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纏物語  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之卅参話 清い心と青い月

 優の両親、父の名前は青井一孝、母さくら。ご存知かもしれないが母さくらは舞美の娘である。


 二人の仮初は同じ大学での事。一孝が落ちていたさくらの学生証を拾い、それを教務室に届けた時に半泣きのさくらと鉢合わせになった時である。


 公務員を目指していた一孝、しかし、いくつも受けた地元での採用試験には一つも受からなかった。どうしても公務員になりたかった一孝は諦めず、地元に拘らず他の県の採用試験も受けた。その諦めない努力が実り、いくつかの県職、市役所職員の採用試験に合格し、内定をもらう事が出来た。その内定を頂いた中で、採用試験に訪れた時に接した方々がとても暖かく親切な対応に胸を打たれた。そして人吉の古風な情緒豊かな街並みと、食事のおいしさに感銘を受け地元から遠く離れたここ人吉市で公務員になる事を決めた。


 妻となるさくらの元を離れ、二人は何年もの間、遠距離恋愛を続ける事になった。


 それから月日が流れ、結婚という話になった時、舞美の夫、神谷涼介は既に他界しており一人身だった舞美を案じて遠く離れた熊本にお嫁に行く事に決心がつかなかったさくら。


 しかし舞美は人一倍優しいさくらの事だから自分に気を遣っているのが十分過ぎるほど分かっていた。だから結婚の話をさくらから相談された時に直ぐにこう答えた。


 「私は大丈夫だから安心して彼の元へ行ってあげて!」


 そう言って迷っているさくらの背中を押してあげた。


 そして結婚、一年後二人の間には一人娘、優が生まれる。優の名付け親は舞美であるが何故『優』の名にしたのかと言うと……『クリィミーマミ』の変身前の少女の本名が『優』だからである。因みに母親の『さくら』も魔法少女の名前から取っている。しかし残念な事にさくらも優もアニメ……魔法少女には全く興味がない。


 


【おじいちゃんと涼介くん】

 


 帰宅して入浴を済ませた二人、父親は残業らしく三人での夕食になった。献立は舞美の好きなカレーライスとゆで卵がたっぷり入ったスパゲッティサラダだった。


「でかした我が娘よ! カレェェ最強っ! 私の事よくわかってるっ! それでは頂きまぁす!」


 舞美はご機嫌で食べ始めた。さくらも優もそんな舞美を微笑ましく見ていた。食事を取りながらの三人の会話は人吉の街の事、優の学校での出来事と大いに盛り上がった。そして母親のさくらが舞美に尋ねた。


「お母さん、今回はどのくらいこっちに居られるの?」


 その問いに舞美は、しばらく考えて……答えた。


「うぅぅぅん…………わかんない、とにかくしばらくお世話になると思う……」


 舞美はスプーンを口に咥えたまま答えた。


「やったぁぁぁ! だったら舞美ばあちゃんのお世話は私がするからねっ!」


「お世話だなんて、私はまだまだ元気だよっ!」


 明るく振る舞う優。しかし帰り道の橋の上であった事に関して何一つ聞いてこない舞美に少し……後ろめたさを感じていた。


 (舞美ばあちゃんにもはっきり見えていたんだ。しかも彼奴等と話をしてた……『清き力を持つ者』って……舞美ばあちゃんの事なの?)


 物心ついた時から怪しき者が見える優だったが母親のさくらに、その様な力は微塵もない。古の神守の血は母親に受け継がれずその娘、優に引き継がれたのだった。


 舞美は邪鬼との戦いの後、五珠の力を持つオジイ達と別れ、その力は失われた。


 しかしある日、御守として肌見放さず持っていた涼介の青い風鈴のキーホルダーが突然輝き出し、一筋の光となって舞美の左手人差指に巻き付いた。


 巻き付いたそれは、透き通るように青い石で作られた指輪となった。


 その日から舞美は邪鬼を祓った圧倒的な神力『青き鬼の力』を纏う事が出来るようになったのである。


 しかし何故にこの力を纏えるようになったのか舞美にも分らなかった。ただ一つ言える事はこの時は、優の力(悪しき者が見える事)が覚醒し始めた頃と同じ時期であった。


 夜もふけ、優は宿題を済ませた後ベッドに入った。その隣には舞美用の布団が敷いてあった。舞美はリビングで帰宅した父親とさくらの三人で近況報告などの話で盛り上がっているのか、優が寝入るまで楽しそうな笑い声がリビングから聞こえていた。


 何の位の時間が過ぎだろう、なんの前触れもなく優は眠りから覚めゆっくりと目を開けた。頭上の天窓からは優しい月明かりが差し込んでいた。冷たい風が頬に当たる。寝惚け眼で窓の方を見ると窓際に白髪のあの女の人が椅子に座り、空に浮かぶ青い綺麗な月を微笑みながら眺めていた。


 優は『あの人だ……』と思いゆっくりと起き上がり……


「あのぉ……」


 小さな声で話しかけた。その声に気付き振り向いた女性……それは舞美だった。


「あぁ……御免なさい、優。起こしちゃった? ちょっと寒かったかな?」


「うううん、勝手に目が覚めただけ…。おばあちゃん……お月様を見てるの?」


「そうよ……今日は空気が澄んでてね。お月様が青く光って綺麗だからちょっと見ていたの……。そうしたら昔の事、色々思い出しちゃって……」


 そう言いながら舞美は再び月を見上げた。


「昔の事っておじいちゃんの事?」


 そう聞くと舞美はちょっと困った顔をしながら答えた。


「うぅぅぅん、涼……おじいちゃんとはちょっと違うかな……ハハハ……なんて言ったらいいのかなぁ……おじいちゃんだけどおじいちゃんじゃない……私が大好きになった人。もちろんおじいちゃんの事も大好きだったけどね……」


「おばあちゃん、その人とはどうなったの? 付き合ったりしなかったの?」


 舞美は暫く考えた後、月を見ながら言葉を一つ一つ選ぶように口を開いた。


 「その人とは……付き合う事は出来なかったの……。彼はとても優しくしてくれて……私は大好きだったけど……でもその人とは住んでいる世界が違ってて……挙句に私は……その人にとても……とても酷い事をしちゃってね……。それでも彼は……私の事を助けてくれたの、命をかけてね……」


「ふ~ん、『命を懸けて』ってその彼はもう何処にもいないの?」


「うん……。だけどその人は今でも……私の事を見守ってくれているのよ……」


 そう言って俯く舞美、選んだ言葉が難しかったのか優は中途半端な返事しかできなかった。


「さぁ、もう寝ましょ、明日朝練で早いんでしょ……」


「うん……お休みなさい……」


 舞美に促され優はベッドへ潜り込んだ。すぐに寝入った優、舞美はそれからまた暫く、青い月を眺めていたらしい。


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