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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
145/324

144話

 グラウンド整備も終え、球場から出ると、我が校の応援団が盛大な拍手と歓声で迎える。

 ここで哲也の号令のもと、一列に整列し、頭を下げて一斉に感謝の言葉を叫ぶ。


 「じゃあ反省会はバスの中でやるぞぉ、10分後に出発するから、トイレ行くなり、友人と話すなり、彼女と話すなりしてろ」

 そう佐和ちゃんは言うと、佐伯っちと共に応援に来た教師達のもとへと向かっていった。


 「英雄、ナイピー!」

 「おぅ沙希」

 ここぞとばかりに笑顔の沙希がやってきた。

 という事で挨拶代わりのハイタッチをする。


 「哲也もお疲れさま」

 「ありがとう。沙希のほうこそ応援お疲れさま」

 哲也と沙希がねぎらいあっている。


 「それにしても三者三振なんて、さすが英雄ね」

 「まぁな、ってもまだまだかなぁ」

 沙希と会話をしながら、後頭部をポリポリと掻く。

 今日のピッチング内容は良いが、ボール自体は良くなかった。


 「あれ? 英雄が謙虚なんて珍しいわね」

 「ストレートは高めに行ってたし、ボール球も振ってくれたから助かったけどな。まだ調整不足だったな」

 なんて会話をしつつ、ちょうどいいタイミングで二人と別れ、今度は別の友人と話す。


 「あ! 英雄!」

 っで、百合と愉快な仲間達が到来。

 そこには鵡川も含まれる。


 「おぅお疲れさん」

 「英雄のほうこそお疲れ! あと初戦突破おめでとう!」

 「どういたしまして、まぁ一回しか出てないけどな」

 控えスタートにした佐和ちゃん、許さないぞ。


 「でも勝ったじゃん! 甲子園いけそうだね!」

 「まぁな」

 相変わらず百合はテンションが高い。

 まぁ彼女らしさとも言えるのだろうな。

 鵡川もそばにいるし、ここはお守りの話題は出さないでおこう。


 「うん?」

 ふと鵡川と百合の背後で千春と恭平を目撃した。

 なにしてるんだあいつら…。


 「悪い」

 一言彼女たちに断りを入れてから、俺は二人のもとへと向かう。



 「今日は千春ちゃんが応援してくれたから、めちゃくちゃ打てたよ!」

 「あ、そうですか。いや別にそんな事言われても嬉しくないですけど…まぁありがとうございます」

 二人のそばで盗み聞きする俺。

 恭平は満面の笑み、千春は照れくさそうにしている。

 なんだあいつら…。ってか千春の野郎、先にお兄ちゃんの俺に労いの言葉を送ったらどうなんだ? オォ!?


 「次も絶対に勝ちたいから、千春ちゃん応援に来てよ! 千春ちゃんが応援してくれるなら、俺はどんなボールでも打てる気がするから!」

 「またそういうこと言って…別に嘉村先輩の為に応援に行くわけじゃないんで、…だけど、まぁ応援には行きますけど」

 だから千春、なんでお前は恭平にそういうこと言うんだ。

 そこは「はぁ? キモッ!」って言いながら平手打ちしてくれ。ってか千春、お前も恭平に落ちてるじゃねぇか。


 …あぁクソ。これだったら盗み聞きするんじゃなかった。

 なんか一気にテンション落ちたわ。



 3分前になり、バスへと向かう。

 そして予定より1分早くバスは出発した。


 「まずは初戦勝利だな。去年の雪辱は晴らせた。っでだ、次の相手は今さっき試合が終わった」

 佐和ちゃんの言葉に、バスの中は騒然とする。

 明星学院と龍獄の勝者。どっちが勝ったのだろうか?


 「1対0で龍獄だ。次の相手は龍獄高校に決まった」

 龍獄か。意外だ。

 龍獄って対して強くない印象だったからな。去年の秋、今年の春、どちらも西部地区の予選で敗退してるし。

 それにしてもまた1対0か。打線は貧弱だが、好投手がいるようだな。


 「学校に帰ったら、すぐさまグラウンドで、今日の試合での守備の反省をゲームノック形式でやる。バッティングもそうだな、恭平がゲッツーになったしやるか」

 「いやいや何言ってるんですか! 俺、今日3安打の固め打ちですよ?」

 などと佐和ちゃんは話す。それにいちゃもんをつける恭平。

 だが、佐和ちゃんは無視して話しを続けている。


 「英雄はブルペンでバッターを付けての調整だ。今日ストレートが高めに浮いてたろ」

 やはり佐和ちゃんも気付いていたか。

 まぁ気付いてなくても、自分で申告してたしな。


 「なぁ哲也」

 「うん? どうしたの英雄?」

 俺は隣で座り、岡倉が書いたスコアブックを読んでいた哲也に声をかけた。


 「今日俺が投げたストレートのうち、ボールゾーンのコースになったのは何球だ?」

 「あぁちょっと待って…」

 と哲也は言ってから、虚空を見つめて考える。

 しばらしくして、こっちを見て話し始めた。


 「今日投げた11球のうち、ストレートは7球で、ボールのコースだったのが4球。最初の先頭バッターに投げた3球以外は、全てボールコースだったね。まぁ今日は相手が高めにも手を出してくれたからね」

