第20話「閉まる直前の自動ドアだけ分かる男」
「止まれ」
健人が急に言った。
隣を歩いていた同僚の麻生が足を止める。
その一秒後。
目の前の自動ドアが閉まった。
麻生が健人を見る。
「……何?」
「閉まると思った」
「見たら分かるでしょ」
「いや、閉まる直前だけ分かる」
麻生が尋ねた。
「何秒前?」
「一秒くらい」
「短っ」
健人には、自動ドアが閉まり始める直前だけ、それが分かる。
すべての自動ドアではない。
自分が今から通ろうとしているものだけ。
コンビニ。
スーパー。
病院。
駅ビル。
マンションのエントランス。
閉まる直前になると、頭の中に小さな違和感が走る。
それだけだ。
「それ、役に立つ?」
麻生が聞く。
「挟まれない」
「普通の人もだいたい挟まれないよ」
その通りだった。
健人自身、三十年間で自動ドアに挟まれたことはない。
能力のおかげなのか、普通に歩いているからなのかは分からない。
ある日の昼休み。
健人と麻生はコンビニへ向かっていた。
入口の前に、小さな女の子と母親がいる。
女の子が先に走り出した。
その瞬間。
来た。
健人は反射的に手を伸ばす。
「待って」
女の子の肩を軽く止めた。
すぐに自動ドアが閉まり始める。
女の子は驚いた顔をした。
母親が慌てて駆け寄る。
「すみません」
「いえ」
センサーの反応が少し遅かったらしい。
ドアはすぐにまた開いた。
麻生が言う。
「今のは役に立ったな」
健人も少し得意になった。
「だろ」
その日の夕方。
会社を出ると、雨が降っていた。
健人はビルの自動ドアの前で立ち止まる。
来る。
一秒後、閉まる。
「よし」
タイミングを見て出ようとした。
だが、後ろから誰かが近づいてきた。
ドアがまた開く。
健人は止まる。
また閉まりそうになる。
来た。
一歩出ようとする。
今度は外から人が入ってきた。
また開く。
「何してるんですか?」
後ろにいた後輩が聞く。
「タイミング見てる」
「普通に出ればよくないですか?」
健人は黙った。
能力を意識しすぎて、逆に出られなくなっている。
三回目。
今度こそ。
来た。
健人は小走りで外へ出た。
雨に濡れた。
傘を開くのが遅れた。
後輩が続いて出てくる。
「能力、役に立ってます?」
健人は傘を差しながら答えた。
「今日は微妙」
週末。
健人は恋人の紗英とショッピングモールにいた。
店を出るたび、健人は一瞬だけ自動ドアを見る。
紗英が気づく。
「さっきから何見てるの?」
「閉まるタイミング」
「なんで?」
健人は能力のことを説明した。
紗英は少し考えてから笑った。
「健人らしい」
「何が」
「どうでもいいところだけ慎重」
「褒めてる?」
「たぶん」
次の店で買い物を済ませ、二人は出口の自動ドアへ向かった。
来た。
閉まる。
健人はいつものように少しだけ足を速めた。
紗英は急がなかった。
健人だけ先に外へ出る。
ドアが閉まる。
ガラス越しに紗英と目が合った。
紗英が笑っている。
健人も笑った。
すぐにドアがまた開く。
「置いていった」
「いや、閉まるから」
「待てばいいじゃん」
「……確かに」
健人はそこで初めて気づいた。
閉まりそうなら、別に急いで通らなくてもいい。
また開く。
それだけのことだった。




