其之肆話 光る禿げ頭
榊市は、県の南側にあり人口は、県で2番目に多く都市部からは結構離れてはいるが近年、大幅なインフラ整備が進み福祉、医療なども子育て世代や高齢者だけではなく県民全体に渡って大幅に見直され充実された。その成果は、口コミで『日本で最も住みやすい街』と全国区のニュースで取り上げられた程の成果があった。そして榊市は、緑と水が豊かな街でもあり四方を高い山々に囲まれていた。それ故かこの街には、多くの神話や不思議な伝説があった。
そして今、この街で一番設備が整った医療機関、榊地域医療センターに一人の女子高校生が瀕死の状態で運ばれてきた。バイクにはねられ、全身を強く打ち虫の息で意識もない状態だった。
【私は舞美、またの名をクリィミーマミ! なんちゃって】
「私は、東城舞美。地元の県立高校に通う普通の高校1年生。みんなには、普通にまみって呼ばれてる。舞美って名前は、お母さんが子どもの頃に観ていた大好きな魔法少女のアニメキャラクターの名前からつけたんだって。その影響なのか私もアニメが大好きな女の子。
高校生になっても毎週『プリキュア』は欠かさず見てる(ふたりはプリキュアが一番好き)他にも「セーラームーン」も大好きだし「カードキャプターさくら」とか昔のアニメをお母さんとアニメ専門チャンネルで観ている。好きなアニメのタイトルで分かるけど私は、格好良く変身したり、魔法を使って悪い奴をやっつける物語が大好き! そういえば子どもの頃、友達と変身ごっこをしてよく遊んでいたなぁ。同じ変身でも仮面なんとかは怖くて見てなかったけど……。男の子とどっちが強いかって言い合ってよく喧嘩になってた。
部活は、バスケットボール部。私は、小学校三年生からバスケットボールを続けてる。だけど自分で言うのもなんだけど結構運動音痴なのでなかなか上手にならない。だから始めた頃からずっと補欠メンバーだ。それでも私は、バスケが大好きだからずっと続けている。部活? そういえば今日、部活は休みだった……家にいる筈なのに私……ここどこ?
舞美は、そう思いながらゆっくりと目を開けた。するとすぐに周りの景色に違和感を感じた舞美、それは、目の前に眩く光る電灯があったからである。それを避けるように手を伸ばすと軽い感触の後、体がくるりと下を向いた。するとそこには、信じられない光景があった。
そこにあったのは、全身を包帯でグルグル巻きにされベッドに寝かされている自分の姿、その身体には、沢山の機械に繋がれていた。その横では、泣き崩れている母親と呆然と立ち尽くす父と弟の姿があった。
「ごめんなさいぃぃまみぃぃ!私がぁぁぁぁ私が頼んだばっかりにぃぃぃぃぃ!!」
母親は、ベッドの横に跪き、舞美に縋り付きながら些細な感情から舞美をこんな目に合わせてしまったという自責心に崩れ泣き叫んでいた。
その光景を見ていた舞美は、『はっ』として思い出した。
「そうだっ! 私、お母さんにお使いを頼まれてその途中でバイクにぶつかったんだっ! そっかぁ、私……死んじゃったんだ……」
その泣き叫ぶ母親の姿に居た堪れなくなった舞美は、母親の隣にゆっくりと降り立ち、両肩に手を添え弱々しく震える母親の背中に頬をあてた、その感触は、触れたか触れないかの弱いものだったが、ほんのり温もりを感じた。
そして呟いた……
「悪くない。お母さんは、悪くないよ。そんなに自分を責めないで……お母さん」
自分は、死んでしまった……家族を悲しませてしまった。しかし、もうどうする事もできない。声を出して泣いても、語りかけても返事は帰ってこない。自分の声は、目の前にいる大好きな家族には、もう聞こえない……。
「お母さん泣かないで……。みんな……泣かないで……」
弟は俯いて震えていたが父親は、目をきつく閉じ、天を仰いで何かを祈っているようだった。舞美は、立ち上がりゆっくりと後ろへ下がり深々と頭を下げた後、呟いた。
「じゃあ、私、いくね。さようなら……お母さん……お父さん……きょうちゃん……」
舞美は、母親と父親、そして弟に別れを告げ、ゆっくりと顔を上げ指で涙をぬぐった……。
しかし……ふと……ある事に気が付いた。
「んっ? 私、行くって……どこに行けばいいの?」
よくあるシチュエーションとして、アニメや映画で言うならば空から天使が降りてくるとか空から光の階段が降りてくるとかあるはずだが……降りてこないし何も起きない。何も起きないこの状況に舞美は、急に怖くなり悪い事を考え始めた。
「もしかしたら私……じょっ、成仏できない?! このままお化けになっちゃうのっ?! それともぉぉぉ、ひょとしたらぁぁぁ、そこに真っ黒い穴が開いて引きずり込まれるとかっ!? 黒くて大きな鎌を持った奴が来る?! いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ここから逃げないと、そう思うが窓もあかないしドアも開かない。壁は柔らかく感じるが通り抜ける事が出来ない。どうやっても部屋から出られない。焦りまくって途方に暮れていると、何処からともなく声が聞こえてきた。それは、しゃがれた声……
(慌てるな舞美……お前は、まだ死んでおらぬよ……)
(おっほっほっほっ、ついに儂らとご対面じゃ)
(全く勿体ぶりおって! さっさと会わせろっ!)
