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鬼剣のゼン  作者: 黒角
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1話

 オルフェット王国の王都オルフェ。オルフェット王国の中心都市にして最大の人口を誇る巨大都市。都市内部は東区、西区、南区、北区に分かれ、更にそこから細分化されている。東区は商人が多く、王国最大手のトータス商会が居を構えており。また教育機関も集中している。西区は主に工房が多く、王都の製品の約七割は西区で生産されていると言われている。南区はハンターや魔術師が多く、また娯楽施設も充実していて歓楽街もある。最後に北区は王侯貴族の住宅が立ち並び、北区の中心には王城が聳え立っている。さらに王国で多くの信仰を集めているラクターン教の本殿がある。

 ゼンが今歩いているのは当然のように南区だった。周囲を見れば武装をした人間が多い。重そうなハンマーを持つ者もいれば、大弓を背負っている人間もいて、とにかく多種多様だった。

 ゼンが目指すのはハンターギルド。ハンターならばどんな人間でも所属している組織だ。ハンターに依頼を斡旋する仲介業者であり、気質の荒い者の多いハンターを取り締まり一定の秩序を保っている。

 王都オルフェのハンターギルドは地方都市の支部なんかと比べると、少しばかり綺麗だった。建物は重厚な石造りで、清潔感がある。

 ゼンが王都に来たのはこれで二回目だった。以前来た時は四年も昔で、まだ十代の頃だ。

 今も昔も変わらず切った張ったの毎日を繰り返している。あの頃の自分と対峙したなら、今なら五秒と言わず切り伏せてしまうだろう。四年の歳月はゼンを更なる高みに押し上げていた。

 扉を開けると、視線がゼンに向かった。ハンターたちの値踏みするような視線だ。普段見ない奴が来たから見極めようと思っているのだろうとゼンは思った。どの支部でも似たようなものであるため、気にはならない。ゼンは構わずそのまま受付へと向かった。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」

「今日から拠点をここに移したため、拠点変更の申請をしに来た」

「承りました、お名前をどうぞ」


 受付嬢はそう言うと紙とペンを取り出し先を促した。


「ゼン・ナハトだ」


 ゼンが名前を告げると受付嬢は一瞬目が大きくなったが、すぐに「はい、確認しました」と言って手続きを完了させ、今日依頼を受けるかどうか尋ねてきた。


「いや、今日は休む」

「かしこまりました」


 受付嬢とのやり取りはスムーズに終わったが、周りのハンターはどうやらそうはいかなかったようで、


「おい、ゼン・ナハトっていやぁ、あの……」

「あれが《鬼剣》か……」


 と、誰もかれもゼンを見ては噂と実物との照合を繰り返しているようだった。


 (ふむ)


 随分と名が知れたものだ、とゼンは内心思う。方々で魔物や賞金首を狩り続けていく内に、誰がつけたのかは知らないが《鬼剣》という通り名が広まっていった。

 通り名、または二つ名と言ったものは特に目立つ輩や腕っ節の強い輩につき、一部例外を除けば通り名がつけば一流の仲間入りだと言われている。ゆえに通り名があるだけで随分と箔がつき、好待遇で貴族に召し抱えられることもままある。更には通り名持ち専用ホテルだとかがあるらしいが、そこまでいくとかえって馬鹿馬鹿しく思える。

 こうやって騒がれるのは舐められるよりはいいとは思うものの、こういった扱いを受けるのはどうにも苦手だとゼンは思う。


 (あったらあったで面倒なものだ)


