序章
早朝、人が行き交う街の中心部から少し外れた場所に二人の男がいた。一人は体の線のわかりづらい、白のゆったりとした服を着ていて、更にその上から一枚灰色の服を羽織っている背の高い男だった。頭はスカーフに包まれていて、浅黒い肌より遥かに濃い、真っ黒い髪が覗いている。そして何より特徴的なのは背中に背負っている大剣だった。男の背丈ほどもある剣は肩に斜めにかけられているこれまた大きな鞘に納められている。
もう一人の男は大剣を背負った男に比べれば随分小柄で、灰色の髭をたっぷりと蓄えているせいか年を食っているように見える。だが、筋骨隆々の肉体は男に並々ならぬものを感じさせる。男は鍛冶を得意とするドワーフだった。
「もう行くのか?」
「ああ」
大剣を背負った男、ゼン・ナハトはドワーフの問いに端的に返す。声は平坦で言ってしまえば不愛想だった。
しかしドワーフの男、ドーバンはそれを気にすることなく「そうか」と呟いた。
ゼンは今いる街、鍛冶の街ゴルゴネットを拠点としているハンターだった。一年前にこの街に流れ着き、世界に蔓延る魔物を狩っていた。しかし今日、短くない間住んでいたこの街を去ろうとしている。
「王都か……まあ、仕事がなくなることはないだろうが」
「そうだな」
目指すところはオルフェット王国の王都オルフェ。人口三百万人ともいわれる大都市だ。各都市から多種多様なもの、人が集まって来る王国一賑やかな街だった。
「いるといいな、付与魔術師」
ドーバンが言うとゼンは当然といったふうに答える。
「いるだろう、あとは探すだけだ」
「まあお前がそう言うならワシは何も言わねえが」
ドーバンはそう言って肩をすくめた。
ゼンが王都に行くのは背中に背負っている大剣に付与魔術をかけてもらうためだった。しかし付与魔術師というのはなかなかいるものではない。それも腕の立つ付与魔術師となればなおさらだ。しかし、多くの人間が集まる王都オルフェ。ここにいなければもう他国に赴くしかない。
「もしその剣が折れたらまた来い」
「ああ、そうさせてもらう」
別れの挨拶はさっぱりとしたものだった。ゼンは踵を返し、にわかに活気づく街中を縫うように歩いていく。煙突からは煙が立ち上り、焼けた鉄を打つ音があちらこちらで響いている。ゼンには聞きなれた、しかし今日で別れとなる音だった。ゼンはそう思うとこの街での日々が思い返されたが、しかし寂しいのかどうかはわからなかった。
歩くゼンの背中には多くの視線が向けられた。ゼンの背丈が二メートル弱だということを考えれば、それほどの大男は目立つため目を向けられる理由にはなる。しかし、彼等の多くはゼンのことを知っていた。
浅黒い肌。鍛え上げられた巨躯にそれを包む砂漠の地方特有の衣装。精悍な顔立ちに鋭い眼差し。極めつけは背中に背負った大剣。
ハンター、ゼン・ナハト。通り名は《鬼剣》。鬼のように強い男だった。




