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まといものがたり  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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第弐章 prelude其之弐 妖しき鴉 

 

【昔々の事……】


今から古の時代の話。東の方角より不穏な兆しが近付く気配あり。


ある平穏な日の事。一日の畑仕事を終え帰路に着こうかと支度を始めた村人達。その頭上には穏やかに広がる真青な空。


しかしその穏やかな空に突如として轟く雷鳴と共に暗雲が流れ来て、風が猛烈な勢いで渦を巻き始めたと同時にどす黒い雲が瞬く間に空を覆い尽くし、身を切り裂くような鋭い風が吹きあれ、やがてそれはすべてを天高く巻き上げる巨大な竜巻となって人も家も家畜も空高く吹き飛ばす。

更に渦を巻きながら流れるどす黒い雲からは、幾本もの稲妻が雨の様に地表に降り注ぎ木々を焼き払った。そして……


『ゴオォォォォォォォォォゴゴゴゴゴゴオォォォォォォォォォッ!!!!』


空気を震わす地鳴りと共に地面の至る所が裂け、そこから真っ赤な火炎が噴き上がり始めた。そしてその噴き上がる灼熱の炎の只中から何者かが雄たけびと共に現れた。


「ヴッガォオオオォォォォォ! ガオッヴガアァァァァァ!」


そこから現れた者……それは、頭上に歪な角を生やす……そう、その者の正体は鬼、鬼が現れたのだった。身の丈は、十と五尺程の巨体、体色は、錆びた鉄の様に赤黒く筋骨隆々。醜く恐ろしい顔は、耳まで裂けた大口に幾本も生えた鋭い牙、眼は、蛇の様に黄色く黒眼は縦長。その太い腕から繰り出される一撃は、山をも砕く程の怪力。


その鬼を幾人もの名のある武士達が槍や剣で立ち向かうが、その強靭な身体に刃は折れ、鉄の鏃さえ跳ね返されその体に傷一つ付けられず鬼に薙ぎ払われてしまうという始末。鬼は、次々に村を襲っては民を喰らい、そればかりか妖者をも喰らった。そしてすべての民を喰らい尽くすとまた次の村へ。その話は瞬く間に日ノ本の中に広まり、鬼は、僅か数日間で日ノ本の國を恐怖に陥れた。


その諸悪の根源となる鬼の名は蛇鬼。鬼の目的は古の力『五珠の力』を手に入れ日ノ本の『善』を全て滅ぼし、この國を自らが統治する悪の巣窟に変える事だった。


そうは捺せじと対峙するは、國中から集まった勇猛果敢な武士、名のある術師、陰陽師そして宮司みやつかさ達。


蛇鬼との戦い、それはそれは凄まじいものだった。剣や槍が効かぬ鬼に、屈する事なく立ち向かう勇気ある猛者達。その戦いの中で術師達もありとあらゆる封じの術、破邪の術を駆使し、立ち向かった。宮司達が放つ様々な破邪の術、封じの術。それは、どれも強力な物だったが鬼はその技々を如く強力な結界で全ての術をいとも簡単に跳ね返し無効化した。


術が何一つ通じない鬼に苦戦を強いられる猛者たち。そしてその強大な惡氣になす術なく多くの宮司、術師達が次々と倒れて行った。


しかし長く苦しい戦いの末、宮司の長とその妻、香苗之守の捨身の術とその命を託された娘、千里之守によりようやく蛇鬼を封じの塚へ封じる事ができた。


しかし……それから幾百年の時が流れた新月の夜の事……結界が何者かに解かれ蛇鬼が再び世に放たれてしまった。だが蛇鬼の惡氣は、長い封印の中で衰え、それがそれから長い年月が過ぎた現在、再び日ノ本を恐怖に陥れようと企てる。


しかし『五珠の御珠』を受けた東城家の子孫、東城舞美。そして舞美に仕える雷獣羅神、御魂の術を受け、嫗家幾百年もの間、その御魂を受け継ぎ封じの塚を守ってきた宮司長の娘、嫗めぐみこと嫗千里乃守、そして舞美が恋い慕う人の心を持った優しき青鬼、神谷涼介。この者達の力により悲しい別れがありながらも宿敵、蛇鬼を見事打ち祓った。


ここまでの粗筋、詳しくは『纏物語 第壱章』をお読みいただくとして……ここでいくつかの疑問が残る。一つは何故、宮司達が放つ強力な封じの術が、いとも簡単に跳ね返されてしまったのか。そして前世の戦いで嫗千里之守によって張られた強力な封じの結界を解き蛇鬼を世に放ったのは……何者なのか。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇ 



【第弐章 初め】


 ここは、熊本県南部に位置する九州山地に囲まれた人吉盆地の中央に位置する街、人吉市。市内中心を清流「球磨川」が流れる自然豊かな街。 江戸時代には人吉藩の城下町として栄え、熊本の小京都と呼ばれる古い街並みが残り、人吉温泉をはじめとした温泉地が広く知られている。


そして朝霧の中、人吉城跡に隣接する歩道を歩く一人の高校生、名は青井優。十七歳の人吉商業高校の二年生。部活動は、剣道部に所属している。この時間に登校しているのは、部活の朝練の為だ。そして……