(まぁまぁ落ち着きなされ、一番戸惑っているのは、舞美なんじゃからのぉ)
(そう……落ち着きなさい……)
(えぇぇい! 二人して同じ事を言うなっ、馬鹿垂れ!)
何処からともなく聞こえてくる声に、辺りを見回しながら問いかける。
「何っ!? 誰! 誰なのよっ⁉」
すると、吐息のような微風とともに、微かに甘い御香のような香りが辺りに漂ってきた。
そして四方の壁と天井に五つの光の輪が浮かび上がり、その中から光り輝く何かがにゅ〜っと筍のように生えてきた。
「ぎっ?!ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
舞美は、口から心臓が飛び出るぐらいの悲鳴を上げ、恐怖のあまり顔が楳〇かず〇の画風になって、頭を抱えながら蹲ってしまった。
「きゃぁぁぁ! 悪い事なんもしてないっ! ただ弟のおやつを黙って食べましたぁぁ!! お父さんのパンツを箸でつまんでますぅぅぅごめんなさい! それとそれと……ああぁぁ地獄だけは勘弁してください! お願いしますぅ!」
恐くて顔を上げられず震えていると、肩に手を添えられ優しい口調で誰かが語りかけてきた。
「舞美、だからお前は、まだ死んでおらんて。顔をあげよ」
舞美は、恐る恐るゆっくりと顔を上げた。するとそこに居たのは、頭がつるぴかで仙人のような白い着物を纏った爺達。
「いい、いち、にぃい、さん……し……ごぉぉ……は、はは禿げたおじいちゃんがごご、五人?!」
全員禿げ頭だったので同じ顔のように見えたがよく見ると全然違っていた。その五人の爺が舞美を囲うように立っていた。皆同じ白い着物の様な物を着ていたが、手首か首に色や形が違う首飾りや腕輪をそれぞれ身に着けていた。
舞美は、自分の目の前で何が起こっているのか理解できず、引きつった顔をしていると、眉毛が太い老人が一歩前に出て語りかけてきた。
「舞美よ……落ち着いて聞かれよ」
その禿たオジイが言った。次にその隣に居る禿たオジイが言う。
「ようやくお主と話しができるようになった」
次の禿げたオジイが言う。
「我ら五人は、お前達の祖先、遠い遠い昔の爺ちゃんだ」
次の禿げたオジイが言う。
「悲しんでいる母親には気の毒だが今回の事故は、我らが仕組んだもの」
次のオジイは何故か怒鳴り気味に言い放つ。
「だからお前は、死なんと言っとろうが!」
「お前は、すぐに怒鳴り散らす! ほれっ舞美が怖がっておる!」
「何じゃとぅ!? 儂の話し方に文句があるのかっ!」
「まぁまぁ二人とも、落ち着けって……」
そのオジイ達は、秩序もなく次々と語りかけてくる始末。終いには、喧嘩が始まり五月蠅くて騒がしくてもう目が回り徐々に気分が悪くなってきた。その内に舞美は、イラっとして感情が高ぶり遂には、五人に向けて大声で怒鳴った。
「こらぁ!! 禿げた爺が揃って喧嘩をしないッ!! それに一度に話かけないで!! 誰の話を聞けばいいのっ!? 誰か一人が話して!!」
その剣幕に五人は、静かになり顔を見合わせた後『それもそうだ』という事で丸くなって話し合いを始めた。その結果代表者は、太い眉毛が特徴の爺になった。
「すまんすまん、舞美。儂の名は、東城虎五郎と申す」
この東城虎五郎と名乗った爺。首には、赫く光るピンポン玉位の大きさの珠が連なった数珠の様な物を巻いていた。そして気持ちが落ち着いた舞美に虎五郎が静かに語り始めた。
【古の神守 東城家】
「まずは、舞美。儂等は、お前に詫びなければならぬ。しかし、どうしても儂等は、お前と……話をしなければならなかった。その為には、お前を儂らと同じ御魂にせねばならなかった。舞美、痛い目に合わせてしまって、本当に申し訳ない……」
オジイ達は、虎五郎に合わせて頭を下げ詫びの姿勢をとった。そして暫くの沈黙の後、頭を上げて話を進めた。
