↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
173/324

172話

 秀平のツーベースヒットで俺はホームベースを踏みしめた。

 そうして続いてホームベースを踏んだ二塁ランナーの中村っちとハイタッチを交わす。


 「ナイスバント、ナイスラン!」

 「おぅ! 英雄もナイバッチ!」

 中村っちとお互いの活躍を褒め称えながら、ベンチへと走る。

 それにしても佐和ちゃん、この回出すサイン出すサイン全て決めてきてるな。こればかりはさすがと褒めざるを得ない。


 ベンチに戻ってきた俺たちにベンチの選手たちが温かく迎え入れる。

 ちょうど、相手チームはピッチャー交代をしたところだ。

 エース松尾から、今大会主戦投手の吉岡へと入れ替わる。


 「英雄! ブルペンで投げてる亮輔を呼んで来い! ついでに里田とダウンしとけ」

 ここで佐和ちゃんが俺にそう声をかけた。

 つまり俺はこの回でお役御免か。

 確かに3点入ったし、亮輔でも行けるかもな。


 「了解っす」

 なにより、明日を考えたらこれ以上俺は投げたくない。

 ベンチからブルペンへと向かった。



 「亮輔! 次の回から行くってよ!」

 「え!? 本当ですか!?」

 ブルペンで投げている亮輔に声をかける。

 驚く亮輔。それを見ながら俺はブルペンへと入った。


 「あぁ大マジだ。次の回から頼むわ」

 「あ、はい!」

 「って事で里田! ダウン付き合ってくれー!」

 「はい!」

 という事で、亮輔と入れ替わる形で俺はブルペンに入った。


 ブルペンは応援団のすぐ下に位置する。

 当然フェンス越しから俺への声援が送られる。

 それを耳にしながら、里田にボールを投げ込む。時折、グラウンドの様子を伺った。



 英雄をブルペンに向かわせ、入れ替わる形で亮輔がベンチへとやってきた。

 先に吉岡と最初に戦う哲也に声をかける。


 「哲也、初球だ。初球を思いっきり引っ張れ」

 狙いはサード。

 先ほどの修一のスクイズで転んだりしているし、集中力は切れかかってるはずだ。そこを突く。


 「はい!」

 哲也のバッティングには期待はしていない。

 最悪打てなければ、誉の打席で西岡を代打を送るので、そっちで決めてくれればいい。



 吉岡の投球練習が終わり、試合が再開する。

 応援団は3点を取っても尚、熱く声を揃えた合唱で応援を送る。

 マウンド上の吉岡は二塁ランナーの秀平を一瞥してから、クイックモーションに入り、サイドスローからボールを投じた。

 これを哲也は力強いスイングで、ボールを叩いた。


 打球はサード正面のゴロ。

 一塁側スタンドからは落胆の声が漏れた。

 だがこれで良い。


 サード鳥越は正面の打球をたどたどしい動きから捕球体勢に入り、そして…。


 弾いた。


 一塁側、山田高校応援団からは歓声。三塁側、理大付属高校応援団からは驚きの声。

 慌てて打球を掴んだ鳥越だが、当然、バッターランナーの哲也は一塁ベースを踏み、二塁ランナーの秀平は進塁はせず二塁に留まる。


 判定はエラー。理大付属は今日二個目のエラーだ。

 バッターは九番誉。ここは迷いなく代打を送る。


 「西岡! 頼むぞ!」

 「はい!」

 打席へと向かう西岡、入れ替わる形で誉が戻ってきた。

 誉のまま送りバントも考えたが、ここは積極的に攻め立てる。まだノーアウトだしな。


 ≪山田高校、選手の交代をお知らせします。九番大村君にかわりまして、ピンチヒッター西岡君。ピンチヒッター西岡君≫

 左打席へと入る西岡。公式戦初打席となるわけだが、緊張している様子はない。むしろどこか楽しげにしている。

 あの様子なら大丈夫そうだな。


 西岡は初球から決めた。

 外から内へと入ってくる変化球を打ち抜いたのだ。

 打球は快音を残してライト前へと飛んでいった。

 まさか一球で決めるとは思わなかった。だがこの打球の間に二塁ランナーの秀平が、4点目のランナーとしてホームインした。

 一塁ランナーの哲也も、三塁まで進む。


 一塁ベース上で、西岡は一塁側スタンドとベンチに向けてガッツポーズした。

 このままランナーも任せてもいいが、ここはどんどん攻めていきたい。代走だ。

 田中を走らせて、球審に選手の交代を告げる。

 俺は一塁コーチャーの鉄平と代わるよう、西岡に告げる。

 一塁ランナーが西岡から鉄平へと入れ替わる。



 そしてバッターは一番に返り恭平。

 こいつにはもう何も言わん。適当に打たせてやる。むしろあいつに任せたほうが良い結果を残すしな。

 マウンド上の吉岡は登板早々攻め立てられていることに焦りの色を見せた。

 すでに勢いも、試合の流れも、こっちが掌握している。今更主戦ピッチャーの吉岡を登板させたところで、この勢いは簡単には収まらないだろう。


 相手ベンチを見る。長尾さんが悔しげに表情を歪めていた。

 自身の采配のミスに気づいていることだろう。

 だがもう遅い。この試合はもうこっちのものだ。


 恭平も初球から打ちに行った。

 三者連続初球打ちの打球は、サード正面への強烈なゴロ。

 これをサード鳥越は、トンネルした。


