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纏物語  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之肆拾話 舞美の願い

前回までの『纏物語』は……。


「ここに来る前に……舞美……おばあちゃんに会ったの……。蛇鬼との戦いの後、もう二度と……会う事はないと思っていたけど。舞美は……すっかり年老いていた……そして私を見て言ったの。


『めぐみさん! あなたは変わらないね!!』


 って。私が『御魂は、年を取らない』と言ったら……笑ってた。昔と同じ、変わらない笑顔で。でも……もうあの頃の……満ち溢れる『清い力』の……微塵も……感じられなかった……。私達の……恩人おんひと。人の命は……短く……そして儚い……」


 そう言いながら俯き……嫗めぐみは……涙を流した……。そして、しばらく沈黙した後、話を続けた。

 嫗めぐみは、ここまでの経緯を話し始めた。


「蛇鬼と戦った五人の御魂と私が眠る塚は、榊の村の山奥深い所、自然の結界が幾重にも張り巡らされ、悪しき者、いえ……獣さえ近づけぬ場所に在りました……。


 そして蛇鬼亡き後、その塚を知る者など皆無。もし、その場所を知る者がいるとすれば……私共と戦った……宮司……もしくは術者。しかも其の者の中でも、数人しか知らない……はずでした。


 私共は、其処で深い深い眠りについていました。


 ある時、眠りの中で、邪悪な気配に気付き、私は目覚めた……いえ、目覚めた……というよりも、これは夢なのか……現実なのか……自分の意識ではない朦朧とした感覚……。


 私は直ぐに悟った、『何者かに取り込まれている』と……。


 身体は動かせず……氣を吸い取られていく……そして……私を取り込んでいる者の……視線が頭の中に映し出される……。


 其の朦朧とした意識の中で、私が見たもの……それは、青い月の力を纏った舞美の姿……体を震わせながら、木剣を指し示す貴方の姿。そして……最後に見たのは、貴方が青い月の力を纏い、薄ら笑みを浮かべながら……私を切り刻む姿。


 あなたに切られた私は……そのまま意識を失い、次に気が付いた時……私は、眠っていた塚の前に……佇んでいた。


 しかし……神氣を著しく失っていた私は、動く事が出来ず、その場に倒れ込み……数日経ってようやく動けるようになった」


 何だか悪い予感がする……そう思った私は、動けるようになったと同時に……すぐに舞美の元へ……赴きました。





【回想……舞美との再会】



 舞美は、広い庭にある色とりどりの花が咲いた花壇の前の……椅子に座っていた。ただ、その椅子は、普通の椅子ではなく、車椅子だった。


 嫗めぐみは、車椅子に座る舞美の後ろから、静々と歩み寄り名前を呼んだ。


「……舞美……」


 そう名を呼ぶと、車椅子ごと後ろを振り返り、まるで嫗めぐみが今日、ここに来る事が分かっていたかのように、落ち着いた雰囲気で、昔と変わらない満面の笑みを浮かべながら、嫗めぐみを迎た。


「こんにちは、めぐみさん。お久しぶりね……もうそろそろ、来てくれるんじゃないかなって勝手に思ってた、フフフッ」


 その声はか細く、そして昔の様な覇気は、微塵も感じられなかった。


「めぐみさん……あなたは変わらないね……」


 その問いかけに……


「私は御魂よ…………御魂は、年を取らない……」


『ハハハハ、そうだった……』


 嫗めぐみの無表情で静かな答えに、昔と同じように、誤魔化すように笑って返した。そして舞美は、六人の宮司達の事を……塚から五珠を奪い去った者達の事を、ゆっくりと話し始めた。


「めぐみさん……涼介君がね……教えてくれたの……五珠の封印が破られた、めぐみさんが悪しき者に取り込まれ……六人の邪な志を抱く宮司達が……再び邪悪な者を甦らせようとしていると……。そして……そして優が……危ないとも……。涼介君も……まだ詳しくは、分からないって……でもその人達が欲しているのは、『五珠』と『蛇鬼の悪しき力』……それと清き力だって……教えてくれたの……」


「そう……あの鬼の若者が……」


 続けて嫗めぐみ問う……。


「五珠は奪われてしまったけど……蛇鬼は貴方が祓った。清き力は、舞美、貴方が持っている力。解せないのは……何故……その……優……と言う名の子が狙われるの?」


 そして舞美は、花壇の方へ車椅子を移動させながら、嫗めぐみに背を向け語り始めた。


「さくらが……長女が生まれて……もうその時には、私は、東城家の血筋なんて考えなくなっていたの。古の神守の力なんて……遠い、遠い昔の事……と。


 でも優が生まれて……初めてこの胸に抱いた時……何か、何かを感じたんです、なんていうか……そう、めぐみさんと同じ様な氣を……優に感じたんです。だから両親がいないときに、こっそり……優の前で、それこそ蛇鬼との戦い以来一度も纏ってなかった纏を……纏ってみたんです……。


 すると……優が……青い月の纏を……纏った私を見て……『キャッキャッ』って……笑ったんです……。その時、急に不安に思ったの。『この子は、この力のせいで不幸せになってしまうんじゃないないか』って。恭ちゃんみたいに他人に相談できず、一人で悩んでしまうんじゃないかって……」