「優ぅぅ! おっはよぉぉ!」


遠くから優に大きく手を振りながら女子高校生が走り寄って来る。その声に優は、振り返り、大きく手を振り返しながら叫ぶ。


「おはよおぉ! ()()()ぃぃ!」


そして全力疾走をして息を切らした友達がようやく優の所に追いついて頭に手刀を当てながら叫ぶ。


「違ぁぁぁう! 私はぁみづきじゃなくてみ、つ、き、美月よっ!」


 「ハハハッ! ハハハハハッ! ハハハハハッ!」


そう言いながら二人肩を組み大笑い。このノリツッコミが二人にとって、毎日の日課になっているのである。


そしてこの女子高生の名は、神酒(みき)美月。優とは、保育園の頃からずっと一緒で優の幼馴染であり親友でもある。実家は、人吉市でも由緒ある神社であり美月は、その神社の一人娘である。


「でさぁ!……だから!……ほらぁ!……ハハハハ!」


他愛のない会話をしながら歩く二人。朝霧が晴れてくると空は、雲一つない青空。時折吹く風がとても心地いい、いつもと変わらない一日の始まりだった。


優と美月の通う人吉商業高校に行くには、必ず球磨川に架かるどこかの橋を渡らなければいけない。いつも朝の登校時は、水の手橋を渡るのだがその橋の袂で優は、立ち止まり俯いた。


「うん? 優、どうかしたの?」


と、急に立ち止まり俯いた優の顔を美月が覗き込みながら聞くと……


「あっ! うううん、何でもない! 何でもないよ!」


 慌てて取り繕った優。しかしここで美月には、見えていない者が優にはっきりと見えていた。


 (やばいなぁ……やばいよ、やばすぎるよ……居る、今日は、いつもよりいっぱい居る! 橋の上に何匹も……)


居る……それは、橋の欄干に座る者、そして腕を組み立つ怪しげな者達。この晴天の中、朝の日の光が燦燦と降り注ぐ中、怪しげな者達が優の目にはっきりと見えていた。


その妖しい者達、それは、昔話に登場する天狗の様な者。背中に鴉の様な真っ黒い翼があり口は、正に鳥の嘴の様だ。それ等が橋を渡ろうとする優を一斉に凝視する。


『すぅぅぅぅぅ……』


優は顔を上げ胸を張り大きく息を吸うと……

 

『スタスタスタスタスタスタスタ……』


俯き加減で視線が合わない様に早足で一気に通り過ぎようとする。


「ち、ちよっと! 優、優ってば! 待ってよ、どうしたの急に?!」


美月の呼びかけにも答えず、ひたすら早く橋を渡りきる事に集中する優。欄干の上の妖しい者共は、通り過ぎる優を目で追いかける。


(目を合わしちゃ駄目、目を合わしちゃ駄目! どうせ話しかけてはこないんだから!)


そう心の中で呟きながらひたすら速足で歩く。そして橋を渡り切ったと安堵した瞬間、後ろから何者かの声が聞こえて来た。


『キヨイチカラ……オマエノ……ソノチカラガホシイ……クックックッ……』


その声は、低くしゃがれていた。その声は、耳元で囁いたのか頭の中に直接聞こえて来たのか分からなかったがはっきりとそう聞こえた。優は、その声に思わず振り返った、すると欄干に座っていた沢山の怪しげな者達の姿は、一人残らず消えていた。


優は、振り返ったまま暫く考えた。その言葉の意味……お前の清い力……その力が欲しい……自分の身に何か良からぬ事が近づいているのではないか……と。


その日の夜の事、自分の部屋でベッドに寝転び……


「ハアァァァァァ……」


スマホの画面を見ては……


「ハアァァァァァ……」


とため息。スマホを握りしめ深いため息をつく優。


たまに『ガバッ』っと起き上がりスマホを見つめ、指を動かし電話を掛けると思いきやまた倒れ込んで……


「ハアァァァァァ……」


もう何時間もその繰り返しである。


今優は、遠く離れた某県榊市に住む祖母、神谷舞美に電話を掛け、今日あった事を相談しようとしているのである。しかし最近、年老いた祖母に心配を掛けたくないと思い始めた優は、電話をかける事を躊躇し一人葛藤していたのであった。


「昔だったら……子どもの頃は、何も考えないで簡単に電話を掛けていたのになぁ……」


そう小さく呟く……。


その内掛けるのを諦め、スマホを枕元に投げ捨て自分もベッドに寝転んだ。すると……


『ブウゥゥゥ……ブウゥゥゥ』


と、投げ捨てたスマホが鳴り始めた。寝転がったまま手を伸ばし取って着信画面を見ると相手は、祖母からだった。


「えっ? ええええええっ!!」


優は驚き起き上がると素早く電話に出た。勿論電話を掛けようとしていた事を悟られぬように一度深呼吸をして落ち着きを取り戻し、何事もなかったのように電話に出た。


「もしもし……舞美ばあちゃん? うん……うん……元気だよ……。舞美ばあちゃんは? うん、よかった。えっ? 人吉に来るの? 明日? 明日の夕方! 分かったお母さんに言っとく! じゃあね、おやすみ!」


電話を切った優は、大きく両手を振り上げながら飛び跳ね……


「いいいっやったぁぁぁぁぁ! 舞美おばあちゃんが人吉に来るうぅぅぅ!」


大声で叫びながら全身で喜びを表現した。



つづく…… 

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