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第227話 クララ・ウェルズ

王都北西。


 廃教会へ向かう道は、街道から大きく外れていた。


 人通りは少ない。


 古い石垣。


 伸び放題の草。


 ところどころ崩れた道。


 レオたちは、グレイストーンから送られてきた案内を頼りに進んでいた。


「本当にここ?」


 ミレイが馬車の窓から外を見る。


「はい」


 リアムが地図を確認する。


「あと半刻ほどです」


「クララさん」


「十七年間ずっと姿を消してたんだよね」


「そうです」


「それが今になってオーウェンと一緒に見つかった」


「偶然とは考えにくいですね」


 レオが答えた。


「でも」


 ガレスが言う。


「本人が自分から出てきたのか」


「誰かに連れてこられたのか」


「そこも確認です」


「はい」


 レオは窓の外へ目を向ける。


 クララ・ウェルズ。


 アデライド王女付きの侍女。


 十七年前。


 対象017――ルシアンをアルバート・ハーディング伯爵へ預けた人物。


 そして今。


 観察者の正体を知っている。


 もし本当なら。


 これまで曖昧だった敵の中心へ。


 初めて直接手を伸ばせる。


     ◇ ◇ ◇


 廃教会が見えてきた。


 小さな石造り。


 尖塔の上部は崩れている。


 正面には。


 王都近衛の兵士が数人。


「レオン殿下」


 隊長が駆け寄る。


「状況は?」


「変化ありません」


「クララ・ウェルズと見られる女性」


「それからオーウェン・クロフォード」


「二人とも中です」


「拘束は?」


「しておりません」


「なぜ?」


「グレイストーン公爵より」


「本人たちが自発的に出てきた場合、まず事情を聞けとの命令が」


「自発的?」


「はい」


 レオの表情が変わる。


「発見したのでは?」


「正確には」


 隊長が答える。


「こちらが捜索していたところ」


「教会前にオーウェン本人が現れ」


「『クララ・ウェルズに会いたければ中へ』と」


「オーウェンが?」


「はい」


「傷は?」


「まだ完全ではありません」


「ですが歩けています」


「医師は?」


「中に一人」


「それと」


 隊長は声を落とす。


「クララ本人が」


「兵を増やすなと言っています」


「理由は?」


「観察者に気づかれる、と」


     ◇ ◇ ◇


「もう気づかれてるんじゃない?」


 ミレイが小さく言う。


「私もそう思います」


 レオが答える。


「ですが」


「クララさん自身が何を知っているのか」


「まず聞きます」


「中へ入る人数は?」


 ガレスが尋ねる。


 レオは少し考えた。


「私」


「ミレイ」


「ガレス」


「リアム」


「四人で」


「護衛は外へ」


「いいのか?」


「はい」


「相手が罠を仕掛けているなら」


「大人数で入っても意味がありません」


「ミレイさんは」


 リアムが言う。


「本当に一緒で?」


 レオはミレイを見る。


「行く?」


「行く」


「即答ですね」


「ここまで来て外で待ってろって言わないよね?」


「……言おうとは思いました」


「レオ」


「言ってません」


     ◇ ◇ ◇


 教会の扉を開く。


 古い木。


 軋む音。


 中は薄暗い。


 割れた窓から。


 昼の光が斜めに差し込んでいる。


 長椅子は半分ほど壊れ。


 祭壇も崩れていた。


 その中央。


 一人の男。


 オーウェン。


 胸元にはまだ包帯。


「来ましたか」


「オーウェン」


 レオが近づく。


「なぜ治療室から消えたのです」


「それも話します」


「先に」


 オーウェンが奥を見る。


「彼女が待っています」


 祭壇の横。


 小さな扉。


 その先に。


 一人の女性が座っていた。


     ◇ ◇ ◇


 年齢は五十代後半ほど。


 灰色の髪。


 痩せた顔。


 だが。


 姿勢は真っすぐだった。


「クララ・ウェルズさん?」


 レオが尋ねる。


「はい」


 女性が答える。


「あなたがレオン殿下ですね」


「そうです」


 クララは。


 レオの顔を。


 少し長く見つめた。


「……似ていませんね」


 レオの表情が変わる。


「誰にです」


「何でもありません」


「今の言葉は」


「後で」


 クララはミレイを見る。


「あなたがミレイ」


「はい」


「マリアから聞いています」


「マリアおばあさんから?」


「昔の手紙で」


「最近ではありません」


 また。


 十七年前と現在の間に。


 隠れていた繋がり。


     ◇ ◇ ◇


「まず」


 レオは言った。


「観察者について聞かせてください」


 クララはすぐに答えなかった。


「その前に」


「確認したいことがあります」


「何です」


「ノア」


「今は王宮に?」


「はい」


「自分のことを知った?」


「一部は」


「本当の名前がルシアン・アーデルであること」