 舞美は、俯いたまま車椅子を嫗めぐみが佇む方へ向けた。


「それから、私の不安が現実のものになった。優が成長するにつれ……あの子の周りに……悪しき者が……定期的に現れるようになった……。


 そして……物心ついた頃……悪しき者が見え始めると……私に電話を掛けてくるようになったの……『舞美ばあちゃん元気?』って……自分では、何事もないように明るく振舞って……本当は、怖くて怖くて堪らないのに……本当は『舞美ばあちゃん助けて!』って言いたいのに……言えないの、あの子…………皆に……皆に心配を掛けたくないから」


 そう言いながら舞美は、顔を上げ、話を続けた。


「悪しき者が優を襲う其の度に、私は優の元へ行き、悪しき者を退けていた。そこで私は推測したの。


 いくら強力な力を纏えたとしても、私は、所詮生身の人。いつかは……年老いて命が尽きる。


 だから定期的にあの子を襲い、私の力の衰えを試していたのではないかと。そして老いた私がその力をあの子に継承した時を狙い、まだその力が覚醒する前に『清い力』と邪鬼を凌駕する程の力『青き月の力』を奪おうとしたのではないか……と……」


 しかし、予想外の出来事があった。『清い力』の覚醒と共に『青き月の力』を纏った優は、見事にその力を使い、悪しき者を祓ってしまった。舞美にとっては……嬉しい誤算だった。


 あくまでも憶測の話しだったが、舞美は、その話しが終わると、しばらく沈黙した。そして……


「めぐみさん……お願いが……あるの……」


 そう言いながら舞美は、一度俯いた……。そして顔をあげると、意を決したかのように、嫗めぐみの目を見つめ哀願した。


「めぐみさん、お願い……私を……私を御魂にしてください。めぐみさん……出来るのではありませんか?……『御魂の術』が……」


 突然の舞美の願いに、嫗めぐみの表情が……急に強張った……。そして舞美は、苦笑いを交えながら自分の……病の事を話した。


「私……病気になっちゃってハハハハ…………。もう長くは……ないんです……。


 人とは、いつか命尽きるもの……人とは、そういうもの……。


 生きている以上いつかは、その日が来る……それは仕方がない事、その事は……勿論受け入れる……」


 俯き静かに語る舞美、だが暫く……沈黙した後、急に声を荒げた。



「でも、でも私のせいでっ!私が『青き月の力』を優に継承したばかりに、優がっ!優が私と同じような、辛い目に合うのは、私、耐えられないっ‼耐えられないのっ‼」


 そう言いながら頭を擡げ、涙を流す舞美。その強い口調とは対照的に、嫗めぐみは、静かに……淡々とその答えを返した。


「あなたが『青き月の力』を継承していなければ……その子は、もっと辛い思いをしていたのかもしれない……。


 それに……東城家……古の力を持って生まれた事も……貴方のせいじゃないわ……」


 嫗めぐみは、冷静に正論を述べた。そして御魂の術について述べた。


「私が使う『御魂の術』は、あの方のとは……違う。依り代に御魂を移すだけの……いわば簡易的な物。私達のような霊体を作り出す事は……できない。貴方を纏う事はできるけど……はっきり言って、何の属性も持たない貴方を纏っても……役には立たない……」


 更に淡々と話す嫗めぐみ。舞美は、黙って俯いたまま、その話を聞いている。


「しかも…………しかもその御魂は……日が経てば、跡形もなく完全に……完全にこの世から消えてしまう……それがいつになるか分からない……一年後かもしれないし、二日後かもしれない。それより舞美……病気は、治療を行っ……」


「それでもいいのっ‼」 


 嫗めぐみが話を続けようとすると、俯き黙って聞いていた舞美が急に顔を上げ、それを遮るように叫び声を荒げた!


「何もできなくてもいいっ!たとえ一日でもいい!あの子の傍に、少しでもあの子の傍にいてあげたいのっ!お願いっ!めぐみさん、私を御魂にして下さいっ!!」


 舞美の必死の訴えに、拳を握り締め、戸惑う嫗めぐみだった……。


                                      つづく……


 つばき春花です。『纏物語』お読みいただきありがとうございます。


 諸事情があり、執筆活動が進まずお待ちいただいている方々には、申し訳ないです。気長にお待ちいただければ幸いでございます。どうぞよろしくお願い致します。



         次回予告『其之肆拾壱話 悲しみを乗り越えて』


 優は、その指輪を握り締め、座っていたベッドから立ち上がると、窓から飛び出し……。


「纏っ!」


『青き月の力』を纏い、空高く舞い上がり、満天の星が輝く闇夜の空に消えていった。


 嫗めぐみは、窓際に立ち、飛び去る優を見上げながら呟いた。


「優……あなたはこの先……もっと辛い現実を……知る事になるのです。果たして……その事に……耐えきれるかどうか。…………舞美……優を守ってあげて……」



                           ご一読よろしくお願い致します。


                                つばき春花


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