 スタンドが歓声と驚愕の声と悲鳴に満たされる。

 本当お粗末な守備だなあのサード。あそこまで酷いと、どんなにバッティング良くても俺は使わないな。

 打球は無情にもレフト線を転がっていく。レフトが慌てて打球を追っている。

 まず三塁ランナーの哲也がホームインし5点目。


 一塁ランナー鉄平は二塁を蹴り、三塁へ。

 一度レフトを見る。サードのエラーで焦っているのか、打球処理に手間取っている様子。

 それを見たのか、それとも最初から決めていたのか、鉄平は三塁ベースも蹴飛ばした。

 同時にレフトから内野へとボールが投じられた。


 レフトからショート平松にボールが渡り、平松からキャッチャー川崎へとボールが投げられる。

 キャッチャーがキャッチすると同時に、鉄平がホームへと滑り込む。キャッチャーがすぐさま鉄平にミットをタッチする。

 砂埃が打席付近に舞った。


 ホームクロスプレー。

 球審は少し判定に悩んだあと、右手を大きく水平方向に動かした。


 「セーフ!」

 審判の判定に選手たちが歓声をあげた。

 そして一塁側スタンドも歓喜の声をあげる。これで6点目。

 もう長尾さんでもこの勢いは止められないだろう。


 「やったぞぉ!!」

 右こぶしを高々と挙げて、ベンチに走って戻ってくる鉄平。


 あの場面、三塁ベースで止まるか、ホームへ突入するか、一度は悩みそうな場面だった。

 そこで果敢に突入した鉄平。

 足の速さなら耕平や片井には劣るが、走塁の判断力は鉄平のほうが上。あいつを起用して正解だった。


 「お前を代走に起用して正解だな。ナイスラン」

 俺は笑顔で鉄平を迎え入れ、ハイタッチを一つした。

 鉄平は嬉しそうに笑っている。


 「石村! 次のイニングからセカンドだ!」

 「はい!」

 鉄平の代わってセカンドに石村を入れる。

 準決勝、決勝ではコールドがない以上、どんなに点を取っても残り2イニングは守らないといけない。


 6点あれば勝てると思っているのだが、攻撃は終わらない。

 やはりこの勢いは、簡単に収まるものじゃない。

 続く二番耕平君がライト前ヒットを放ち、続く三番龍ヶ崎もレフト前ヒットで出塁した。


 これでノーアウト満塁。

 そして打席には…。


 ≪四番レフト三村大輔君。レフト三村大輔君≫

 球場のボルテージが高まる。

 マウンド上の吉岡は苦い表情を浮かべた。

 満塁というこの場面、バッテリーに敬遠で逃げるという選択肢はない。

 逃げ場はもうない。


 初球、二球目と続けてストライクゾーンから外れる。

 迎えた三球目。今日一番の快音が球場に反響した。



 ブルペンでダウンをしていた俺は、とんでもない金属バットの爆音を耳にして、思わずグラウンドへと視線を向けた。

 瞬間、打球が青空に飛んでいくのが目に見えた。もうまもなく、その打球はライトスタンドまで飛び込んだ。

 大歓声のスタンド。応援団がすぐそばにいるせいでベンチやグラウンドにいる時よりも大きな音となって、ブルペンに流れ込む。

 あんな打球を打つのは、うちには一人しかいない。グラウンドへと目を向ける。ブルペンを守るように建てられたフェンスの向こう、ダイヤモンドを悠々と回る大輔の姿が映った。

 やっと出たか四番。今大会2本目のホームランだ。

 そしてこれで点差は10点。これなら亮輔はおろか、松見を投げさせても勝てるだろう。


 ≪山田高校選手の交代をお知らせします。五番佐倉君に代わりまして、ピンチヒッター松見君。ピンチヒッター松見君≫

 ここで俺に代わって打席に入るのはまさかの松見。

 いや確かに一年の中では、秀平についでバッティングが上手いけどさ。まさか松見を打席に立たせちゃうのか。

 まぁ良い。もうあとは消化するのみだ。佐和ちゃんは俺たちが引退後もチームを指揮しないといけないし、控え選手を使う機会があれば、バンバン使っていくだろうしな。


 「里田ー! 中村先輩の打席で代打だって!」

 「え!? マジ!?」

 まさかの中村っちも代打か。

 どんだけ消化試合になってるな。

 という事で、里田と入れ替わる形で入ってきた田中とキャッチボールをして、俺はダウンを終えるのだった。



 そして試合は最終回を迎えた。

 はい、現在11対0で我が校がリードしてます。八回にも1点を挙げており、現在マウンドには亮輔があがっている。

 すでにツーアウト。

 バッターは三番、ネクストバッターサークルには四番鳥越が控えているが、亮輔は落ち着いたピッチングで三番バッターを抑えた。


 ゲームセット。

 結果として試合は11対0で我が校の圧勝となった。


 ネクストバッターサークルにいた四番鳥越は立ち上がれないようで、選手たちに手を引かれながら列に並んだ。

 ちょうど鳥越が目の前に立ちやがった。顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

 今日二度のエラーを含めて、守備でミスをした上にバッティングでも結果を残せなかった鳥越。彼の今の感情は容易に想像できる。


 最後に一礼を済ませて、俺たちは無事決勝戦へとコマを進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。