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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
5章 春眠、怪物は目覚める
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128話

 土曜日、明日は鵡川と動物園に行く予定があるが、今日は練習試合だ。

 我が山田高校は、兵庫県の赤穂市内にある球場に遠征し、兵庫の野球名門校である青陽大姫路(せいようだいひめじ)と真光学園(まさみつがくえん)とのダブルヘッダーをおこなっていた。


 第一試合の青陽大姫路は、春の近畿大会でベスト4入りした高校だ。

 過去に何度も甲子園に出場しており、激戦区兵庫でも屈指の強豪校である事は間違いない。


 そんな相手の先発を任されたのは亮輔。

 結果は七回までに4失点。完璧な亮輔の力負けだ。

 さらに八回にリリーフした松見は、3個の四球と4本のヒットで5失点。

 九回に登板した田中に至っては、1個の四球だったが、7本のヒットで7失点。

 打線は大輔のホームランのみで、16対1と言う大差を食らう。大敗とはまさにこの事だろう。


 試合終了後、反省会では佐和ちゃんの厳しい言葉が飛び交う。


 「投手陣は英雄以外、全国には通用していない。だが、今年の夏までには、お前らも全国レベルである程度投げれなければ、甲子園では勝てない」

 真剣な面持ちで語る佐和ちゃん。

 その表情から投手陣が表情を引き締める。


 「特に亮輔。お前は二年唯一のピッチャーだ。夏の大会後、英雄からエースナンバーを受け継ぐ可能性が一番高い。そんなお前が、不甲斐ないピッチングをしてどうする?」

 厳しい言葉が亮輔へと投げられる。

 そう、俺達三年生は夏の大会で引退するが、亮輔や松見など一二年生の高校野球はまだまだ続く。


 「松見と田中はまだまだ全国クラスの相手には任せられない。だが夏の大会を勝ち進めば、英雄を休ませる日は必要にない。亮輔、お前が頑張らなきゃ優勝は無理だ。もっとピッチングに集中しろ」

 「はい!」

 亮輔は震えた声を張り上げて返事を返す。

 亮輔の重圧は凄まじいだろう。俺の二番手であり、新チームではエース候補、こいつならなんとか乗り越えられるだろうが、彼にのしかかる重圧は大きいだろうな。



 第二試合は真光学園だ。

 今年の選抜甲子園でベスト4になったチームだ。エースの福岡(ふくおか)は選抜ベスト4に導いた立役者。その上、打線も安定しており、準決勝で隆誠大平安に敗れこそしたが、優勝候補の一角にもあげられていたほどだ。

 そんなチームだ。さすがの俺も2点取られている。

 一方、打線の方は大輔がおかしい。4打数2安打1本塁打2打点の活躍。


 一応言っておくが、相手の先発ピッチャーは、先ほど説明した福岡。選抜で二度の二桁奪三振をマークした、真光学園のエース。

 球速こそ140に満たないが、変化球の切れが高く、プロからも注目されている好投手だ。そんな相手から1本のホームランを放っている。

 前々から大輔は好投手ほどバッティング調子良くなっていたが、今日のことで「投手が強ければ強いほど打つ」という図式が成り立っちまったな。


 だが大輔は別にホームランを狙ってるつもりはなく、むしろ出塁しようとヒットを狙ってたら、打球がスタンドまで行っちゃたみたいな感じらしい。

 常人には到底理解の及ばない考えだ。マジモンの化けもんとはまさにこの事か。

 そんな感じでホームランに固執していないおかげで、大輔にスランプと言うものは存在しない。打てなかった日があっても、翌日にはケロッとしている。むしろ試合終了してもケロッとしている。

 「俺が打てなくても周りが打つから大丈夫だろ」とか言って笑ってみせたりする。

 無欲というかなんというか、本当に凄い。それしか出てこない。



 さて試合は同点のまま九回に突入する。

 先頭バッターの八番哲也は早速三振。

 続くバッターは九番石村に代わり、代打の西岡が打席へと入る。


 マウンド上の福岡は九回投げても疲れを感じさせないピッチングを続ける。さすがは選抜ベスト4ピッチャーと言った所か。

 やはり他の学校のピッチャーと比べても安定感が違う。あぁいうピッチャーが全国大会でも好投するのだろう。

 そんな福岡が投じた初球、それを西岡が打ち抜いた。


 快音が鳴り響き、打球は強烈なゴロとなって二遊間を転がり抜けていく。

 いきなりのヒットに思わずベンチからは驚きの声が上がり、続いて歓声がわいた。

 西岡の奴、だいぶバッティングが上手くなってきたな。まぁ練習でも守備練習よりも打撃練習でめっちゃ集中しているからだろうけど、あのバッティングなら、十分スタメンでも行ける。

