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第225話 燃える倉庫、北へ走る馬車

フェルトハイム南区。


 穀物倉庫へ近づくにつれ、空気が熱を帯びていった。


 黒煙。


 怒号。


 桶を抱えて走る住民たち。


「道を空けてください!」


 レオが声を張る。


「火元はどこです!」


「東側だ!」


「倉庫の裏から燃え始めた!」


 消防隊の男が叫ぶ。


 石造りの大きな倉庫。


 屋根の一部から炎が上がっている。


 だが、まだ全体へは回っていない。


「中に人は?」


「いない!」


「穀物は?」


「今年分の備蓄が半分以上!」


 焼ければ。


 すぐに飢えるわけではない。


 だが冬へ向けた備蓄に大きな穴が開く。


 それだけで。


 新しい噂が生まれる。


 領主が食料を燃やした。


 王都へ持ち出すためだ。


 税を払わない住民への報復だ。


 何でも作れる。


「消火を優先!」


 レオが叫ぶ。


「中の穀物を運び出せる者は西側から!」


「東側へ近づきすぎないでください!」


「リアム!」


「はい!」


「火元を確認してください!」


「分かりました!」


     ◇ ◇ ◇


 ミレイも桶を運ぼうとした。


 レオが止める。


「待ってください」


「でも人手が」


「火の近くへは行かないでください」


「何もしないのは嫌」


「では」


 レオは周囲を見る。


「怪我人を」


「そっちなら任せて」


 消防隊の横。


 煙を吸って咳き込む者。


 転倒して腕を切った者。


 火傷を負った者。


 ミレイはそちらへ走った。


「水を!」


「布も!」


「火傷したところを触らないで!」


 薬師見習いだった頃。


 得意ではなかった薬草。


 何度も失敗した調合。


 それでも。


 目の前の人間を助けようとする姿勢だけは。


 昔から変わらなかった。


     ◇ ◇ ◇


「レオ様!」


 リアムが戻ってくる。


「どうでした」


「自然発火ではありません」


「やはり?」


「裏手に油を撒いた跡があります」


「量は?」


「それほど多くありません」


「倉庫全体を焼くには?」


「足りないと思います」


 レオが眉を寄せる。


「では目的は」


「火事を起こすこと自体?」


「その可能性があります」


 穀物をすべて焼きたいなら。


 もっと大量の油を使えばいい。


 だが実際には。


 消防隊が間に合う程度の規模。


「大きな被害ではなく」


 レオが呟く。


「私たちをここへ動かすことが目的だった」


「そう見えます」


 つまり。


 南の火災は。


 領民を失うという脅しを成立させるための舞台。


「嫌ですね」


 リアムが言う。


「何がです」


「こちらが火を消せば」


「『領民を選んだ』と記録されるかもしれません」


「逆なら」


「『基準点側を選んだ』」


「はい」


 レオは炎を見る。


「ですが」


「だからといって火を放置する理由にはなりません」


「同感です」


     ◇ ◇ ◇


 一方。


 北街道。


 ガレスたちは灰色の幌馬車を追っていた。


「右後輪に傷!」


 先頭の護衛が叫ぶ。


「道にも跡があります!」


 ぬかるんだ街道。


 車輪の一方だけ、一定間隔で深い傷を残している。


「間違いない」


 ガレスが馬を進める。


「距離は?」


「それほど離れていません!」


「速度を上げろ!」


 だが。


 すぐ先に。


 道が二つへ分かれていた。


「どっちだ」


 護衛が馬を止める。


 左。


 北西の村へ。


 右。


 古い石切り場を抜ける道。


 車輪跡は。


 両方にあった。


「……分けたな」


 ガレスが馬から降りる。


「別の馬車?」


「おそらく」


 右後輪に同じ傷をつけた馬車を。


 少なくとも二台。


 用意していた。


「また二択かよ」


 ガレスが舌打ちする。


     ◇ ◇ ◇


「どうします」


 護衛が尋ねる。


「分かれません」


「でも」


「レオに言われただろ」


「無理に救出するな」


「確認しろって」


 ガレスは地面を見る。


「車輪だけ追うな」


「他の跡を探せ」


「馬の蹄?」


「それも」


「足跡」


「落とし物」


「人が通れば何か残る」


 全員で周囲を調べる。


 しばらくして。


 一人の護衛が声を上げた。


「こちらです!」


 右側の道。


 草むら。


 小さな布切れ。


「何だ?」


 ガレスが拾わずに見る。


 淡い黄色。


「女性の服?」


「分かりません」


「だが」


 護衛が言う。


「昨日、セリーヌさんが屋敷にいた時」


「黄色い肩掛けをしていたと使用人が」


「なら右だ」


「待て」


 ガレスはすぐには動かなかった。


 布切れ。


 あまりにも。


 分かりやすい。


「置かれた可能性もある」


「では?」


 ガレスは周囲を見る。


