第21話「カラオケで次にマイクがハウリングする瞬間が分かる女」
「来る」
美咲が言った。
友人の亜希がマイクを持ったまま振り返る。
「何が?」
「それ、スピーカーに近づけないで」
「え?」
キィィン。
甲高い音が部屋に響いた。
全員が耳を塞ぐ。
「遅かった!」
亜希が叫ぶ。
美咲には、カラオケのマイクがハウリングする約二秒前だけ、それが分かる。
ライブ会場では分からない。
会議室のマイクでも分からない。
カラオケボックス限定だった。
「なんでそんな限定的なの?」
「私が聞きたい」
大学時代から、この能力は飲み会の二次会でだけ重宝された。
社会人四年目になっても変わらない。
その日は部署の歓迎会だった。
新人の小田が緊張しながら歌っている。
部長はタンバリンを叩き、課長はすでに二曲予約していた。
美咲は端の席で烏龍茶を飲む。
小田がマイクを持ったままスピーカーの近くへ移動する。
来る。
「小田くん、ちょっと右」
「え?」
美咲が手を伸ばして位置を変える。
何も起こらない。
「何ですか?」
「いや、なんでもない」
小田は歌い続ける。
隣の亜希が小声で言う。
「初めて能力が人を救ったね」
「耳を守っただけだけど」
歓迎会の終盤、小田が美咲のところへ来た。
「さっき、ありがとうございました」
「分かった?」
「はい。マイクのやつですよね」
「まあ」
小田は言った。
「僕、音響苦手で」
「音響の問題じゃないと思う」
小田は笑った。
「でも助かりました」
少し間が空く。
「美咲さん、次、何か歌いません?」
「私、歌わないよ」
「そうなんですか」
「ハウリング分かるだけで、歌は下手だから」
小田は言った。
「能力って歌唱力には関係ないんですね」
「当然でしょ」
結局、二人でデュエットを入れられた。
前奏が流れる。
美咲はマイクを持つ。
小田が笑う。
「大丈夫です。ハウリングしたら教えてください」
「そこだけは任せて」
一曲目。
ハウリングは一度も起きなかった。
代わりに、美咲は最初から最後まで音程を外した。
曲が終わる。
小田は拍手した。
「……ハウリングより怖かったです」
「正直すぎない?」
亜希がソファで笑い転げていた。