「アデライド王女の息子であること」


「そこまでは」


 クララが目を閉じる。


「そうですか」


「十七年」


「長かった」


「あなたは」


 ミレイが言う。


「ノアさんをハーディング伯爵に預けたんですよね」


「はい」


「その後」


「どうして姿を消したの?」


「追われていたからです」


「誰に」


 クララが答える。


「白鴉計画を続けたがっていた者たちに」


     ◇ ◇ ◇


「十七年前の白鴉計画は」


 リアムが尋ねる。


「監察局が調査していた」


「はい」


「では」


「計画を実行していた中心は?」


 クララがレオを見る。


「王宮の中にいました」


 全員の表情が変わる。


「誰です」


「名前を言う前に」


 クララは続ける。


「理解してほしいことがあります」


「白鴉計画は」


「最初から一人の人間が作ったものではありません」


「複数の部署」


「複数の研究者」


「複数の支援者」


「それぞれが部分だけを担当していた」


「だから」


 ガレスが言う。


「誰が首謀者か分からない?」


「当時は」


「そうでした」


「今は?」


「今は違います」


 クララの声が低くなる。


「誰かが」


「十七年前の残骸を集めた」


「資料」


「人脈」


「手法」


「そして」


「白鴉という名前まで」


「それが観察者?」


「はい」


     ◇ ◇ ◇


「名前は?」


 レオが尋ねる。


 クララは。


 一度。


 オーウェンを見る。


 オーウェンが小さく頷く。


「観察者の名は」


 クララが口を開く。


「――エリアス・ヴァレン」


 空気が止まった。


「ヴァレン?」


 ミレイが聞き返す。


 レオの表情が変わる。


 その姓。


 知っている。


「王族?」


 ガレスが言う。


「違います」


 レオが答えた。


「少なくとも、現在の王族としてその名の人物はいません」


「では?」


「ヴァレンという名は、古い王統に関わる名として記録に残っています」


「ですが」


 レオは考える。


「エリアスという人物に心当たりがない」


「当然です」


 クララが言った。


「公式記録には」


「存在しませんから」


     ◇ ◇ ◇


「また消された人間?」


 ミレイが顔をしかめる。


「少し違います」


 クララが答える。


「最初から」


「記録へ載せられなかった人です」


「どういう意味です」


 リアムが尋ねる。


「エリアスは」


「先王の庶子でした」


 全員が黙る。


「先王の?」


 レオが言う。


「つまり」


 セドリック王の。


 異母兄弟。


「はい」


「陛下は知っている?」


「おそらく」


 クララは首を横に振る。


「知りません」


「なぜです」


「出生そのものが隠されたからです」


     ◇ ◇ ◇


「母親は?」


 リアムが尋ねる。


「王宮で働いていた女性」


「名前は?」


「エヴァ・ハルディ」


「その女性は?」


「エリアスを産んだ直後」


「王都から消えました」


「死んだ?」


「分かりません」


「エリアスは誰に育てられたのです」


「王宮の外」


「先王に近い者が」


「ですが」


 クララは少し言葉を濁す。


「それ以上は、私も全部は知りません」


「どうしてエリアスを知ったのです」


「アデライド王女です」


     ◇ ◇ ◇


「アデライド王女は」


 クララが続ける。


「偶然」


「先王が残した私的な手紙を見つけました」


「そこに」


「エリアスの存在が書かれていた」


「それで?」


「王女は調べた」


「私も手伝いました」


「マリアさんも?」


 ミレイが尋ねる。


「一部だけ」


「でも」


「エリアス本人に会ったのですか」


「はい」


「いつ?」


「十九年前」


     ◇ ◇ ◇


 十七年前より。


 二年前。


「どんな人でした」


 レオが尋ねる。


 クララは。


 すぐに答えなかった。


「穏やかでした」


「少なくとも」


「最初は」


「何をしていた?」


「記録係」


「王宮の?」


「いいえ」


「民間の調査組織に」


「名前は?」


「記録管理協会」


 レオとリアムが顔を見合わせる。


「王都記録保存協会」


 リアムが言う。


「最近使われていた偽名と似ています」


「はい」


「観察者が」


「昔の名称を利用しているのでしょう」


     ◇ ◇ ◇


「エリアスは」


 クララが続ける。


「自分が王族だと知っていました」


「王位を望んだ?」


 ガレスが尋ねる。


「いいえ」


「少なくとも当時は」


「むしろ」


「王家そのものを嫌っていた」


「なぜ?」


「自分を存在しないものとして扱ったからです」


「それは」


 ミレイが言う。


「分からなくもないね」


「はい」


「問題は」


 クララが答える。


「彼が」


「記録というものを」


「憎むようになったことです」