「この近くに人家は?」


「少し先に農家が一軒」


「まずそこだ」


     ◇ ◇ ◇


 農家。


 年老いた夫婦が暮らしていた。


「馬車?」


 老人が聞き返す。


「ああ」


「灰色の幌」


「二頭立て」


「右後輪に傷」


「見たよ」


「どっちへ?」


「右だ」


「一台?」


「いや」


 老人が首を傾げる。


「少し前に左へも似たのが行った」


「時間は?」


「右が先」


「左はその四半刻くらい後だな」


「女性は?」


「右の馬車の窓から」


「一瞬、若い娘が見えた」


 ガレスの表情が変わる。


「髪は?」


「茶色だったと思う」


 セリーヌと一致する。


「ありがとうございます」


 これで。


 右へ進む理由が。


 敵の置いた布だけではなくなった。


「行くぞ」


     ◇ ◇ ◇


 南区。


 火勢は弱まり始めていた。


「あと少しだ!」


「西側の穀物を運べ!」


 レオも袋を運ぶ住民たちを手伝っていた。


「殿下!」


「無理を」


「今は人手が必要です」


「でも」


「軽いものだけです」


 ガレスがいれば。


 きっと怒るだろう。


 そんなことを考えながら。


 レオは袋を荷車へ積む。


 その時。


「レオ!」


 ミレイが呼んだ。


「どうしました」


「この人」


 若い消防隊員。


 足首を捻っている。


「何か見たって」


 男が苦しそうに言う。


「火が出る前」


「裏手に人がいた」


「どんな人です」


「女」


 レオの目が細くなる。


「年齢は?」


「分からない」


「外套と帽子で」


「顔は?」


「ほとんど」


「何をしていました」


「箱を置いてた」


「箱?」


「小さい木箱」


「その後?」


「すぐいなくなった」


「箱は」


「火が出た場所の近くだった」


 リアムが反応する。


「油は箱に?」


「可能性があります」


「女性を追えますか」


「今からでは」


「いいえ」


 レオが言う。


「まず箱の跡を」


     ◇ ◇ ◇


 燃えた裏手。


 黒く焦げた地面。


 油の跡。


 その中央に。


 金属片が残っていた。


「箱の留め具でしょう」


 リアムが布越しに拾う。


「何か刻まれています」


 煤を拭う。


 文字。


 第四観察・南。


 ミレイが顔をしかめた。


「わざと残してる」


「はい」


「でも」


 リアムが金属片を裏返す。


 裏側にも文字。


 小さい。


 反応時間――記録済。


「見られていた」


 レオが周囲を見る。


 屋根。


 窓。


 路地。


 どこからでも観察できる。


「私たちが到着するまで」


「消火を始めるまで」


「全部測っていた?」


「おそらく」


 ミレイが言う。


「気持ち悪い」


「同感です」


     ◇ ◇ ◇


「でも」


 ミレイがふと気づく。


「これって」


「何です」


「敵がまだ近くにいたってことじゃない?」


 レオが止まる。


「反応時間を記録するなら」


「誰かが見てないと駄目だよね」


「帳簿へ後から聞き取りで書く方法もあります」


 リアムが言う。


「ですが」


「現場に観察役がいた可能性は高い」


「出入口を閉じる?」


「待ってください」


 レオが止める。


「火事の最中です」


「人の流れを止めれば危険です」


「じゃあ」


「顔を隠していた人物」


「不自然に火を見ていた人物」


「そういう証言を集めます」


「捕まえるより」


「まず記録?」


「はい」


     ◇ ◇ ◇


 聞き込みを始めて。


 十五分ほど。


 一人の少女が。


 妙な証言をした。


「ずっと書いてた人がいた」


「誰が?」


「男の人」


「どこで?」


「あそこ」


 少女が指差す。


 倉庫から少し離れた。


 酒場の二階窓。


「何を書いてたかは?」


「分かんない」


「でも火を見ながら」


「ずっと」


 レオが顔を上げる。


「リアム」


「行きましょう」


     ◇ ◇ ◇


 酒場二階。


 部屋は。


 空だった。


 窓が開いている。


 机。


 椅子。


 まだ。


 インクが乾ききっていない紙。


「遅かった」


 リアムが近づく。


 そこには。


 数字が並んでいる。


 発火。


 鐘。


 領主到着。


 消火指示。


 穀物搬出開始。


「時間記録です」


 レオが言う。


「本当に観察してた」


 ミレイの声が低くなる。


 そして。


 紙の下。


 一行。


 南――選択完了。


「選択完了?」


 ミレイが言う。


「でもレオはセリーヌを捨ててない」


「相手にとっては」


 リアムが言う。


「レオ様本人が南へ向かったという事実だけで十分なのかもしれません」


「領民を選んだことにされる」


「はい」


 レオは紙を見つめた。


「なら」


「北では」


 何を記録している?