 だが守備が悪すぎる。まだまだ粗が目立つし、何よりあいつが守るショートには恭平がある。

 西岡がスタメンで活躍するのは、俺達三年生が引退してからだろう。


 ともあれ、代打の西岡がヒットで出塁した。

 タイムがかかり代走。西岡と入れ替わる形で鉄平が一塁ランナーとなる。

 鉄平は足の速さでは、耕平君や片井に負けるが、走塁技術の高さなら引けを取らない。こういう大事な場面での代走起用は夏の大会でも見られるだろうな。


 打席には一番の恭平が入る。


 「しゃあ! おらぁぁぁ!」

 バットをピッチャーに向けながら雄叫びをあげてバットを構える恭平。

 今日は4打数2安打。変化球を主体としたピッチャーが苦手な恭平だが、今日はいい感じに打てている。一度勢いに乗せれば恭平もかなり頼りになるバッターになる。


 マウンド上の福岡の表情にやっと不安が現れた。

 ランナーを置いて恭平を迎えたくはなかったようだな。


 初球は変化球で外す福岡。恭平の初球打ちを警戒してのものだろう。

 続く二球目、これを恭平は捉えた。


 ライト前へと転がっていくゴロ。

 相変わらず積極的すぎるバッティングだが、結果を残せているから文句は言えない。

 転がっていく打球の勢い的に、一塁ランナーは二塁で止まるか、三塁に進むかジャッジに悩むところだが、鉄平は迷わず二塁ベースを蹴飛ばした。

 ライトからの矢のような送球が三塁へと向かう。だが紙一重、鉄平の足が勝(まさ)った。

 三塁ベースでのクロスプレーの末、鉄平はセーフ。

 鉄平の奴、よく迷わず二塁を蹴飛ばしたな。あそこで一瞬でもためらいがあったら、間違いなくアウトになっていただろう。暴走気味ではあったが結果オーライだ。


 これで一死一三塁のチャンス。

 そして迎えるは二番の耕平君。今日はノーヒット。

 だがボールには当てられている。そしてゴロにすれば、十分得点のチャンスは作れる。


 初球、二球目と見逃しワンボールワンストライクからの三球目、低めの変化球を打ち抜いた。

 打球はセカンド正面のゴロ。鉄平は耕平君が打つなりホームへと突進する。

 セカンドは打球を掴むなり、二塁へと送球。ゲッツー狙い。しめた! 耕平君の足なら…!


 耕平君は超加速したかのようにスピードを加速させていく。

 まず二塁はアウト。続いて二塁に入ったショートからファーストへの送球。

 耕平君はファーストがボールがキャッチするのとほぼ同時に、一塁ベースを踏んで駆け抜けた。

 判定は…。


 「セーフ!」

 一塁審判の声が球場に響く。

 ゲッツー崩れの間に鉄平は悠々とホームインしており、山田高校ベンチの選手たちは歓声をあげた。

 3対2。ついに勝ち越した。



 そしてその裏、俺が無安打で抑え込みゲームセット。

 3対2で接戦をものにした。

 のだが、試合後の佐和ちゃんの表情は優れない。


 「喜ぶな。強豪校相手には常に2点ビハインドで望めって言ってるだろう?」

 褒めるような事はせず、真剣な顔を浮かべて、俺らに問いかけた。

 広島東商業との練習試合以来、全国区の強豪校との対戦も増え、佐和ちゃんは、今の言葉を毎試合言っている。

 …つまり、今日の試合も実質は3対4で負けているという事だ。


 「本番は負けたらそこで終わりだ。甲子園優勝まで、多くて11連勝しないといけない。11回の対戦相手に、強い弱いは関係無い。常に俺たちの格上と思い挑め。全試合2点ビハインドで戦う気持ちで行け。じゃなきゃ甲子園に行っても勝ち上がれないぞ」

 「はい!!」

 佐和ちゃんの言葉に一同が力強く返事をする。

 県大会優勝が俺たちの目標じゃない。甲子園優勝が俺たちの目標だ。


 夏の大会で負けたら、俺たちの高校野球は終わりなんだ。

 今年の夏が終わる時に俺は笑ってるのか、それとも悔しがってるのか。

 その答えは数ヵ月後の夏だけが知ってるんだろう。

 今は深く考えず、目先のことに集中するしかない。


 という事で、明日の鵡川との動物園を楽しもう!

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