「舞美お主は、聞いた事がないかもしれんが儂等東城家は、遠い昔、そう……お主の生きているこの現世からすれば遠い遠い昔……神守という、神に仕える事を生業にしておった。神に仕える者の生業。それは、神が御座す処を清めるばかりではなく、神に変わり世の民に降りかかる災いを祓い、そして時には、日ノ本に災いをなす悪しき者……彼奴等を我らは、妖者と呼んでいるが、この妖者共を祓い清める事を生業としてきた。
しかし、我等東城の人間は、気付いたのだ……人の命は、短く儚い。多くの民を助け、人の世に蔓延る悪しき妖者を祓うには、余りにも短い命。そこで東城家三代目当主、東城右近は、自らの魂を珠に変える術『御珠の術』を編み出した。
御珠の術とは、己の命を錬金術によって魂の宿った珠とし、更にその珠に惡氣を祓う強力な神力と属性を与え、守護の珠と成す術。
そして……その目的は、誇り高き東城家として……神を……日ノ本を悪しき妖者共から守る守護珠となり、未来永劫この國に仕えていくという事。そしてその珠は、儂ら東条家の人間が代々受け継いでいたのだ。
その後、儂ら五人が御珠の術により守護珠となり、其れは、いつしか『五珠の御珠』と呼ばれ、その力を受け継いだ者は、数多の邪悪な妖者を祓う者として多くの術師や神守達から敬われておった。
しかし世も末か、その余りに強力な祓い清める力を妬み、よく思わぬ者が現れ始めた。そしてついにそれを受け継いだ九代目当主、東城勘九郎に宮司や呪術師、同じ神守達までも異議を申し立て始める者が出始めた。
そしてある時、事が起こった。九代目が祓うべき妖者を同胞の何者かの妨害によって取り逃がしてしまった。逃れた妖者は、腹いせに次々と村を襲い、多くの民が犠牲となってしまった。東城勘九郎はその事で酷く咎められ、そのどさくさに紛れた挙げ句に『御珠の術』は禁忌とされ東城家は『悪しき祓い人』として神守の生業を追放されてしまった。
そこからじゃ。東城家が神守を追放されたと知った宮司や寺坊主、呪い師のみならず力のある妖者までもが五珠の御珠を我物にしようと九代目を執拗に襲い始めた。特に妖者共は、時と場所を選らばずあらゆる手段を用いて襲って来た。
そのような時、ついに孤高奮闘での攻防にも限界が訪れ五珠の御珠は、宮司共の手に堕ち封じの壺に囚われてしまった。しかし、その後一瞬の隙を突いた九代目は、宮司等をたばかり、封じられた壺を壊し見事儂らを取り返した。そして数多の追手を振り切りたどり着いたのがここ榊の村、現在の榊市だった。そして九代目は、この地の外れの何処かに強力な神隠しの結界を張り、我等はそこで安らかな眠りに付いていた。
ところが、それから長い年月が経ったある時、勘九郎が施した強力な結界が易々と解かれ、何処からともなく現れた若者が儂ら五珠の御珠を解放した。そしてその時、開放された儂らの前に現れたのは、溢れんばかりの邪悪な惡気を放つ醜い鬼。そう、それは、我等神に仕える者が幾年も対峙してきた憎っくき鬼じゃった。その邪悪な術と惡気は凄まじく、儂ら神守や宮司達も彼奴等が現れた時は、その惡力にほとほと手を焼いていた。その鬼は、五珠の御珠を我が物にせんと企み、榊の村へ向かっておったのだ。
恐ろしい形相で荒れ狂う鬼。だが五珠の御珠を解放した若者は、恐ろしく強かった。その邪悪な鬼の術も怪力を物ともせず五珠の力を難なく纏い、凄まじい術を使っていとも簡単に祓ってしまったのだ。
そして戦い終わり、辺りに静けさが戻った後、その若者が儂らに語った。
『聞くがよい、敢然たる東城の御珠達よ……今から幾年か先、遠く東の方角から恐ろしく強大で凶悪な力を持った者が日ノ本を我が物にせんとするが如く現れる。しかし神に仕える者達によって打ち倒され封印される。しかし彼奴は、兇悪な力を得て再び蘇る。五珠の御珠達よ、その兇悪な者が蘇る前に、何れ東城家に生まれ出づ『清い力』を持った乙女にお主達の力を授けるのだ。その者であれば、その悪しき者を打ち祓う事が出来る……かもしれぬ』