     ◇ ◇ ◇


 北街道。


 ガレスたちは。


 灰色の馬車を視界へ捉えていた。


「あれだ!」


 二頭立て。


 右後輪。


 傷。


「近づきすぎるな!」


 ガレスが叫ぶ。


 馬車との距離を保つ。


 敵がこちらに気づいている可能性は高い。


 いや。


 気づかせるために。


 この速度で走っているのかもしれない。


「中を確認できるか!」


「難しいです!」


「追い越して止める?」


「まだだ!」


 ガレスは周囲を見る。


 道の両側。


 森。


 待ち伏せに向いている。


「開けた場所まで追う」


「了解!」


     ◇ ◇ ◇


 やがて。


 森を抜けた。


 緩やかな丘陵。


 見通しがいい。


「今だ」


 ガレスたちが速度を上げる。


 馬車へ並ぶ。


「止まれ!」


 御者が振り返る。


 四十代ほどの男。


 使用人の証言と合う。


 男は。


 鞭を振った。


 馬車がさらに速度を上げる。


「逃げるぞ!」


「前へ!」


 二人の護衛が馬車を追い越す。


 前方へ回る。


「止まれ!」


 御者が。


 突然。


 手綱を離した。


「何して――」


 男は。


 馬車から飛び降りた。


「ガレス様!」


「二人は馬車を止めろ!」


「残りは男を!」


 ガレス自身は。


 馬車へ向かった。


     ◇ ◇ ◇


 暴走しかける馬。


 護衛が前から速度を落とさせる。


 ガレスが横へ並ぶ。


 馬車の扉へ手を掛ける。


「セリーヌ!」


 開ける。


「……え?」


 中に。


 セリーヌがいた。


「ガレスさん?」


「無事か!」


「何でここに?」


「それはこっちの台詞だ!」


 縛られていない。


 怪我もない。


 だが。


 セリーヌは。


 ガレスを見て。


 明らかに困惑していた。


「ミレイは?」


「何?」


「ミレイを助けに行くんじゃないの?」


 ガレスの顔が変わる。


「誰に聞いた」


「この人が」


「御者か?」


「うん」


「あと、その前に女の人から」


「ミレイが何だ」


「捕まってるって」


 ガレスが息を吐く。


「ミレイさんは無事だ」


「……え?」


「フェルトハイムにいる」


「レオと一緒だ」


 セリーヌは。


 完全に固まった。


「でも」


「手紙」


「ミレイの字で」


「偽物だ」


「そんな」


「今は戻るぞ」


     ◇ ◇ ◇


 その時。


 馬車の床。


 ガレスの目に。


 一枚の紙が入った。


「触るな」


「え?」


 護衛に確認させる。


 紙には。


 北――選択完了。


 ガレスの顔が険しくなる。


「ふざけやがって」


 さらに。


 その下。


 代替基準点、回収を許可。


「……許可?」


 ガレスが呟く。


 敵は。


 セリーヌを取り戻されることまで。


 想定していた?


 いや。


 それどころか。


 わざと。


 返した?


