第19話「唐揚げの中で一番最後まで熱い一個が分かる女」
「それ、最後に食べて」
弁当のふたを開けた瞬間、莉子が言った。
弟の航平が箸を止める。
「どれ?」
「右上の唐揚げ」
「なんで?」
「一番最後まで熱い」
「またそれ?」
莉子には、同じ皿にある唐揚げの中で、どれが一番長く熱さを保つかが分かる。
揚げたてでなくてもいい。
弁当でも惣菜でも分かる。
ただし何度なのかは分からないし、味も分からない。
唐揚げだけである。
「姉ちゃん、その能力、居酒屋でしか活躍しないよな」
「弁当でも活躍してるじゃん」
「今、何が助かった?」
莉子は答えなかった。
日曜日、家族で祖母の家へ集まった。
叔父夫婦、いとこたちも来て、テーブルには大皿料理が並ぶ。
中央には祖母特製の唐揚げ。
「莉子ちゃん、今日はどれ?」
叔母が笑いながら聞く。
能力は親戚中に知られていた。
莉子は皿を見る。
左奥。
「これ」
「じゃあおばあちゃんに残しとこう」
叔母がその一個を皿の端へ寄せる。
莉子は少し驚いた。
「おばあちゃん、最後に食べるから」
祖母は台所から戻ってきて言った。
「そんな気ぃ使わんでええのに」
「でも熱い方がおいしいでしょ」
莉子が言うと、祖母は笑った。
「莉子のそれ、初めて役に立ったな」
「初めてって何」
食事が始まり、話が弾む。
祖母はずっと配膳をしたり、お茶を足したりしている。
一番熱い唐揚げも少しずつ冷めていく。
莉子は残しておいた一個に、指先でそっと触れた。
熱々ではないが、まだ温かい。
ようやく祖母が座った。
「いただきます」
残しておいた唐揚げを口にする。
「うん。まだぬくい」
それだけで、莉子は少しうれしかった。
帰り道、航平が言う。
「姉ちゃん」
「何」
「今日のはちょっと良かったな」
「能力が?」
航平は言った。
「いや、ばあちