外伝 其之参話 冷酷
午前十時、待ちに待った(姉が)ステージが始まった。舞美は、、子ども達に混じり歌え踊れやの大はしゃぎ。その隣で恭一郎は、ステージにいた少女の事が気になり元々興味は無かったがぷりきゅあショーなど上の空だった。
(助けてって確かに言った……僕に向かって助けてって……)
あの少女の声を聞いて以降、ずっとその事ばかりを考えていた。
そして午前のステージが大熱狂(姉が)の末に終わった。其れが終るや否や今度は、園内の乗り物全てに付き合わされる羽目になる。そこで恭一郎は、何とかお化け屋敷から遠ざかろうとしていたが……
「恭ちゃん次、次っ! 次はぁ……お化け屋敷ね!」
とうとう来てしまったこの時が……と、恭一郎は、腹をくくった。力なく歩く恭一郎を姉は、鼻歌を歌いながら力強く引っ張って行く。気楽な舞美は、引っ張られている弟が今何を考えているか知る由もなかった。
そしていよいよ、あの事件が起きたお化け屋敷の前へ到着した。その門構えは、あの頃と何も変わってない。
(ここ……この辺りで転ばされて上に乗っかられてボコボコに殴られたんだ……)
恭一郎は、そう思いながら後ろから舞美の背中を睨んでいると急に振り向いてきたので慌てて目を逸らして誤魔化した。そんな弟に舞美は、姉の威厳を示すように言い放つ……
「恭ちゃん大丈夫! 私が付いてるから、さぁ入ろ!」
手を引っ張って入った……しかし……
『ドダンッ!!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
入ってすぐ、上から生首の作り物が落ちて来ての大絶叫! 早くも恭一郎の背後に回りこみ隠れるように伏せながら肩の肉を思いっきり掴む姉。
「痛いっお姉ちゃん肩痛いっ!」
その後も回る人形や正面から吹き付ける風にビビりまくり……とどめは古井戸から長い髪の幽霊の作り物が飛び出た瞬間だった。
『プシュュュッ!!ガチャン!!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!もう無理ぃぃぃ!!」
今日一の大絶叫を上げ半べそをかき、叫びながら恭一郎と犬(羅神)を置いてけぼりにしてお耳を塞ぎ、全速力で逃げ出した(しかも入口の方へ走って行った)
「あぁぁあ……やっぱりね。こうなると思ってた……」
逃げ出した姉の後姿を眺めながら最初の威勢は何処へやらと呆れていると……
『キィィィィン……』
と、耳鳴が……そしてさっきと同じように背筋にぞくっと悪寒が走る感覚に襲われた。
(居る……この近くの何処かに……あの子か?)
そう思いつつ周りを見渡す。すると井戸の後にある草むらの奥……少し暗がりになっている場所に気配を感じる……目を凝らすとうっすらとその姿が浮かび上がってきた、それはやはりさっき見たおさげ髪の少女だった。どこか怯えた表情にも見えるこの少女に不思議と怖さは感じなかった。恭一郎はゆっくり歩み寄ると恐る恐る声をかけた。
「あのぉ……君……さっきステージの奥に居た子……だよね?……そのぉぉ……助けてって……どういう事なの?」
すると少女は、顔を上げ堰を切ったように話し始めた。
「やっぱり!お兄ちゃん、私が見えるのねっお願い、助けてっ!私達ここから出られないの!お家に帰りたいの!助けて、お願いお兄ちゃん!」
生まれて初めて幽霊と言う者と会話をした恭一郎は、案外冷静だった。その証拠に少女の問いに優しく聞き返す事が出来たからだ。
「助けてって…………ごめん……僕には、君が見えるだけで何も出来な……」