     ◇ ◇ ◇


「ガレス様!」


 護衛の一人が戻ってきた。


「御者は!」


「逃げられました!」


「何?」


「森へ入り」


「追いましたが」


「途中に馬が一頭用意されていました!」


「最初から逃げる準備か」


「はい」


「顔は見たな?」


「見ました」


「ならいい」


 ガレスはセリーヌを見る。


「戻るぞ」


「でも」


「何だ」


「私」


 セリーヌの顔が。


 不安に歪む。


「ミレイを助けるつもりで」


「来ちゃった」


「……ああ」


「騙された」


「そうだな」


「怒られるかな」


「誰に」


「ミレイに」


 ガレスは。


 少し考えた。


「怒る前に泣くんじゃないか」


「え?」


「帰るぞ」


     ◇ ◇ ◇


 夜。


 フェルトハイム。


 穀物倉庫の火は消えた。


 被害は。


 備蓄の一部。


 全体の二割ほど。


 大きい。


 だが。


 致命的ではない。


「補填はできます」


 市政局の責任者が言う。


「近隣から買い付ければ」


「資金は?」


「領主府から出します」


 レオが答える。


「ただし」


「買い占めにならないよう価格を確認してください」


「承知しました」


 ミレイは。


 何度も北門の方向を見ていた。


「まだかな」


「ガレスなら」


 レオも言いながら。


 自分自身。


 落ち着いてはいなかった。


 そこへ。


 蹄の音。


「来た!」


 ミレイが走り出しかける。


「待って」


「一緒に行きます」


 二人で外へ。


 北から。


 複数の馬。


 その中央。


 馬に同乗する。


 見覚えのある女性。


「セリーヌ!」


 ミレイが叫ぶ。


「ミレイ!?」


 セリーヌの顔が。


 驚きに変わる。


     ◇ ◇ ◇


 馬が止まる前に。


 ミレイは駆け寄った。


「馬鹿!」


 第一声だった。


「え」


「馬鹿馬鹿馬鹿!」


「ちょっと!」


「何で知らない人についていくの!」


「だって!」


「私が危ないって言われたら!」


「だからって!」


 ミレイの目から。


 涙が零れる。


「本当に……」


「心配したんだから……」


 セリーヌが。


 何も言えなくなる。


「……ごめん」


「うん」


「でも」


「本当にミレイの字だったの」


「見せて」


「馬車に置いてきた」


「回収してある」


 ガレスが答えた。


「後で調べる」


     ◇ ◇ ◇


「それより」


 ガレスはレオへ紙を渡した。


「これだ」


 北――選択完了。


 代替基準点、回収を許可。


 レオの顔が険しくなる。


「許可……」


「助けられたんじゃない」


 ガレスが言う。


「助けさせられた可能性がある」


「なぜ?」


 ミレイが尋ねる。


「敵はセリーヌを手放して何を得るの?」


 リアムが考える。


「観察結果」


「それだけでしょうか」


 レオはセリーヌを見る。


 怪我はない。


 拘束もされていなかった。


 むしろ。


 信じ込ませ。


 自分から馬車に乗せた。


 そして。


 追跡させ。


 救出させた。


「セリーヌさん」


 レオが尋ねる。


「馬車の中で」


「何を聞かれました」


「え?」


「ミレイについて」


「私について」


「何か質問されませんでしたか」


 セリーヌが考える。


「……された」


「どんな?」


「ミレイとレオ様」


「どっちが私を助けに来ると思うかって」


 レオの表情が変わる。


「何と答えました」


「ミレイ」


「どうして?」


「だって友達だから」


「他には?」


「レオ様は?」


「領主だから」


