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場面29:祝杯と次の目標

その夜、俺たちプロンプターズは「風見鶏の宿」の食堂で、ささやかな……いや、控えめに言ってもかなり騒がしい祝杯を挙げていた。


パーティ正式結成! ダンジョン攻略成功! セラの呪い進行停止! めでたい! 実にめでたいのだが……俺の胃は別の意味でキリキリし始めていた。


食堂の木のテーブルにはアンナさん特製の料理が山と積まれ、エールのジョッキとジュースのグラスが景気よく打ち鳴らされる。他のテーブルの冒険者たちが若干引いている気がするが、気のせいだろう、うん。


「みんな、本当にお疲れ様! そして、これからよろしく! プロンプターズに……乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


カチン、とグラスを打ち合わせる。


「やったにゃー! これからは毎日がお祭りなのだ! ミミ、超ハッピー! このお肉、うんまー!」


ミミはジュースを一気飲みすると、両手に骨付き肉を持って野生児のようにかぶりつき始めた。行儀? そんな言葉は彼女の辞書にはない。


「こらミミ、はしたないぞ。お前はレディだろうが……むぐっ……まあ、たまには……こういうのもいいか。うん、美味い!」


フェリシアさんが注意するが、その頬はエールでほんのり上気し、結局自分も大きな肉パイを頬張ってしまっている。説得力ゼロどころかマイナスだ。


「あらあら、若いわねぇ」とカウンターの奥でアンナさんが笑っている。


そんな喧騒の中、隣に座っていたセラが、少しだけ躊躇いがちに自分の手を重ねてきた。柔らかく、ひんやりとした感触。心臓がドクンと跳ねる。


「ユウ様、改めて……本当に、ありがとうございました。この指輪……ユウ様から頂いたと思うと、その……とても、温かいです」


潤んだ大きな碧眼で、じっと俺を見上げてくるセラ。白い頬はほんのり桜色だ。……近い! 近いってセラさん! さっきから距離感がバグってませんか!? 天然なのか、それとも……!?


『出たー! 天然小悪魔エルフの無自覚ボディタッチからの上目遣いコンボ! 効果は抜群だ! マスピのHPはもうゼロよ! 顔、トマトみたいになってんぞー!w』


脳内でアリアがゲラゲラ笑いながら実況している! うるさい! あとで絶対アバターにデコピンしてやる!


「き、気にしないでくれ! な、仲間なんだから当然だろ!? そ、それより、まだ完全に治ったわけじゃないんだからな!」


俺は動揺を隠すため、反射的にセラの頭をわしゃわしゃと撫でてしまった! しまった、と思った時にはもう遅い。指に絡む銀髪の感触が……ああもう!


「……は、はいっ……!?」


セラはびくりと肩を震わせ、みるみるうちに顔を真っ赤にして俯いてしまった。プルプルと小刻みに震えている。


『あーらら、マスピのとどめの頭なでなでで完全K.O.! 感謝と好意とその他もろもろの感情がキャパオーバー! これは『潜伏型淫乱エルフ』の覚醒フラグかー!?』


「なっ……!?」


アリアのふざけた実況が終わる前に、セラがバッと顔を上げた! その顔は羞恥と怒りで真っ赤! 普段のクールさは微塵もない!


「な、何を馬鹿なことを言っているのですか、アリアさん! わ、わたしは、ただ! ユウ様への純粋な感謝の気持ちを……! 淫乱!? そのような下劣極まりない単語! 不敬にもほどがあります! 即刻撤回してください! さもなくばその小さな体、細かく分解しますよ!?」


早口で、しどろもどろになりながらも、物凄い剣幕でアリアに詰め寄るセラ! 怖っ! セラのキレ顔ってこんなに迫力あるのか!?


「ひぃっ!? ご、ごめんなさい! ジョークだってばセラっち! 許して!」


アリアが俺の後ろに高速で隠れる! いや、だから俺は盾じゃないんだって!


