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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
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169話

 ≪一回の裏、山田高校の攻撃は、一番ショート嘉村君。ショート嘉村君≫

 「しゃあああああこぉぉぉぉい!」

 打席でアホみたいに叫ぶ恭平。


 マウンド上にはエース松尾があがった。

 病み上がりという事で、相手のブルペンにはすでに主戦ピッチャーを任されていた吉岡が投球練習を始めている。いつ登板になっても大丈夫なようだ。

 最速137キロ、スライダーとカーブを投じる。

 投球練習の様子を見るに、ストレートのスピードは戻ってきているようだ。


 松尾の初球。

 ノーワインドアップモーションから、上手投げでボールを投じる。

 放たれた外へのストレート。それを恭平は打ち抜いた。


 快音が鳴り響くが、打球はセカンド正面のゴロ。

 必死に走る恭平だが、セカンドは上手く打球を処理してワンアウト。


 「あのセカンド、動き良いな」

 ぽつりと誉が呟いた。同じポジションで守っているこいつには分からない何かを感じたようだ。

 今大会3つのエラーをしているセカンドだが、佐和ちゃん曰く演技だと言っていた。

 やはりセカンドは守備が上手いのだろう。

 そうなると、佐和ちゃんの言っていた通り、サードが穴なのか?


 耕平君が左打席へと入る直前、ベンチからのサインを確認する。

 サインはフリー。自由に打てというものだ。

 まぁこの場面で出す作戦なんてたかがしれてるし、好きに打たせたほうが良いだろう。


 耕平君の今日初打席。

 彼が選んだのはセーフティバント。

 綺麗に三塁線へとバントを決める耕平君。上手い!


 サードはまったく考えていなかったのか、慌てて前へと走り出してきた。

 あの動き、どう考えても守備が上手い奴の挙動じゃない!

 行ける…!


 そう思った瞬間、マウンドを駆け下りた松尾が素早く打球を処理してファーストへと投じた。

 耕平君は自慢の脚力を発揮して、必死に一塁ベースを駆け抜けたが、判定はアウト。

 松尾の奴、太もも肉離れしてた割にはフィールディングが上手いな。もう傷は完治したと見るべき?

