外伝最終話 其之捌話 神守を凌ぐ神氣
(完全に囲まれた……くっそおぉ……まみちゃんの御魂だけでも……)
そう考えた時……
『バシャァァァンッガッシャァァァァァァァァンパンパパンガッシャァァァァァァァンッ!!!』
屍達の動きが止まり真っ白く霜を打った途端ガラスが弾けて割れるように粉々になって崩れていった。
「あらあら……見てられないわね」
そう言いつつめぐみが暗闇の中ゆっくり歩んで来た。
「めぐみさんッ!? どこ行ってたんですかぁぁ……もぉぉぉ……ものすごく怖かったんですからッ!」
「ちっ……貧弱……」
ぼそっと呟くめぐみに恭一郎が詰め寄る。
「めぐみさん、この子を助けるには、どうすればいいんですか?!」
めぐみは、暫く黙り込んだ後……
「そうね……その子を助けたかったら呪木の本体を祓うしかないわね」
(そんな事僕にだって分かってるんですけどッ!)
そう思ったが怖くて口に出して反論する事が出来ない。そして狼狽える恭一郎にめぐみは、自分が持つ神楽鈴を手渡しながら言った。
「あなたのその力……自分でも気づいているわよね?」
「不思議な力って……僕が持ったものが、なんかぁこう……青白く光って敵に当たると泡になるって事ですか?」
「そう……どうやらあなたは、東城家の……古の力を継いでいる……いや、その力は神守と言うより私達、宮司に近い神氣。しかし……触れただけで祓う事ができるなんて……いままで聞いた事がない。強力な神氣」
恭一郎は、めぐみが言っている事が、まったく理解できなかった。其れもそのはず、恭一郎は、東城家が古の頃、神に仕える者『神守』を生業にしていた事など全く知り得ていなかったからだ。
「何ですかそれ?! 宮司の力? 祓力? 全く分からないです! それよりめぐみさん、早くあいつをやっつけに行きましょうよッ!」
意気揚々と言いながらめぐみの方へ振り返ったその時……
『ドゴッ!ドゴゴゴゴンッ‼ドオオオオオオオォォォンッ‼』
轟音と共に地中から太い木の根が突き出し、めぐみを空中高く弾き飛ばした。錐揉みしながら落ちて来るめぐみを観覧車から伸び来た蔦が巻き掴み観覧車の方へ連れ去った。
「めぐみさんッ?!」
めぐみに手を差し出したが届かない、そして連れ去られた方向へ走り出そうとすると……
「キャァァァァァァ! お兄ちゃぁぁん!」
今度は、後ろからまみの叫び声がっ! 振り返ると、蔦が女の子を巻き取り、めぐみと同じ方向へ引っ張られあっという間に見えなくなった。
「まみちゃんッ!!」
恭一郎は、直ぐに二人が連れ去られた方へ走り出した。しかしその正面の道一杯に広がった無数の屍が壁のように立ちはだかる。
「邪魔だぁどけぇぇぇッ!!』
怒りと焦りが入り混じった渾身の叫びを上げながらめぐみから渡された神楽鈴を一振りする!
「シャンッ!!」
『ヴゥ゙ゥ゙ゥ゙ンッ!』
甲高い鈴の音の後、大気が震えると共に青白い神氣の波が放たれた。その波が屍を一瞬で泡と成し、道を開いて行く。
全力で走る恭一郎、呪木の本体がある観覧車が見えてきた。すると恭一郎の目にもめぐみと同じ様な光景が目に映った。それは観覧車を包み込むどす黒く禍々しい惡氣が渦巻く氣がはっきりと見えた。そして呪木の太い幹の途中に二人が吊るされている。
「呪木ッ!! はっ?! めぐみさん、まみちゃん今助けるッ!!」
恭一郎は、太い枝を飛び移りながら上へ上へと登って行く。
(あと少し……あと、少しぃ!)