     ◇ ◇ ◇


「記録を?」


 レオが聞き返す。


「自分は生きている」


「でも記録には存在しない」


「なら」


「記録とは何なのか」


「誰かが書けば真実になり」


「書かなければ存在しなかったことになる」


「エリアスは」


「そこへ強く執着するようになりました」


 MIREI。


 現実整合。


 レオの表情が変わる。


「白鴉計画へ関わったのは」


「その考えが理由?」


「はい」


「正確には」


「最初は研究協力者でした」


「人間が」


「記録と周囲の証言によって」


「どこまで自分自身を疑うか」


「それに興味を持った」


     ◇ ◇ ◇


「待ってください」


 リアムが言う。


「白鴉計画は」


「十七年前にはすでに存在した」


「エリアスは当時」


「何歳です」


「二十代後半」


「十分関われる」


「はい」


「では首謀者?」


「当時は違います」


 クララが答える。


「研究者の一人」


「ただし」


「途中から」


「計画の方向を変えようとした」


「どんな方向へ」


 クララの表情が暗くなる。


「一人の対象ではなく」


「社会全体へ」


 レオたちは。


 言葉を失った。


 今。


 起きていること。


 そのものだった。


     ◇ ◇ ◇


「十七年前から」


 ミレイが呟く。


「国全体にやろうとしてた?」


「はい」


「でも止められた」


「監察局が?」


「監察局だけではありません」


「白鴉計画内部にも」


「そこまでは危険だと考える者がいた」


「エドガー・ロウ?」


「彼もです」


「ルイスも」


「マリアも」


「そして」


 クララは。


 一度言葉を止める。


「アデライド王女も」


     ◇ ◇ ◇


「アデライド王女が?」


 レオが尋ねる。


「白鴉を知っていたのですか」


「はい」


「だから」


「ルシアンが対象にされた時」


「すぐ気づいた」


「なぜ王子を対象に?」


「エリアスが選んだのです」


 ノア。


 対象017。


 王位継承順位第三位。


「理由は?」


 クララの声が。


 低くなる。


「証明するためです」


「何を」


「血統も」


「身分も」


「本人の認識も」


「周囲が作るものにすぎないと」


     ◇ ◇ ◇


「自分と同じにしたかった?」


 ミレイが言った。


 クララは。


 少し驚いたように。


 ミレイを見る。


「……おそらく」


「自分は」


「王族の血を持ちながら」


「王族ではないことにされた」


「なら」


「王族として育った子供を」


「逆に」


「王族ではないと思わせられるか」


「それを試した?」


「はい」


 ガレスの拳が握られる。


「子供で実験したのか」


「そうです」


     ◇ ◇ ◇


「アデライド王女は」


 レオが尋ねる。


「それを知って」


「エリアスと対立した?」


「はい」


「その後」


「王女は亡くなった」


 クララの表情が変わる。


「病死ではない?」


 ミレイが気づく。


 沈黙。


「クララさん」


「答えてください」


 レオが言う。


「アデライド王女は」


「殺されたのですか」


 クララは。


 ゆっくり。


 頷いた。


     ◇ ◇ ◇


 誰も。


 声を出さなかった。


「誰に」


 レオが尋ねる。


「エリアス?」


「分かりません」


「見たのでは?」


「いいえ」


「でも」


「王女が亡くなる前」


「薬が変えられました」


 ミレイの顔が変わる。


「薬?」


「王女は長く薬を飲んでいた」


「ある日」


「マリアが」


「処方がおかしいことに気づいた」


「それで?」


「調べる前に」


「王女は急変した」


「毒?」


「確証はありません」


「でも」


「マリアは」


「薬の一部が意図的に変えられた可能性を疑っていた」


     ◇ ◇ ◇


「マリアさん」


 ミレイが呟く。


 また。


 隠していた。


 だが。


 今は。


 責める時間ではない。


「王女が死んだ後」


 クララが続ける。


「ルシアンが狙われました」


「エリアスは」


「計画を続けようとした」


「そこで」


「エドガーたちが逃がした」


「はい」


「そしてエリアスは?」


「姿を消しました」


「監察局が消えた時と同じ?」


「ほぼ同時期です」


     ◇ ◇ ◇


「十七年間」


 ガレスが言う。


「何してた」


「分かりません」


「じゃあ」


 リアムが尋ねる。


「なぜ今の観察者がエリアスだと断定できるのです」


 クララは。


 自分の懐から。


 一枚の紙を出した。


「これが届いたからです」


「いつ?」


「半年前」


「どこへ?」


「私が隠れていた場所へ」


 紙。


 古い。


 だが。


 文字は新しい。


 短い文章。


 記録に存在しない者同士、最後まで見届けよう。


 その下。


 署名。


 E.V.