そう言って宥めようとしていると、暗闇の中から突然何かが恭一郎めがけ弾かれたように猛突進してきた。その気配に気付き振り向いた恭一郎だったが避ける間もなく眼前に迫った。しかし直撃寸前に羅神が横から飛び掛り、その何かをバクッ!っと咥え抑え込んだ。
羅神は、抑え込んだそれを恭一郎に見せるように頭を上げた。其奴はいつも見るような奴では無く、その火の玉の様な体には、恐ろしい鬼形相が浮かび上がりとてつもなく禍々しい惡氣を放っていた。
「何だこれ? いつも見る奴と違う。物凄く気持ちが悪い……」
そして羅神が……
『ウゥゥゥゥ……』
と、低い声で唸ると白い毛が逆立ち青白く仄かに光ると……
『バジッバジバジッ!』
電気がショートする様な乾いた音と共に青い火花が禍々しい者を包むと其れが真っ赤な炎に包まれ、ボロボロと崩れ去った。
それと同時に屋敷の中の電源がバチッ!と落ち館内が真っ暗になった。そしてその暗闇の中から少女の声が聞こてくる。
「お願い……ここ……に居る…………を……やっつけて……お願い……お兄……ちゃ……」
少女は、何かを伝えようとした……しかしその声は、途切れ途切れでよく聞き取れなかった。そして声が聞こえなくなると同時に、奥の方から幾つもの懐中電灯の明かりが恭一郎の方へ向かって来るのが見えた。
屋敷から出ると出口で姉が心配そうに待っていた。スタッフ達は、恭一郎達に何度も謝っていたがそもそも停電の原因は、自分であり平に謝るスタッフに申し訳ない気持ちで居た堪れなくなっていた。
元凶の羅神は、何事も無かったかのように姉の後ろであくびをしながら後ろ足で耳の辺りを『カリカリカリッ』と掻いている。そういえば今日は、いきなり現れる禿げた爺さん達が見当たらない。
其後、お化け屋敷の恐怖から立ち直った姉に再び引っ張り回され、全てのアトラクションを制覇し、楽しかった今日一日の最後は、特別公演、ぷりきゅあショーの三回目、サンセットの部(曜日限定)で締めくくった。
恭一郎にとって長い一日がやっと終わった。帰りの車中、全身全霊をかけて歌い踊った姉は、満足気な表情を浮かべながら大口を開けて寝ている。対照的に恭一郎は、浮かない顔を浮かべ、何かを考え込んでいる様子だった。
(『助けて』……なんて言われても……僕には、どうする事も出来ないよぉ……。でも……でも……)
そう考えれば考える程、自分の不甲斐無さに情けなくなる恭一郎だった。
【めぐみと書いて……怖い人】
「もう考えるのは、ようそう! 考えたって僕には何もできないんだからっ!」
そう独り言を言いながらの塾からの帰り道。 日が沈みかけた空は、紫色に変わり始めていた頃だった。最後の角を曲がると家の前に誰かが佇み二階、恐らく舞美の部屋を見上げていた。よく見ると姉と同じ制服……その人物は、嫗めぐみだった。
(嫗……めぐみさん? なんだろう……めぐみさんの体……)
と、嫗めぐみを見て不思議に思う恭一郎。何故なら恭一郎の眼に映った嫗めぐみの体全体が白く光っている様に見えたからだ。めぐみは、角に居た恭一郎に気付くとくるっと背を向け歩き出した。恭一郎は、透かさず嫗めぐみに走り寄ると背後から声を掛けた。
「嫗めぐみさん!……でしたよね。あのぉ……そのぉ……聞いて頂きたい事が……あるんですけど……」
するとめぐみは、立ち止まってゆっくり恭一郎の方へ身体を向けた。そして……
「何かしら……」
恭一郎の目を見つめしばらく間を置いた後口を開いた。めぐみの冷たい目線と感情のない表情。しかし恭一郎は、感じていた。
(この人から何か……何と言うか……『ぷりきゅあ』みたいな正義の光が出ている! 絶対そうだっ!)