手を伸ばせば届く所まで来たその時……
『ヒュッ!……ボグッドガッ!!』
「うわぁぁッ!!」
まみに手が届こうとしたその時、まるで必死に登ってきた恭一郎を嘲笑うかのように蔓がその体を弾き落した。
「くっそぉぉぉ……」
再び木に飛び行こうとするが蔓の執拗な攻撃に上へ上り行く事ができない。
体力の限界が近かった。この状況下、恭一郎にはどうする事も出来なかった。すると……
『ザワ……ザワザワッ……』
風に靡くような音が聞こえると呪木がゆっくりと揺れ始めた。すると幹の中心が割れ、一際大きな花の蕾が大きく開花した。その花の中心は、周りに咲く悍ましい花と同じく奥には、鋸の様な鋭い刃が並ぶ円形の口のようなものがあった。そして蔦に巻かれていた二人がその口の真上に持っていかれ、蔓が『スルッ』と外れると真っ逆さまに落ちて行った。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
「!!!! めぐみさん、まみちゃんっ!!!」
為す術なく落ちて行った二人。呆然とする恭一郎の手から神楽鈴が落ちる……
『カシャン……リィィィン……』
そしてそのまま力なく四つん這いになり……
「僕には……なにもできないのか……こんな……こんな力があるのに女の子一人……助けられないなんて……情けないなぁ……めぐみさんの言うとおりだよ……僕は、僕はぁ……貧弱……」
そう呟きながら俯き、涙を流す恭一郎。零れた涙が頬を伝い、神楽鈴に落ちる。
『ポタッ……』
すると神楽鈴が神々しく光り輝き始めると頭の中に……
『鈴をとれ……恭一郎……』
気のせいか……いや、気のせいじゃない、確かにそう聞こえた。恭一郎は、神楽鈴を手に取り立ち上がった。そして神楽鈴を真上に高く放り投げ、両手を大きく広げ、胸の前で拍を打った。
『パンッッ!!』
「纏いッ!!」
『キィィィィィィン‼』
鋭い金属音が辺りに響く、そして恭一郎の身体が眩い光に包まれると落ちてきた神楽鈴を右手で取り、左でそれを撫で上げた。すると神楽鈴が根元から何かに変わり始めた、それは、金色色の刀だった。恭一郎は、何かを纏っている、しかし何を纏っているか分からないほど纏がまばゆい光を発している。
恭一郎は、無言で顔を上げ、腰を低く屈むと幹を伝って駆け上がり始めた。それをめがけて無数の蔦が恭一郎に向けて放たれた。
『シャシャシャシャシャシャンシャシャシャシャシャシャンシャシャシャシャシャッ!!』
目にも止まらぬ速さで刀を振り、全ての蔦を斬り捨てながら何事もなく上へ駆け上がってゆく。
「惡しき妖者、呪木ッ!! お前は、僕がぁ祓うッ!」
そう答えると短刀を構え、呪木の中心に咲く巨大な華に飛び掛かろうとした……その時……
『ドグゥンッ!!』
心臓が鼓動が大きく脈を打つ。
「かはっ?! ぐはっ?! うあぁぁぁ!!」
と、同時に視界が狭くなり体の力が抜けていく感覚に襲われた。恭一郎は、胸を押さえ力なくその場に跪づいた。そして身体から発していた輝きが次第に失せ、刀も神楽鈴へと戻ってしまった。
「はぁはぁ……ど、どうして……はぁはぁはぁ、あと……あと少しだったのにぃ……あと少しで二人を助けられたのにぃはぁはぁ……」
神氣を纏うと言う事……それは想像以上に自身の氣と体力を消耗する。ましてや纏った事すらない普通の少年には、数分間が限界であろう……いや、そもそも纏えた事が奇跡だった。恭一郎は、もう動く事もできない程、意識が朦朧としていた。全身に痛みが走り力が入らない、この状況をどうにかしなければと、四つん這いになりながら考えるだけで精いっぱいだった。
「ニンゲン……オマエゴトキニィ……ハラワレルワシデハナイワッ……オマエモ……ワシノカテトナルガヨイ……」
巨大な花弁が臭い息を吐き散らしながら言い放つ。
(駄目……だ。……めぐみさん……まみちゃん……助ける事が出来なくて……御免……なさい……)