そう言い残し消えていった」
その話を聞いた舞美は、慌てた口調で聞き返した。
「ちち、ちょっと待って! 頭の中がごちゃごちゃなんだけど、そのぉ……何れ生まれる清い力を持った乙女って……ひょっとしてぇ……私……の事?」
「うむっ……」
その問いを聞いた五人のオジイが同調するかのように一斉に頷く。
「わわわ、私がぁ?! 清い力を持った乙女ぇぇぇ?!」
驚く舞美に虎五郎が続けて語る。
「舞美の霊的な力は、強くそして澄んでおる。神守だった頃の儂らの力に非常によく似ている、これこそが古の神守、東城の証。『五珠の御珠』の力は、これがあってこそ強い神氣を放ち、惡気を祓い清める力を纏う事が出来るのだ」
「貴方達さっきから『祓う』とか『清める』とか『妖者』とか言ってるけどそんな訳の分からない者と戦えって言ってるの? 私は、唯の女の子よっ! そんなのと戦える訳ないじゃない!」
「ふっふっふ、心配いらん。儂らがお主を戦う女子に変えてやる。お主はこれから儂ら五珠の御珠を纏い、惡しき妖者共から日ノ本を守るのだ」
舞美は、虎五郎が時々口にする「纏」の意味が分からなかった。
「その纏うっていったい何なの? 第一私は、死んじゃうかもしれないのに……」
「舞美……だから何度も言っておるだろ……お前は、死なんと。」
そう目が細い物静かなオジイが語った。続けて虎五郎が語る。
「舞美、心配ない。お前のその清い心は、どんな妖者をも祓い退ける。もしお主が惡しき妖者共に屈しようとしたその時は、我らの御魂に代えても必ず守って見せようぞ」
そう言うと五人は、それぞれ掌から光り輝く珠を出した。
「これぞ我らの力の源、御珠。この力を……お前に授ける。受け取れ舞美」
「頼んだぞ舞美」
「よろしく頼む……舞美」
「お願い致します、舞美」
「舞美……頼むぞ」
五人のオジイ達から放たれた五つの珠が舞美の掌に集って一つなった。そしてその光が柔らかく広がり舞美の体を包み込んで行く。柔らかく温かな光……その光に包まれ、舞美の意識が次第に薄れてゆく、そして……遠くから何かの音が聞こえてくる。
『……ッ……ピ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……』
それは、舞美の身体に繋がれている機械の発する音……舞美は、静かに目を開けた。
「ま……ま…………み……ま……み…………まみ、まみっ!!」
母親が自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。顔を右へ傾けとそこには、伏せて泣き崩れているいる母の姿があった。
「お母さん……お父さん……きょうちゃん……」
舞美のか細い声に母親が顔を上げる。もう二度と目を開ける事がないと医師から言われていた娘が、意識を取り戻し目を開けた……舞美の母親は、一瞬息が止まったが再び大きく息を吸いこみそれを一気に吐き出すように叫びながら泣きじゃくった。
「まあぁぁぁぁみいぃぃぃぃぃ?!まあぁみいぃぃぃぃぃまぁみぃぃぃ!!!!まぁみぃがぁ目を開けたぁぁぁよがったぁぁぁよがったぁぁぁまみぃぃぃ!!」
直ぐに父親が病室を飛び出し、廊下から大きな声で医師と看護師を呼んでいる。
(私、生きてる……? オジイ達は……? 今のは……夢?)
そう思っていると右腕に何か違和感を感じた。右腕は動く、そう思ってゆっくり目線まで上げてみると腕に綺麗な五色の腕輪があった。其れは透き通っていて……暖かくて……とても綺麗だった。
(夢じゃなかったんだ……私……生きてる……家族にまた会えたぁ……よかったぁ……)
『私生きてる』その安心感で舞美は、再び睡魔におそわれ深い眠りに落ちていった。
つづく……