 なんとなく居心地の悪くなったゼンは用事もないため、さっさと今夜の宿を探そうと出口の方へと歩いて行ったが、扉に手をかけようとしたところで扉が開いた。

 入ってきたのは灰色の髪の厳つい男だった。顎には一筋の刀傷が見える。装備は軽装だが質がよく、使い込まれているのがわかる。

 その男は扉の前にゼンが立っていることに気付くと、驚いたような顔をして声をかけてきた。


「お前っ、ゼンじゃねえかっ!」

「ああ、久しぶりだな、ジェイク」

「ああ、いつ戻ってきたんだ?」

「今日だ」


 その男はゼンの知り合いで、ジェイクという男だった。ゼンが四年前王都に来た時、勝負を挑まれて完膚なきまで叩きのめしたことをきっかけに知り合った男だった。

 勝負のきっかけは果てしなくどうでもいいものだった。確か、若いくせに俺より目つきが鋭いのが気に食わねえとか言っていたことをゼンは思い出した。


「依頼の途中か?」

「いや、拠点変更の申請をしてきたところだ」

「そうか! 拠点を移したか! そりゃあよかった!」

「……そうか」


 何がよかったのかゼンにはわからなかったが、水を差すことではないだろうと思って適当に相槌を打った。


「お? その様子じゃ知らないらしいな」

「何だ?」


 ジェイクはさっきまで緩んでいた顔を引き締めた。どうやら真面目な話であるようだった。先程より低い声音でジェイクは言った。


「ここ最近、魔物が増えててな……今はまだ対処できちゃいるがこのまま増えていくとどうなるかわからねえ。 騎士団の方でも定期的に間引いてるらしいがそれでも減らねえ。 ……下手すりゃ『波』が来る」

「そこまでか……」


 『波』。それは大量発生した魔物が都市を襲撃する事象を指し、絶え間ない魔物の猛攻と圧倒的な数からそう呼ばれている。

 弱い魔物でも数が揃えば脅威となる。これに強い魔物も加われば、それは大都市さえも滅ぼしかねない脅威となる。古くから『波』によって壊滅した都市の話は枚挙にいとまがなく、どんな辺境の地でも語り継がれている。


「まあ今のところ問題はないがな。 それに『波』だって最悪の場合の話だ、このまま終息する可能性の方が圧倒的に高い」


 ジェイクは引き締まっていた厳つい顔を崩してニッと口角を上げた。


「まあだから、今は強い奴は大歓迎だってわけだ、よろしく頼むぜ!」


 ジェイクは大きく口を開けて笑い、ゼンの背中をバシバシと叩いた。ほとんど遠慮のない叩き方である。


「ジェイクから頼まれる筋合いはないが、気には留めておこう」


 ゼンは背中に響く衝撃を無視しつつそう言うと、ジェイクはあれっといった表情をした。明らかに戸惑っていた。

 どうしてこんな顔をするのか不思議に思っていると、ジェイクは困惑した顔のままゼンに確かめるように訊いてきた。


「俺、お前に言ってなかったか? 俺はここの支部の副ギルド長だ」

「なに……?」


 (こんな男が副ギルド長だと……)


 ゼンはジェイクと出会った時のことを思い出す。あれは初めて王都支部にやってきた時だった。扉を開け今日と同じように拠点の変更を申請した後、依頼を見ようとすると、一人の男、つまりジェイクが声をかけてきたのだった。そして先述のように若いくせに目つきが鋭いのが気に食わないとなどいちゃもんをつけてきた。思えばあれは適当な理由をつけて戦ってみたかっただけだろうと思える。ゼンは流されるままにそれを了承し勝負を受けたのだ。

 しかしジェイクは自分が負けるとは思っていなかったのか、戦いが進んでいく中で次第に焦っていき、それを見逃すこともなくゼンは一気に片をつけたのだった。

 ゼンはその時、負けそうになって焦るぐらいなら始めから勝負を挑んでくるなと呆れたものだったが、まさか十代の青年に負けるとは思わなかったのかもしれない。しかしその時からジェイクは副ギルド長だったのだろうか。


「ほら、いつかの飲みの席で話しただろう?」

「俺は酒を飲まないが」

「……そういやそうだったな」


 どうやらその時から副ギルド長だったようだ。ただ、酒の席で言っていたつもりになっていたようで、ゼンは酒を嗜まないために聞いたことがなかった。

 しかし本人がいないのに言ったつもりになると言うのは相当酔っていたのか、それともいないのに気が付かないほど周りが見えていなかったのか。ゼンとしては時間の経過で忘れているものだと思いたい。


「それにしても……また強くなったようだな」


 ジェイクはじろじろとゼンを見ながら言った。


「それに、その剣も凄えな」


 そしてジェイクの目線はゼンの背負っている大剣に向けられる。

 その眼はギラギラと獰猛に輝いていて、まるで獲物を見つけた野獣のようだ。見れば口元にも引き裂いたような笑みが浮かべられている。


「どうだ、久しぶりにやろうじゃねえか?」


 ジェイクはの瞳には既に闘志の炎が燃え盛っていた。


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