「それだけなら」


 レオが言う。


「本人とは限りません」


「はい」


「だから」


 クララは続ける。


「もう一つ」


 紙の裏。


 小さな文章。


 第三席の少年は、今も自分を知らない。


 君たちの保護は成功した。


 だから次は、国全体で試す。


     ◇ ◇ ◇


「この内容を知る者は」


 リアムが言う。


「かなり限られる」


「はい」


「エリアス本人」


「あるいは」


「十七年前に内部へいた人物」


「そうです」


「ならまだ」


 レオは言う。


「エリアスだと断定はできない」


 クララは。


 少しだけ笑った。


「あなたは」


「本当に慎重ですね」


「最近学びました」


「誰から?」


「敵からです」


     ◇ ◇ ◇


「オーウェン」


 レオは男を見る。


「あなたはどうしてクララさんの場所を知っていたのです」


「叔父からです」


「エドガーが?」


「はい」


「いつ?」


「死ぬ前」


「もし自分に何かあったら」


「この場所へ行けと」


「それが廃教会?」


「正確には」


「ここに隠された箱です」


「箱?」


 オーウェンが祭壇の横へ向かう。


 崩れた石。


 その下。


 小さな鉄箱。


「叔父が残したものです」


     ◇ ◇ ◇


「中身は?」


 リアムが尋ねる。


「まだ開けていません」


「なぜ?」


「鍵がなかった」


「クララさんが?」


「持っていました」


 クララが。


 首から。


 小さな鍵を外す。


「エドガーから?」


「十七年前」


「もし彼が再びここへ物を残す時のために」


 ガレスが顔をしかめる。


「随分長い準備だな」


「そういう人でした」


     ◇ ◇ ◇


 鍵を差し込む。


 リアムが仕掛けを確認。


 問題なし。


 蓋を開く。


 中に。


 書類。


 数冊の帳面。


 そして。


 一枚の封書。


 宛名。


 レオン王子へ。


 全員が固まる。


「私?」


 レオが言う。


「二年前に死んだ人が?」


 ミレイも驚く。


「なぜレオの名前を」


 封書は。


 かなり新しい。


 二、三年前。


 少なくとも。


 十七年前のものではない。


「開けます」


     ◇ ◇ ◇


 エドガー・ロウの手紙。


 冒頭。


 これを読んでいるということは、私はもう生きていないだろう。


 次。


 そして、君がレオン王子として白鴉を追っているなら、事態は私が恐れたところまで進んだということだ。


 レオの手が止まる。


「エドガーは」


 リアムが言う。


「三年前の時点で」


「レオ様が白鴉と関わる可能性を考えていた?」


「なぜ」


 ミレイが尋ねる。


 続きを読む。


 君について調べた。


 レオの顔から。


 表情が消える。


 王宮が作った完璧な王子。


 しかし、君自身はその仮面に強い違和感を抱いている。


 ミレイが。


 レオを見る。


     ◇ ◇ ◇


 さらに。


 白鴉は必ず君を観察対象に選ぶ。


 なぜなら君は、彼らが最も好む種類の人間だからだ。


 周囲が求める自分と、本当の自分が一致していない。


 レオは。


 手紙を握る指に力が入る。


 完璧王子。


 作られた人格。


 その仮面の下を。


