場面28:パーティ結成登録
ゴードン支部長がギルドの奥へと戻っていく。あのドワーフ特有の、岩のような威圧感が消えると、途端にギルド内の喧騒が耳に馴染んでくるようだ。俺はふぅ、と無意識に詰めていた息を吐き出し、カウンターのミリアさんに向き直った。彼女は「大変でしたね」とでも言うように、悪戯っぽく肩をすくめて見せた。
「ミリアさん、改めて、パーティ登録をお願いします」
俺が言うと、ミリアさんはすぐにいつもの明るい笑顔に戻り、カウンターの下から新しい登録用紙を取り出した。その手際の良さに、彼女が日頃から多くの冒険者の手続きをこなしていることが窺える。
「はい! もちろんです! では、まずパーティ名からですね! もう決まっていますか?」
期待に満ちた瞳で尋ねてくるミリアさん。パーティ名か……特に何も考えていなかった。どうしたものかと思案していると、隣から元気な声が響く。
「はいはーい! ミミが決めた! 最強無敵『ミラクルにゃんこ団』なのだ!」
ミミが胸を張り、ふさふさの尻尾を揺らしながら自信満々に提案する。うーん、却下。絶対に却下だ。響きが小学生レベルすぎる。
「どこがミラクルだ。却下だ、却下! そのようなふざけた名前で登録できるか!」
俺が口を開くより早く、フェリシアさんの厳しいツッコミが炸裂した。
「えー! かっこいいと思ったのにー!」
ミミは不満げに頬を膨らませる。その様子は小動物のようで、少しだけ可愛いと思ってしまった。いやいや、状況を考えろ俺。
『だから『プロンプターズ』でいいって! マスピのスキル名から取ってさ! ちょいダサい……じゃなくて、覚えやすいっしょ?』
肩の上でアリアが呆れたように言う。こいつ、さらっと失礼なこと言ったな。だが、まあ他に妙案もない。
(プロンプターズ、か。AIへの指示者を意味する言葉。俺のスキルを考えれば、これ以上ないほどピッタリ……いや、そのまんますぎるか? でも、他に考えるのも面倒だしな……)
「はは……。ええと、パーティ名は同じく『プロンプターズ』でお願いします」
俺が決定すると、ミミは「えー、強そうじゃないのだ……」と唇を尖らせたが、フェリシアさんとセラは特に異論はないようだ。まあ、名前なんて飾りみたいなものだ。
「『プロンプターズ』! 素敵な名前ですね!」
ミリアさんがにっこり笑って、登録用紙に慣れた手つきでパーティ名を書き込んでいく。
「では、メンバーの確認です。リーダーはユウ様、それからセラ様……そして、フェリシアさんとミミさんも、正式メンバーということでよろしいですね? 『一時的な協力』とお伺いしていましたが……」
ミリアさんが確認するように、フェリシアさんとミミに視線を向ける。そうだ、彼女たちはあくまで「一時的な協力」のはずだった。祭壇跡の攻略は終わった。これから、どうするのだろうか……。俺は少し緊張しながら、二人の返事を待った。
フェリシアさんは一瞬だけ視線を逸らし、わざとらしく咳払いを一つ。そして、少しだけ頬を赤らめながら、腕を組んで言った。
「……まあな。貴様のその妙な力は監視が必要だし、ミミの世話も誰かが見なければならんだろう」
彼女は言葉を切り、そっぽを向く。その耳がほんのり赤い。
「……お前たちと、こうして馬鹿騒ぎしているのも……案外、悪くない」
(フェリシアさん……!)
これ以上ないくらいのツンデレだ! でも、その素直じゃない言葉の中に、彼女の本心がはっきりと伝わってくる。俺たちを、仲間として認めてくれたんだ。俺の胸の奥が、じわりと熱くなった。
『ツンデレきたー! フェリ姉、顔真っ赤だよ、顔! 教科書通りのツンデレっぷり、記録完了!w』
アリアの脳内実況は今日も絶好調だ。後で絶対メモリ覗いてやる。
「ミミもいるにゃ! もちろん、プロンプターズの一員になるのだ!」
続いてミミが、満面の笑みで元気よく宣言する。
「だって、ユウといると毎日がお祭りみたいで楽しいし! ご飯は美味しいし! セラは物知りだし! フェリ姉は……まあ、ミミのツッコミ相手として面白いから良し! だから、ミミ様も正式メンバーなのだ! ただし! 毎日おやつ3回は絶対だからな!」
(最後の条件は完全に無視するとして……)
彼女なりに、俺たちのことを仲間だと思ってくれているのは間違いないようだ。そのエネルギッシュな笑顔は、見ているこっちまで元気をもらえる。
「フェリシアさん、ミミ……本当に、ありがとう」
俺は二人に向かって、心からの感謝を伝えた。追放された俺に、こんな仲間ができるなんて、思ってもみなかった。
「これから正式によろしく頼む、プロンプターズ!」
俺が力強く宣言すると、フェリシアさんは「ふん」と照れ隠しのように鼻を鳴らし、ミミは「おー!」と元気よく拳を突き上げた。
「……よろしく、お願いします」
隣でセラも、嬉しそうにふわりと微笑みながら小さく頭を下げた。その表情は、以前よりもずっと柔らかく、彼女が心を開いてくれていることが分かる。
『やったねマスピ! これでクーデレから腹ペコ、猫耳まで揃った、超個性派パーティの本格始動だね! いやー、アタシもこれから退屈しなさそう!』
アリアも肩の上でぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。……おい、やっぱり俺たちのことディスってるよな、今!?
「ふふ、本当に素敵なパーティですね! なんだか私まで嬉しくなっちゃいます!」
ミリアさんも自分のことのように喜び、手早く登録手続きを完了させてくれた。
「では、こちらがパーティ『プロンプターズ』の登録証になります! これからフロンティアで活躍されるのを、ギルド一同、応援してますね!」
ミリアさんから手渡されたのは、メンバー全員の名前が刻まれた、新しい銅製のプレートだった。これが、俺たちのパーティの証。ずしりとした重みが、現実のものとして感じられる。
俺はそのプレートをじっと見つめる。
俺はスキルが役立たずだと判断され、たった一人で冷たい雨の中に放り出された。あの時の絶望感と孤独感は、今でも鮮明に思い出せる。
だが今は違う。ここには、俺を信じ、共に戦ってくれる仲間たちがいる。
過去を背負うエルフのセラ。
素直じゃないけど頼れる元騎士のフェリシアさん。
元気でおバカな猫娘のミミ。
そして、最高の相棒アリア。
(……これが、俺たちのパーティ、『プロンプターズ』……)
追放された時の冷たい雨の感触とは全く違う、温かい何かが胸に満ちてくるのを感じた。失ったものは多い。でも、それ以上に得たものがあるはずだ。
俺は胸に込み上げてくる熱い感情を噛みしめながら、仲間たちの顔を見回し、力強く頷いた。
ここから、俺たちの物語が本当に始まるのだ。




