↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬほどしょうもない特殊能力  作者: 雨宮 弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/24

第2話「猫から何点と思われているか分かる男」

佐久間には、猫からの評価らしき数字が見える。


猫と目が合った瞬間、頭の中に1つの数字が浮かぶ。猫が別の人を見ているときには、その相手への数字も分かる。


何を基準にした数字なのか。上限がいくつなのか。それは本人にも分からない。


理由も、感情も読めない。


ただ、数字だけが分かる。


朝、アパートの階段下にいる三毛猫と目が合った。


――42点。


「上がったな」


佐久間は足を止めた。


昨日は38点だった。


三毛猫は欠伸をして、顔を背けた。


「4点も上がってるぞ」


もちろん返事はない。


会社へ行く途中、駐車場の黒猫がいた。


――11点。


「お前は厳しいな」


黒猫は車の下へ消えた。


佐久間は別に猫好きではなかった。


むしろ29歳になるまで、猫とはほとんど縁がなかった。


ただ、この能力に気づいてから、街中の猫を見るたび評価を確認する癖がついた。


そして最近、1匹だけ気になる猫がいる。


恋人の美咲が飼っている、白い雄猫のモチだ。


初対面の評価は、7点だった。


「低すぎない?」


思わず口にすると、美咲はモチを抱きながら笑った。


「何が?」


「いや……なんでもない」


それから3か月。


おやつを買った。


猫じゃらしも買った。


急に触らない。目を合わせすぎない。猫の方から来るまで待つ。


ネットで調べたことはだいたい試した。


現在、モチからの評価は――28点。


「遅い」


「何が?」


「いや」


美咲の家で、佐久間は床に座っていた。


モチはソファの端から彼を見ている。


――28点。


昨日と同じ。


「今日、お父さん来るからね」


美咲がキッチンから言った。


佐久間の背中が伸びる。


「今日だったっけ」


「言ったよ」


「聞いてる。確認しただけ」


美咲の父親とは初対面だった。


付き合って1年。結婚を具体的に口にしたことはないが、互いにその先をぼんやり意識している。


だからこそ緊張する。


なのに佐久間は、父親よりモチの28点の方が気になっていた。


インターホンが鳴った。


「来た」


美咲が玄関へ向かう。


モチもするりとソファから降りた。


佐久間はシャツの裾を整える。


玄関から低い声が聞こえた。


「お邪魔します」


現れた父親は、思っていたよりずっと無口だった。


「佐久間です。本日は」


「どうも」


会話が終わった。


美咲が眉を下げる。


「お父さん、もうちょっとなんかあるでしょ」


「まだ何も聞かれてない」


「そういう問題?」


テーブルを囲んでも、父親はほとんど話さなかった。


仕事は何をしているのか。


住まいはどこか。


酒は飲むのか。


短い質問がぽつぽつ続く。


佐久間は背筋を伸ばしたまま答えた。


その間、モチは父親の横に座っていた。


目が合う。


――96点。


佐久間は箸を止めた。


「……96」


「ん?」


父親が顔を上げた。


「いえ」


強い。


圧倒的だった。


モチは父親の足に身体をこすりつけている。


佐久間は28点。


父親は96点。


何が違う。


「お父さん、モチに好かれてるよね」


美咲が言った。


「別に何もしてない」


「昔から猫には好かれるんだよね」


佐久間は黙って父親を見る。


何もしていない。


その言葉が重かった。


帰り際、父親が玄関で靴を履いていると、モチが足元までついてきた。


「じゃあな」


父親は1度だけ頭を撫でた。


モチは目を細めた。


――98点。


「上がった……」


「佐久間くん?」


「なんでもないです」


父親が帰ったあと、佐久間はソファに沈んだ。


「疲れた?」


「ちょっと」


「お父さん、あれでも気に入ってたよ」


「分かるの?」


「帰る時、『ちゃんとしてるな』って言ってた」


佐久間の肩から力が抜ける。


「そっか」


その時だった。


膝に重みが乗った。


見ると、モチが乗っている。


佐久間は動けなくなった。


「美咲」


「なに」


「モチが」


「乗ってるね」


佐久間は言った。


「どうしたらいい」


「そのままでいれば?」


モチと目が合った。


――31点。


3点上がっていた。


佐久間の口元が緩む。


「……3点」


「さっきから何の点数?」


「秘密」


モチは1分ほど膝の上にいたあと、何事もなかったように降りていった。


翌朝。


いつもの三毛猫と目が合った。


――39点。


「下がってる」


佐久間は少しだけ落ち込んだ。


人間からどう思われているかは分からない。


猫の点数だけは分かる。


そしてたぶん、分かったところで人生にはほとんど何の影響もない。


それでも佐久間は、今日も道端の猫と目を合わせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。