 ミレイだけが。


 最初から見ていた。


     ◇ ◇ ◇


 次の一文。


 そして観察者は、君のさらに深い秘密を知れば、必ず利用する。


 レオの呼吸が止まった。


「深い秘密?」


 ミレイが言う。


 レオは。


 続きを読んだ。


 そこには。


 はっきり書かれていた。


 君が、本来のレオン王子ではないことを。


 部屋が。


 完全に静まり返った。


     ◇ ◇ ◇


 ガレス。


 リアム。


 ミレイ。


 皆。


 その事実は知っている。


 だが。


 二年前に死んだエドガー・ロウが。


 なぜ。


「……知っていた」


 レオが呟く。


「エドガーさんが」


 ミレイの声も低い。


「レオのことを」


 続きを読む。


 安心してほしい。


 私は君を脅すためにこの事実を書いているのではない。


 むしろ逆だ。


 観察者がその秘密を使う前に、君自身が理解しておく必要がある。


 そして。


 次。


 白鴉の最終目的は、王位ではない。


 全員が。


 息を止める。


 本物の王子と偽物の王子を争わせることでもない。


 彼が証明したいのは、ただ一つ。


 最後。


 人間は、真実ではなく、信じた現実によって生きる。


 レオは。


 その一文を。


 何度も見た。


     ◇ ◇ ◇


「続きがあります」


 リアムが言う。


 レオが頁をめくる。


 だから彼は、王国そのものを使う。


 本物の王族。


 作られた王族。


 消された王族。


 そして、王子として生きてきた君。


 レオの胸が。


 重くなる。


 ノア。


 オーウェン。


 レオ。


 違う形で。


 すべて。


 「王子」というものに。


 結びつけられている。


     ◇ ◇ ◇


 そして。


 手紙の最後。


 観察者を止めたいなら、彼の正体だけを追ってはいけない。


 彼が最後に何を見せようとしているのかを考えろ。


 その場所は、王宮ではない。


 フェルトハイムでもない。


 すべてが始まった場所だ。


 そこで。


 手紙は終わっていた。


「すべてが始まった場所?」


 ミレイが呟く。


 レオも。


 すぐには答えなかった。


 白鴉計画が始まった場所?


 観察者が生まれた場所?


 それとも。


 自分たちにとって。


 すべてが始まった場所。


 ミレイと。


 レオが。


 初めて出会った。


 あの辺境の森?


 だが。


 決めつけない。


「他の資料を確認します」


 レオが言った。


「手紙だけでは」


「まだ分かりません」


 クララが。


 静かにレオを見ていた。


「それでいい」


「何がです」


「エドガーが」


「あなたへ託した理由が」


「少し分かりました」


「理由?」


「簡単に」


 クララは答えた。


「誰かが用意した答えを」


「信じないからです」


 レオは。


 鉄箱の中に残る帳面へ。


 視線を落とした。


 観察者。


 エリアス・ヴァレン。


 そして。


 エドガーが残した。


 最後の記録。


 その中に。


 白鴉が目指す。


 最終地点への道が。


 残されているかもしれなかった。

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