「あのぉ……あのぉ……そのぉ……」
どう話を切り出したらいいのか分からず、口篭もってしまった恭一郎。それを見かねた嫗めぐみが話を切り出す。
「あのあのうるさいわ……着いてきなさい……」
(めぐみさん……怖い……しかも無表情で言い放つから余計に怖い)
そう思いつつもめぐみの後をついていく恭一郎、すると行き着いた先は、近くにある公園だった。奥に歩み行き芝生の小高い山がある広い場所でめぐみは、歩みを止めた。と、同時に恭一郎は、せきを切ったように話し始めた。
「あ……あの! 僕には、お化けが見えるんです! それでこの前、遊園地で女の子のお化けに助けてって言われたんですけど僕には、どうしたらその子を助けてあげられるのか分からないんです! めぐみさん、どうしたら良いか教えてくれませんか!?」
恭一郎は、生まれて初めて自分が見える事を他人に告白した。それを聞いためぐみは、目を細め冷たく言い返す。
「どうして私に……あなたに何がどういうふうに見えるのかは知らないけど……私には、関係のない事よ……」
その答えに恭一郎は、落胆した表情で俯き話す。
「ご、ごめんなさい。他の人には……家族には、相談できないし……でもめぐみさんなら聞いてもらえると思って……それに……」
「それに……?」
めぐみが聞き返す。
「めぐみさん……普通の……人……ではないですよね?」
恭一郎が言ったその一言にめぐみは、『かっ!』と目を見開き、右手を恭一郎に向けて差し出した。するとめぐみの周りに凍てつく冷氣が集まり始め、それが渦を巻きながら細長い塊が出来上がった。その氷塊の先がガキッと割れて口となり、氷塊蛇と化した。口には、鋭い歯が剥き出しになって並んでいる。 そしてめぐみがを右手をゆっくり指し示すと、無数の氷塊蛇が指し示した先に居る恭一郎目掛け突進した。
「うわぁわぁわぁ!!」
恭一郎は、慌てふためき、咄嗟に手に持っていた鞄でそれを叩き落した。すると地面に叩きつけられた氷塊蛇は、泡の粒の様にようになって消え失せた。
(!! 今のは……何?)
その光景を目の当たりにしためぐみは、無表情ながら驚愕した。
「うわわわわっ! 何これ⁉ 気持ち悪いぃ!」
叫びながら慌てふためく恭一郎。めぐみは、後方に控えている氷塊蛇を四方に放ち恭一郎を責め立てる。
「ぎゃぁぁぁぁ! めぐみさん何するんですかっ止めてくださいぃぃ!」
「ほらほら……早くどうにかしないと……氷塊蛇に食われてしまいますよ……」
恭一郎は、冷酷に言い放つめぐみに背を芝生の方へ逃げ出した。全速力で逃げながら後ろを振り返ると氷塊蛇が大口を開け、顔面目掛け飛び掛って来た。
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
そう悲鳴を上げた瞬間何かに蹴躓いて転び、小高い芝生の山を前のめりになって転げて行き、大きな木の根元にぶつかって止まった。
(もう駄目だ!死ぬ!めぐみさんに殺される!)
四つん這いになってよろよろ這って逃げようとする恭一郎の背後から氷塊蛇の群れと共にめぐみが静々と歩み寄って来る。そして……
「君……貧弱……貧弱です……」
そう言いながら無表情でゆっくりと近づく嫗めぐみ。恭一郎は、尻餅をついたまま後須佐りをする。そしてついに傍にある銀杏の木に遮られ逃げ場を失った。恐怖で引き攣り恐れ慄いていると右手に太い木の枝の感触があった。咄嗟にその折れた木の枝を握り迫りくるめぐみに向かって指し示し叫んだ。
「くく、来るなぁ来るなぁぁ化け物!!あ、あっちいけっ!!」
その時……めぐみは、歩みを止めた……めぐみには見えていた……恭一郎が握っているただの折れた木の枝が不自然に青白く光っているのが……。
(何? この光は……? 神氣? いや、そんなはずはない……)
そこでめぐみは、その真意を確かめるべくこの至近距離から躊躇する事無く、木にへばりつく恭一郎目掛け、氷塊蛇の群を飛ばした。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
つづく……