その一方で、テーブルの向こう側では……恐れていた事態が発生していた。


「うぇぇぇん……なんでだぁ……なんで私だけぇ……! こんなに……こんなに頑張ってるのに……誰ももらってぐれないぃ……。もう……お嫁に行げないぃぃ……。人生、詰んだ……」


フェリシアさんがテーブルに突っ伏し、本格的に号泣し始めた。ジョッキは完全に空だ。


あーあ、完全に酔っ払いの完成である。焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、呂律の回らない口で自分の人生を嘆いている。周りの冒険者たちも、面白がってヒューヒューと囃し立て始めた。やめてくれ、こっちまで恥ずかしい!


「だっさーい! フェリ姉、また泣き上戸! やっぱり行き遅れ街道爆走中なのだ! ねーねー、本当は三十路超えてるって噂、本当かにゃー?」


ミミ! お前は本当に学習しない猫だな!? 今一番言っちゃいけないやつだろそれ!


「な、なんだどぉーーっ! このクソ生意気な駄猫がぁーーっ! 誰が行き遅れだ! 誰が三十路だ! 私はまだ22歳だ!! 今日という今日は、そのふさふさの尻尾、綺麗に毟って首に巻いてやるぅ!」


完全にスイッチが入ったフェリシアさんが、鬼のような形相で立ち上がり、ミミに掴みかかろうとする!


「にゃーーっ! 出た、酔っ払いの逆ギレ暴力! パワハラ反対! セクハラ反対なのだー!」


ミミは驚異的な身軽さでテーブルの間をすり抜け、食堂内を逃げ回り始めた! それを千鳥足ながらも恐るべき執念で追いかけるフェリシアさん! 皿が飛び、椅子が倒れ、他の客の悲鳴が上がる! まさにカオス!


「あはは……」


俺はセラと顔を見合わせ、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。セラも、呆れつつも楽しそうに笑っている。もうどうにでもなーれ。


(……まあ、なんだかんだ言って、最高に面白いパーティだよな、うちは)


俺は額を押さえつつも、このどうしようもない仲間たちが、たまらなく愛おしく感じていた。


◇◆◇


壮絶な追いかけっこの末、軽いお仕置き(尻尾を掴んでのジャイアントスイング未遂からの、頭グリグリの刑)を受けて涙目になったミミと、力尽きてテーブルで再び寝落ちしたフェリシアさん。


ようやく食堂に平和が戻ったところで、俺は今後の目標について切り出した。


「えーっと、これからだけど……まずはランクを上げて、情報や資金を集めたい。セラの呪いの完全解除方法も探さないとな」


俺が言うと、セラが真剣な表情で頷く。ミミは……フェリシアさんの寝顔にこっそり落書きをしている。おい、やめろ。


「ふごぉ……もう一杯……」


フェリシアさんの寝言はスルーだ。


「ミミはお宝探しがしたいにゃ! でっかくてキラキラしたやつ! あと、ユウのご飯もっと食べたい! おやつ3回は絶対だからな! 約束破ったら、ユウの隠しおやつコレクションを暴露するにゃ!」


ミミの要求がエスカレートしている! というか、なぜ俺の隠し場所を知っている!?


『そそ! マスピのスキルアップにはもっと学習が必要だよ! レア素材とか、古代の書物とか、ガンガン学習しないとね! AILv上げれば、マスピの隠しおやつ自動生成機能とか……無理か!w でも、もっとすごい物作れるようになるよ!』


アリア、お前まで……!


「ああ、そうだな。やることはたくさんありそうだ……」


俺は改めて、仲間たち(寝てるの含む)を見回す。目標は山積みだ。前途は多難……いや、このメンバーだと、困難よりも先に胃痛で倒れるかもしれない。


でも、一人じゃない。


この頼もしくて、賑やかで、最高に面白い仲間たちとなら、きっとどんな未来だって、笑い飛ばしながら乗り越えていける。


そんな予感が、確かにあった。俺は、ジョッキに残っていたエールをぐいっと飲み干し、未来への決意を新たにするのだった。


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