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まといものがたり  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之参話 序章 下ノ話

【二人の時間が重なる時】


男が目指しているパチンコ店は、もう目の前だった。


しかし300メートルほど先にある最後の交差点の2つ手前の信号が、二か所同時に赤信号に変わった。


それに気づいた男は、すぐさま目前の十字路を左折し脇道に入った。この道をすぐに右折し、真っ直ぐ行くとパチンコ店に接する大通りに出られる抜け道だった。


しかし脇道は、車線のない住宅街を通る道。車が離合できるくらいの広さはあったが、両脇に高い塀と背の高い植木が続きが意図も少なく見通しは、かなり悪い。


そういう状況下でも男は、ライトを上向きに切り替え、アクセルを捻る。すると前方の横断歩道の200メートル先にある大通りに入る交差点の信号が青に変わった。それを目視で確認した男は、更にアクセルを捻りスピードを上げる。


爆音が住宅街に響き渡る。


スピード警告灯の赤いランプが付いた、だがしかし、男がそんな事を気にするはずもない。『前方に横断歩道あり』の標識があるにもかかわらず男は、スピードを落とさない。


『こんな所を渡る奴はいない』


そう思った時男は、前右上の壁の上に『キラッ』と光る何かに一瞬、ほんの一瞬気を取られた。それは、ヘッドライトの光源に反射した猫の眼球だった。


それに意識が行ってしまった男は、左方向から横断歩道を渡っている舞美に気付くのが遅れてた!


『ギッギギギッ!ドゴガッガッチャァァンゲガギッゴガッボギッバギギギッガアァン!!!』


男が舞美に気付いた時には、もう遅かった……猛烈なスピードが出ていたバイクに止まる術はない。ほぼブレーキを掛けない状態で舞美と激突した! 悲惨な結末……真横から跳ね飛ばされた舞美は、空中高くふっ飛び、地面に激しく叩きつけられ、数十メートルに亘って転がり民家の外壁にぶつかりようやく止まった。舞美には、一瞬の出来事だった。自分に何が起こったのか、何故自分が地面に横たわっているのかを全く理解できなかった。起き上がろうにも体が動かない。


頭と口から血を流し、力なく横たわる舞美の視界の中に、壊れて煙を上げながら倒れているバイクが見えた。そして……


『あぁ私は、このバイクとぶつかったんだ』


と自分置かれている状況をようやく理解した。すると痛みは、感じなかったが不思議と眠たくなるような感覚が舞美を襲い始めた。薄れていく意識の中、舞美の視界の中に、ゆっくりと近づいてくる人影が見えた。それは、バイクに乗っていた男だった。男は、ヘルメットの中と両腕から血が滴り落ち、ジャケットも血まみれでボロボロ。ズボンも大きく裂けボロボロに破けていた。男は、舞美の傍まで歩み寄り、真上から見下ろした。


その男を見た舞美は……


(この人……バイクの人?……良かった、助かったんだ……よかった……)


そう思った次の瞬間、男の体が墨汁のような真っ黒い煙に包まれ、もがき苦しみながら消えていくのを見た。それを最後に舞美は、意識を失った。


バイクと女性の人身事故。舞美は、榊市で最新の設備が整っている榊市地域医療センターに緊急搬送された。体中の骨は砕け折れ、頭と内臓にも相当のダメージを負い瀕死の状態の女子高生、名前は舞美、東城舞美。この物語の主人公である。偶然と偶然が重なり、必然となって起きるべくして起きてしまった悲しい事故。


それは、これから始まる『纏物語』の序章に過ぎなかった。


つづく……

                  

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