 なんにせよ。あんなにフィールディングが上手いと、サード前にセーフティバントを決めるのは難しいか。


 三番龍ヶ崎は、ファーストゴロに倒れて三者凡退で終わる。

 松尾のピッチングを見た限り、外中心の配球だ。これは吉岡も一緒だ。

 セカンドに守備が下手な演技をする奴がいて、バッテリーは外中心の配球。サードの耕平君のセーフティバントへの挙動。

 やはり佐和ちゃんの見越したとおり、サードが穴なのは確実だろう。

 かと言って無理に狙えば、それはそれでまずい気がする。


 …まぁ良い。

 俺が頑張って抑えれば問題ない。



 二回の表、打席には四番鳥越が入った。

 守備を度外視して入る四番バッター。外の見極めが甘いという話だが、外のボールを打つのも得意としている。

 今日の理大付属戦で一番警戒すべきバッターとも言える。


 「…ダメだな」

 ボソリと呟いた。

 鳥越は甲子園でもヒットを放っていたし、活躍していたバッターだ。それでも丘城戦で感じた背筋を駆け巡る刺激はない。チャンスの場面で伊良部と対戦した時の昂ぶりはない。

 やはり俺を満たしてくれるのは良ちんしかいねーな。


 初球、左腕を振るいボールを投じた。

 アウトコースへのストレート。それを…鳥越は打ち抜いた。


 「あれ?」

 打たれた瞬間、そんな情けない声をあげていた。

 打球は一二塁間を抜いてライト前へと転がっていく。

 ライト前ヒット。いきなりヒットを許してしまった。


 「英雄! どんまい!」

 哲也の声が聞こえた。

 うーん、今のはちょっと緊張感が無いまま投げてしまった。


 「…よし」

 返球を受け取り、そうつぶやいて気持ちをリセットする。

 バッターは五番土井。俺は一つ長い溜息をついて、ピッチングプレートを踏んだ。


 五番土井には徹底的に低めにボールを投じる。

 高めに浮きがちなので、しっかりとリリースを気にして投じる。

 そうしてツーストライクと追い込んでからの三球目、スライダーで空振りを奪い三振。

 まずはワンアウト。



 次は六番の赤沢。

 一年生ながらスタメンを任され、今大会は打撃好調。

 今勢いのある一年生。

 やはりまだまだ幼さを残しているし、体格も他の選手に比べても小さい。それでもスタメンを任されるということはそれ相応の力を持っているということ。

 ならば、こっちは全力で挑むのみ。


 初球、二球目と続けてインコースにストレートを投じる。

 どちらも見送ってツーストライク。迎えた三球目、俺と哲也が選んだのはアウトローいっぱいへのストレート。

 左腕を投じてボールを投げ放つ。真っ直ぐに哲也のミットに収まった。


 「ストライィィィク!」

 球審の右手が上がる。打席上の赤沢は唖然とした表情を浮かべている。

 まるで今まで対戦してきたピッチャーとはレベルが違うと言わんばかりの呆気に取られた表情だ。

 良いぞ一年坊主。そういう表情は好きだ。こう優越感に浸れる顔だ。


 これでツーアウト。バッターは七番キャッチャー川崎。

 ここからの三人は、俺のピッチングなら余裕で抑えられる。

 あとは油断して失投しないよう。しっかりと集中してピッチングする。


 川崎をショートゴロに抑えてスリーアウト。

 四番鳥越にヒットは許したが、その後はしっかりと抑え切れた。

 まだ若干高めに浮くが、それでも大事な場面でしっかりと低めに投じられている。今日の俺は調子がいいようだ。



 二回の裏、この回の我が校は四番大輔から始まる。

 今日の試合初めてのエースと四番の対決。だが相手バッテリーは勝負する気はないらしい。

 四球続けてストライクゾーンからボール外れフォアボールで出塁。

 ノーアウト一塁。相手バッテリーは佐和ちゃんの試合前の予測通り大輔との勝負を避けるらしい。


 そうなると俺の打棒に期待されるわけであって、相手バッテリーは俺なら抑えられると考えているということだ。


 「なめやがって」

 確かに大輔とバッティングで勝負して勝てる自信はないが、それでもそこらのバッターになら勝つ自信はある。

 上等だこの野郎。大輔と勝負を避けたことを後悔させてやる。


 ≪五番ピッチャー佐倉君。ピッチャー佐倉君≫

 アナウンスを聞きながら左打席へと入る。

 そうして足場を固めてから、ホームベースをバットを軽く小突きながら、ピッチャーを睨む。マウンド上の松尾も俺を睨みつけているようだ。

 一度左肩をバットの根元でポンッと優しく叩いてから、バットを構える。


 マウンド上の松尾はサインを確認すると、すぐさま投球モーションへと入った。

 クイックモーションから放たれたボールはストレート。インコースへと決まった。

 ストレートの球威はあるが、コースが甘い。これなら行ける。


 二球目、今度は外に外れるカーブ。これでワンボールワンストライク。

 相手バッテリーは、サードへ打球を打たせない配球をしているとするならば、左バッターを抑える場合、ストライクを狙ってくるのはインコースぐらいか。


 三球目、相手バッテリーが選んだのはインコースへのストレート。

 来た!

 前足を踏みこみ、力いっぱいのパワーで打ち抜いた。

 打球は低いライナーとなり、ノーバウンドでマウンド越え、一度バウンドしてから二遊間へ勢いよく飛んでいく。


 抜ける! そう思った時だった。

 セカンドの選手が飛びついてキャッチしたのだ。

 横っ飛びでキャッチしたセカンドは、倒れたままショートにグラブトスし、それを受け取ったショートが二塁ベースを踏み、一塁へと投じる。そうしてファーストがボールを受け取りアウト。

 ゲッツー成立。ダブルプレー。

 相手スタンドは大いに沸き、バックネット裏のスタンドからも拍手と歓声が起きた。

 歓声の中心にいるセカンドの選手は、ユニフォームについた土を叩き、ショートの選手とグラブタッチをしている。


 「おいおい、守備悪いって話じゃなかったのか?」

 ぽつりと呟いた。

 これで確信した。あのセカンドはめちゃクソ守備が上手い。そしてそれを隠して守備が悪い風を演じていた。とんだ役者だ。

 そしてそれに騙された学校は敗れてきたわけだ。


 だがこれで、狙うのはサードとなった。

 セカンドもそうだが、ショートの選手も守備が上手いし、容易に打球は外野に越えないだろう。

 大輔のバッティングが封じられている以上、俺と龍ヶ崎を中心に打っていかないとマズイ。


 続く六番中村っちが空振り三振に終わる。

 こりゃ最悪投手戦になるかもなぁ…。そんな不安を胸に抱きながら、俺はマウンドへと向かった。

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