王子。


 国の希望。


 全部。


 誰かが与えた名前。


 だが。


 森で。


 一人だけ。


 違う呼び方をした人がいた。


 レオ。


 その名で呼ばれた時。


 初めて。


 自分が。


 誰かになれた気がした。


「私の出生が何であっても」


「王子という立場が今後どうなるとしても」


「私は」


 レオは。


 群衆を見る。


「レオです」


     ◇ ◇ ◇


 ミレイが。


 笑った。


 目には。


 涙が浮かんでいた。


「やっと言った」


 誰にも聞こえない声。


     ◇ ◇ ◇


「レオ?」


 群衆の誰かが。


 聞き返す。


「はい」


「それが本当の名前なのか?」


 レオは少し困った。


「……それも」


「正確には愛称です」


 一瞬。


 静かになり。


 どこかから。


 笑い声。


 レオも。


 少しだけ笑った。


「ですが」


「私はその名が好きです」


     ◇ ◇ ◇


 壇上の後ろ。


 セドリック王が。


 目を閉じた。


 王子として。


 育てた。


 いや。


 育てさせた。


 完璧であれと。


 要求した。


 その青年が。


 今。


 王子という肩書きではなく。


 自分の名前を選んだ。


     ◇ ◇ ◇


 だが。


 白鴉は。


 それすら記録している。


 広場北側。


 二階の窓。


 男が帳面へ書き込む。


 **レオン――自己定義を優先。**


 **血統による定義を拒否。**


 **群衆――好意的反応増加。**


 そして。


 最後。


 **想定範囲内。**


     ◇ ◇ ◇


 説明が終わった後。


 三人は王宮へ戻った。


「……疲れた」


 扉が閉まった瞬間。


 レオが言った。


「お疲れ」


 ミレイが近づく。


「もう無理です」


「さっきまで格好よかったのに」


「終わりましたから」


「切り替え早いね」


「抱き締めても?」


「ここで?」


「駄目ですか」


「人いるよ」


「いますね」


 ガレス。


 リアム。


 ノア。


 オーウェン。


 グレイストーン。


 そして。


 セドリック。


 全員いる。


「後で」


「……はい」


     ◇ ◇ ◇


「それより」


 リアムが言った。


「問題があります」


「何です」


「広場で」


「不審な記録係を数人確認しました」


 空気が変わる。


「捕まえた?」


 ガレスが尋ねる。


「二人」


「他は逃走」


「二人は?」


「別室で監視しています」


「持っていた帳面は?」


「回収済みです」


「見せてください」


     ◇ ◇ ◇


 帳面。


 そこには。


 広場で起きたことが。


 細かく記録されていた。


 誰の発言で。


 どれくらいざわめいたか。


 拍手。


 罵声。


 沈黙。


 そして。


 三人への反応。


「完全に実験記録だな」


 ガレスが言う。


「はい」


 リアムが頁をめくる。


 最後の頁。


 **第四観察――第二段階。**


 その下。


 三項目。


 **血統。**


 **記録。**


 **実績。**


 さらに。


 **第四項目発生。**


 **自己定義。**


「私?」


 レオが言う。


「おそらく」


「想定範囲内とも書いてあります」


「じゃあ」


 ミレイが顔をしかめる。


「レオがああ言うのも予想されてた?」


「そうなります」


「嫌だな」


     ◇ ◇ ◇


「でも」


 ノアが言った。


「予想されていたから何です?」


 全員が見る。


「相手が」


「レオがどう答えるか予想していた」


「だから?」


「答えを変える必要がありますか」


 レオが。


 ノアを見る。


「……ありません」


「なら」


「気にしなくていいでしょう」


「珍しくいいこと言うな」


 オーウェンが言う。


「珍しくは余計です」


     ◇ ◇ ◇


 リアムが。


 さらに帳面を確認する。


「待ってください」


「何です」


「この記号」


 頁の隅。


 小さな印。


 鳥ではない。


 丸。


 その中に。


 三本の縦線。


「見たことある?」


 ミレイが尋ねる。


「ありません」


 クララが。


 近づいた。


 そして。


 顔色を変えた。


「……これ」


「知っているんですか」


「はい」


「どこで?」


「リーベル村の資料です」


     ◇ ◇ ◇


「どういう印?」


 レオが尋ねる。


 クララは答えた。


「二十年前」


「村の住民へ配られた紙」


「その一部に」


「この印が押されていた」


「白鴉の印じゃない?」


「違います」


「では?」


「分かりません」


「ただ」


 クララは。


 記号を指でなぞる。


「エリアスが」


「この印について」


「一度だけ話したことがあります」


「何と?」


 クララが。


 レオを見る。


「これは」


「観察する側の印ではない」


 一度。


 息を吸う。


「観察される側が」


「互いを見分けるための印だと」


     ◇ ◇ ◇


「待って」


 ミレイが言う。


「どういうこと?」


「白鴉に観察されてた人たちが」


「自分たちで作った印?」


「そういう意味にも聞こえます」


 リアムが答える。


「なら」


 ガレスが帳面を見る。


「なんで白鴉の記録係が持ってる」


 誰も答えられない。


     ◇ ◇ ◇


 捕らえた二人。


 話を聞く必要がある。


「行きます」


 レオが立つ。


 地下ではなく。


 王宮警備棟。


 窓のない小部屋。


 二人の男が。


 別々に監視されている。


 最初の男。


 二十代後半。


 普通の服。


 武器なし。


「名前は?」


「トーマス・レイン」


「誰に頼まれて記録していたのです」


 男は。