「街で何かあったら」


「そっちへ行くと思うって」


 誰も。


 すぐには話さなかった。


 予測。


 敵は。


 セリーヌ本人に。


 こちらの行動を予測させていた。


 そして。


 実際に。


 レオは南。


 ガレスが北。


 ミレイはレオと南。


「外れたね」


 ミレイが言う。


「何が」


「セリーヌの予想」


「私、北には行かなかった」


「あ……」


 セリーヌが気づく。


 リアムも。


「だから回収を許可した?」


「どういうことです」


 レオが尋ねる。


「白鴉は」


 リアムが紙を見る。


「セリーヌさんの予測と、実際の行動の差まで観察していたのかもしれません」


「つまり」


「セリーヌさんは基準点の代わりではない」


「レオ様とミレイさんの関係を測るための」


「観測材料?」


 ガレスが顔をしかめる。


「人を何だと思ってやがる」


     ◇ ◇ ◇


 レオは。


 倉庫で見つけた帳簿を思い出した。


 レオン――選択。


 ミレイ――基準。


 代替基準点。


 それは。


 ミレイの代わりになる人物ではなく。


 ミレイという「基準」が。


 どこまでレオの判断へ影響するのか。


 比較するための存在?


「第四観察の目的は」


 レオが呟く。


「私とミレイを切り離すことだけではない」


「何?」


 ミレイが見る。


「私たちが」


「離れた時」


「一緒にいる時」


「他の人間が関わった時」


「どう判断が変わるか」


「それを測っている」


「じゃあ」


 ミレイが顔をしかめる。


「今までの全部」


「実験?」


「相手にとっては」


「そうなのでしょう」


     ◇ ◇ ◇


 その時。


 市政局の職員が走ってきた。


「殿下!」


「今度は何です」


「王都から急使です!」


 全員の表情が変わる。


「王都?」


「グレイストーン公爵から」


「至急とのことです!」


 封書。


 正式な印。


 確認。


 開く。


 レオは。


 読み進めるにつれ。


 表情を変えた。


「何があった」


 ガレスが尋ねる。


「オーウェンが」


 一度止まる。


「姿を消しました」


「何!?」


「治療室から?」


「はい」


「どうやって!」


「夜勤交代の隙です」


「自力で?」


「分かりません」


「傷は?」


「まだ動ける状態ではないはずです」


「なら誰かが連れ出した」


 リアムが言う。


「あるいは」


 レオは続きへ目を落とした。


「本人が協力した」


「何か残されてた?」


 ミレイが尋ねる。


「はい」


 レオが読む。


 オーウェンの寝台。


 枕の下。


 一枚の紙。


 そこには。


 第四観察、第一段階終了。


 そして。


 次は、証言を失わせる。


「証言……」


 リアムが呟く。


 帳簿の分類。


 オーウェン――証言。


 セリーヌは戻った。


 穀物倉庫も守った。


 だが。


 その裏で。


 王都では。


 別の対象が動かされていた。


「私たちをフェルトハイムへ戻したのは」


 レオが低く言う。


「これが目的だった?」


「分かりません」


 リアムが答える。


「ですが」


「第四観察は」


「一つの場所だけで行われているわけではない」


 王都。


 フェルトハイム。


 北街道。


 同時に。


 複数の場所で。


 人を動かしている。


 レオは封書を握った。


 白鴉は。


 レオに二択を迫っているのではない。


 もっと大きな盤面で。


 全員の選択を。


 互いにぶつけ始めていた。

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