↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬほどしょうもない特殊能力  作者: 雨宮 弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/24

第3話「一番早いレジが分かる女」

高橋真理子は、スーパーに入ると少しだけ強い。


レジに並ぶ直前、一番早く会計を終えられる列が分かる。


勘ではない。


確信として分かる。


左から三番目。


今日はそこだった。


「こっち」


真理子は買い物かごを持った夫の健太を引っ張った。


「また?」


「三番」


「二番の方が短いけど」


「三番」


真理子は迷わない。


二番レジは三人。三番レジは五人。


だが結果は見えている。


前の客がカードを落とす。店員がバーコードを二度読みする。一見遅そうな老人が驚くほど素早く小銭を出す。


そういう未来すべてを説明できるわけではない。


ただ、一番早い列だけが分かる。


「これ、ほんとにすごいよな」


健太が感心している。


「でしょう」


「でも人生で一番使える場所がスーパーっていうのがな」


「十分でしょ」


真理子はこの能力をかなり気に入っていた。


世の中には時間泥棒が多い。


信号待ち。エレベーター。病院の受付。役所の窓口。


その中で週に何度も発生するレジ待ちを最適化できるのは、十分に価値がある。


少なくとも本人はそう信じている。


ところが、その日。


列へ入った瞬間、真理子の感覚が消えた。


能力は並ぶ直前の一回しか働かない。


選んだ後の未来は分からない。


「あ」


「どうした?」


「前の人、財布探してる」


四人前の女性がバッグを漁り始めた。


健太が隣を見る。


二番レジは順調に進んでいる。


「移る?」


「ダメ」


「なんで」


「三番が一番早いって出た」


健太は言った。


「でも今は二番の方が」


「三番」


「意地になってない?」


真理子は答えなかった。


財布は見つかった。


一人進む。


次の男性が大量の割引券を出した。


真理子の眉が寄る。


「……想定内」


「能力って想定とかあるの?」


「ない」


二番レジはさらに進んだ。


「移ろうよ」


「嫌」


「なんでそこまで」


「私が三番って言ったから」


「能力じゃなくてプライドになってるじゃん」


真理子はかごの中のネギを見つめた。


その通りだった。


だが今さら移れない。


夫婦生活七年。健太には何度もこの能力を見せてきた。


毎回、真理子の選んだ列が勝った。


ここで負けるわけにはいかない。


何に対してなのかは、自分でも分からない。


さらに一人進む。


すると突然、二番レジの店員が手を挙げた。


「申し訳ございません。レジ点検のため、こちら一時休止いたします」


真理子はゆっくり健太を見た。


健太も真理子を見る。


「ほら」


「すご」


真理子は勝ち誇った。


ところが三秒後、三番レジの前にいた老人が振り返った。


「あんたたち、これ少ないから先行きな」


老人のかごには山ほど商品が入っている。


真理子たちは牛乳、卵、ネギだけだった。


「え、でも」


「いいからいいから」


譲られた。


会計は一分もかからなかった。


店を出て、健太が袋を持ち直す。


「これって能力で最速だったの?」


真理子は黙った。


「おじいさんが譲ってくれるところまで含めて?」


「……たぶん」


「なんかズルくない?」


「何が」


「能力っていうか、人の親切じゃん」


真理子は少し考えた。


「結果として最速だったからいいの」


「能力の判定基準が雑だな」


翌週。


二人はまた同じスーパーへ行った。


レジ前で真理子が立ち止まる。


「どこ?」


健太が聞く。


真理子は列を見渡した。


左から一番目。


そう分かっていた。


でも、その列には先週の老人がいた。


老人のかごには今日も大量の商品が積まれている。


目が合う。


「あ」


老人が笑った。


「今日は先にはやらんぞ」


真理子も笑った。


「大丈夫です」


そして、あえて二番レジへ並んだ。


健太が驚く。


「そこ?」


「今日は急いでないし」


「能力は?」


「使った」


健太が尋ねた。


「じゃあ一番早いのどこ?」


「教えない」


結果、二番レジはかなり遅かった。


健太は何度も時計を見た。


真理子は少し後悔した。


能力があっても、使わない自由はある。


ただし、使わないと普通に待たされる。


それだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。