 黙った。


「白鴉?」


 反応なし。


「エリアス・ヴァレン?」


 男の眉が。


 ほんの僅かに動いた。


     ◇ ◇ ◇


「知っていますね」


 リアムが言う。


「……知らない」


「今反応しました」


「知らない」


「では」


 レオが。


 帳面を置いた。


「この印は?」


 丸。


 三本線。


 男の顔色が。


 明らかに変わった。


「どこで」


「あなたの帳面です」


「違う」


「何が?」


「俺が書いたんじゃない」


「では誰が」


「知らない!」


 初めて。


 男が声を荒らげた。


     ◇ ◇ ◇


「落ち着いてください」


「それ」


 男が印を指す。


「いつからあった」


「分かりません」


「帳面を渡された時?」


「……」


「誰に渡された?」


 沈黙。


「あなたは」


 レオが尋ねる。


「白鴉の人間ですか」


「違う」


 今度は。


 即答だった。


「では何です」


 男は。


 長く黙った。


 そして。


「金で雇われただけだ」


「誰に」


「知らない男」


「何を頼まれた」


「広場で」


「人の反応を書けって」


「帳面も?」


「渡された」


「この印については?」


「知らない」


     ◇ ◇ ◇


「報酬は?」


「前金」


「残りは?」


「仕事が終わったら」


「どこで?」


 男が。


 唇を噛む。


「言えば」


「殺される」


「誰に?」


「分からない」


「なら」


 ミレイが言った。


「余計に言った方がよくない?」


 男が見る。


「相手が誰かも分からないんでしょ」


「だったら」


「黙ってても安全とは限らないよ」


 男は。


 何も言えなかった。


     ◇ ◇ ◇


 しばらくして。


 男が。


 小さく答えた。


「……西門」


「いつ?」


「今日の夕方」


「場所は?」


「古い水車小屋」


「王都の外?」


「少しだけ」


「合図は?」


「この帳面を」


「窓に置く」


「誰が来る?」


「知らない」


     ◇ ◇ ◇


 レオたちは。


 顔を見合わせた。


「行く?」


 ミレイが尋ねる。


「行きます」


「罠だぞ」


 ガレスが言う。


「はい」


「分かってて?」


「だから」


 レオは答えた。


「準備して行きます」


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 王都西門外。


 古い水車小屋。


 すでに使われていない。


 川の流れだけが。


 壊れた水車を。


 ゆっくり動かしている。


 レオたちは。


 少し離れた場所に身を隠していた。


 窓。


 そこへ。


 帳面を置く。


 待つ。


 一刻ほど。


 誰も来ない。


「来ないな」


 ガレスが呟く。


「気づかれた?」


 ミレイが言う。


「可能性は」


 その時。


 リアムが。


 水車小屋を見る。


「待ってください」


「何?」


「帳面が」


 なくなっていた。


     ◇ ◇ ◇


「いつ!?」


 ガレスが立つ。


「誰も入ってないぞ!」


「裏?」


「見張りがいます!」


「屋根?」


「確認!」


 全員が動く。


 小屋へ。


 窓。


 帳面はない。


 代わりに。


 一枚の紙。


「……またか」


 ガレスが顔をしかめる。


 レオが読む。


 短い。


 **答えは確認した。**


 その下。


 **次は、始まりへ。**


 そして。


 あの印。


 丸の中に。


 三本の線。


     ◇ ◇ ◇


「リーベル」


 ミレイが言った。


「はい」


 レオも。


 今度は迷わなかった。


「向こうから」


「来いと言っています」


「行く?」


「行きます」


「罠でも?」


「罠だからこそ」


「準備して」


 レオは。


 紙を折った。


「全員で」


     ◇ ◇ ◇


 その夜。


 王宮。


 リーベル村へ向かう準備が始まった。


 地図。


 食料。


 水。


 医薬品。


 縄。


 ランタン。


 予備の蝋燭。


 そして。


 エドガーの帳面。


 クララも同行する。


 オーウェンは。


 傷のため王都に残ることになった。


 ノアも。


 セドリック王のそばへ残る。


「レオ」


 出発準備を終えた部屋で。


 ミレイが呼ぶ。


「はい」


「明日?」


「早朝です」


「リーベルまで?」


「二日ほど」


「フェルトハイムとは逆?」


「はい」


 ミレイは。


 少しだけ。


 子供たちのいる方向を見るように。


 窓の外へ目を向けた。


「早く終わらせようね」


「はい」


「帰らないと」


「ルナとソラに?」


「うん」


「ソラへのお菓子もあります」


「まだ買ってないでしょ」


「帰りに買います」


「忘れそう」


「覚えています」


     ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 夜明け前。


 王都西門。


 レオ。


 ミレイ。


 ガレス。


 リアム。


 クララ。


 そして護衛。


 馬車が。


 ゆっくり動き出す。


 目的地。


 旧リーベル村。


 二十年前。


 一人の老人が。


 人々の記憶から消された場所。


 白鴉計画の原点。


 そして。


 エリアス・ヴァレンが。


 最初に何かを始めた場所。


 レオは。


 エドガーの地図を開く。


 森の中。


 赤い丸。


 **最初の観察室。**


 そこに。


 答えがあるのか。


 それとも。


 最後の観察が。


 待っているのか。


 馬車は。


 静かに。


 西へ進んでいった。


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