遂に力尽き、うつぶせに倒れこんだ恭一郎。自分の不甲斐なさに悔し涙を流し覚悟を決めた。
その時だった……
『ピシッ………………』
花弁が乾いた音を立て一瞬にして真っ白に凍りついた。それは……とても美しい硝子の華の様に見えた。そして……
『ピシシッ……ピピピピピピピシシッ……ピシッピシシッ………………ガシャァァァァン!!!』
観覧車に取り憑いていた呪木が、土台から真っ白く凍り始め縦横無尽に罅が入った次の瞬間、硝子が割れるように粉々に崩れていった。
その後には、キラキラと氷の粉がまるで雪のように深々と舞い落ち降り積もってゆく。
『サク……サク……サク……』
新雪を踏み歩く音と共に靄の奥から少女を抱き抱えためぐみが静々と歩み出てきた。その姿を見た恭一郎は涙をぬぐい、ふらつきながらも立ち上がった。
「まみちゃん……めぐみさん……よかっ……よかっ……た。無事だったん……ですね……」
よろけながら二人に歩み寄って笑顔を見せた恭一郎。その姿を無表情で見つめながらめぐみが語り始めた。
「蛇鬼の力があると言っても所詮は、呪木。私が……このような醜い呪木ごときにやられる訳はありません。あなたで十分と思って見守っていたのですが……まだまだ未熟で貧弱です」
そして二人の足元から青白い光りが次々と夜空へ昇って行く……それは、呪木に捉われていた開放できていなかった沢山の御魂達だった。御魂達は、空高く舞い昇ると……まるで流れ星のようにすぅっと消えていった。
『本当に……ありがとう……ありがとうございます……ありがとう……ありがとねぇ……』
沢山の御魂達の声が聞こえてくる。
そして……まみとの別れの時が来た。まみは、座り込んでいる恭一郎の首に手を回し顔を耳元につけるようにして囁いた。
「お兄ちゃん……ありがとう。私もやっと……やっと、パパとママの所へ帰れます、本当にありがとう……」
そう言いうと恭一郎の手を握りながら照れ笑いを送った。そしてその手が離れるとゆっくりと身体が浮き上がりそのまま空へ昇って行った。最後に下に視線を向け大きく手を振ると静かに消えていった。恭一郎は、女の子を見送り終わると、立ち上がりめぐみの方を向き姿勢を正して深々と頭を下げた。
「めぐみさん! 本当にありがとうございまし!!」
余りにも爽やかにお礼を言われためぐみは、きょとんとした後一瞬、ほんの一瞬だけ口元が緩んだ。しかしすぐに無表情を取り戻し、言い放った。
「お礼を言われる筋合いはないわ。ただの暇つぶしだったから……」
そう言うめぐみに笑顔を浮かべながら……
「でも……でもめぐみさんが居てくれなかったら、僕一人では何も出来なかった、まみちゃんが僕に助けてって言ってきたのに、僕は……知らんぷりする所だったんです、そんな自分が本当に嫌で……。だから、だから本当にありがとうございました!」
そう言うとめぐみは、暫く黙り込んで……
「そう……それは良かったわ……」
と、言いながら顔を上げると何かを決意したかのように返した。
「早く帰るわよ……私この後、行く所があるから……急いで……」
めぐみは、そっけなく出口へ向かった。
「は、はい!」
(こんな夜中に急いで行く所って何処だろう……)
そう思いつつ早足で歩く嫗めぐみを追いかける恭一郎。
しかし遊園地からの帰路……再びあの狂った様な運転で帰る事を……この時恭一郎は、すっかり忘れていたのであった。
まといものがたり 外伝 終……
外伝完結です。
東条恭一郎が主人公のこの物語は本編、其之弐拾参話以降にあった設定です。自身の親の仇、鬼の助言を信じる事は出来ない……しかし蛇鬼を祓うにはその助言が必要だった。揺れ動く嫗めぐみの葛藤を書きたかったのですが……。
東条恭一郎、この後の展開に重要な人物の一人ですので是非お見知りおきのほどよろしくお願いします。
つばき春花