 などと哲也は説明する。

 やっぱりか、俺はため息をついて、車窓からの景色を見る。

 やはり、まだまだ調整不足だったか。まぁいいさ、次の龍獄戦にしっかりと低めにも決まるように調整すれば良いだけだし。

 結果だけ見れば、龍獄の打線は貧弱だ。多少調整が間に合わなくても十分抑えられるだろう。



 午後10時。普段なら消灯の時刻だが、今日は熱闘高校野球を部員たちと見ることに。

 ちなみに希望者だけなので、大輔や中村っちなんかはすでに爆睡している。


 熱闘高校野球の本日の話題は我が山田高校。

 案の定、この前撮影された俺が映った。映像越しでも凄く緊張しているのが伝わる。恥ずかしい姿だ。

 ってか恭平が腹抱えて笑ってる。マジで泣きたい。


 ≪その佐倉君は、今日の試合で活躍したのでしょうか!? まずは山田高校対城東高校の試合をダイジェストでお送りします≫

 司会の中岡アナウンサーは言うと、画面は試合へと映る。


 ≪初回、四番三村大輔君の満塁ホームランで先制した山田高校は、その後も着々と点を重ね、六回までに10点を取る猛攻≫

 映像はダイジェストで打ちまくる山田高校が映る。

 初回の大輔のホームランを映像で見たが、やはり高校生が打つような打球じゃないな。


 ≪さらに攻め立て二死一三塁のチャンスを迎えます。ここで七番ピッチャーの榛名君に代わって代打で佐倉君が登場します≫

 打席へと入る俺の映像が入る。

 やべぇ、真剣な俺の表情イケメンすぎんだろう!


 「相変わらず英雄って、試合してるときはイケメンだよね」

 哲也がボソッと呟いた。

 前々から哲也は「英雄は野球をしてる時はイケメン」って言ってたな。

 ふふっ、野郎にこんな事言われたくなかったぜ。


  ≪勝負が決まったのは、初球でした≫

 中岡さんの声がフェードアウトし、放送時の実況の声がフェードインした。

 俺のバットから快音が鳴り響く。カメラは打球を追うようにしていき、そして打球がライトを越して、芝生に落ちる。


 ≪これは長打コースになります!! 三塁ランナー龍ヶ崎は楽々ホームイン! 1点追加! さらに一塁ランナーの三村大輔も三塁ベースを蹴飛ばしたぁ!!! 悠々とホームイン! 2点目が追加されます!! 打った佐倉は三塁ベースにスライディング!!! セーフ!! 代打の佐倉はライトへのスリーベースヒット!! 山田高校2点追加し、12対0!! 大きく点差を引き離します!!!≫

 実況の人の熱い実況を聞く。

 おいおい、また顔をアップすんなよ。惚れちゃう女子が増えちゃうだろう?


 「イケメン過ぎてうぜぇ」

 恭平がなんか言ってる。

 俺はお前が千春とイチャイチャしてるのがうぜぇ。ってかあとで関節技決めてやる。覚悟しとけよ。


 ≪その裏、マウンドには佐倉君。佐倉君は落ち着いた様子で、三者連続三振でピシャリと抑え、山田高校三回戦進出です!≫

 中岡さんの説明の後、今日の試合の試合結果が映される。

 下のほうに「山田:三村大輔 1号」と書かれていた。

 これが大輔の夏の大会初ホームランか。大輔はこの夏、何本ホームラン打つんだろうか?


 ≪では、続いて三回戦で山田高校と戦う事となる、明星学院と龍獄高校の試合をダイジェストでお送りします!≫

 司会の中岡さんが笑顔で言うと、続いては美原(みはら)町営球場で行われた試合のダイジェストが流れる。


 ≪序盤、明星学院のエース高橋君と、龍獄のエース加瀬君の投げあいとなります≫

 画面に映し出される両エースの顔。アップされる龍獄のエースの顔を見て、首をかしげた。


 「なぁ哲也、あいつって、久遠(くおん)だよな?」

 「うん。久遠って確か龍獄に進学してたよね?」

 やはり久遠か。でもあいつ、中学時代は外野手だったよな?

 加瀬久遠(かせくおん)は、中学時代は我が校の二番センターとして活躍していた。

 足の速さと肩の強さを武器に、広い守備範囲と、バント技術と右打ちするバッティング技術は部内1だった男だ。


 「でも、あいつピッチャーやってないよな?」

 「うん。まさか高校になってからピッチャーとか?」

 「う~ん、分からん」

 あいつ、ピッチャー経験なかったよな?

 そうなるとやっぱり高校に入ってからピッチャーになったのか? うーん、さっぱりだ。


 ≪試合が動いたのは四回。龍獄高校はツーアウトながら二塁にランナーを置く場面で、バッターは四番の加瀬君。カウントはツーボールツーストライクからの5球目でした≫

 画面の中で向こうから鳴り響く金属バットの快音と共に打球は、一二塁間をライナーで抜くライト前ヒットとなる。

 歓声が画面の向こうから漏れた。


 ≪このヒットで二塁ランナーがホームイン! 先制した龍獄は、この後も2度のピンチを迎えるも無失点で切り抜け、1対0で勝利! エース加瀬君はこれで18イニング無失点です!≫

 また1対0の僅差で勝利。

 龍獄の戦い方は良く分かった。エースで四番の加瀬が投打の軸で、他の選手は守備を鍛える。

 このチームスタイル…。


 「中学時代の僕らと同じタイプのチーム」

 隣で哲也が呟いた。俺も今それを思っていた所だ。


 「おもしれぇ」

 思わず俺も呟いていた。

 次の相手は、中学時代の我が校と同じチームスタイルか。

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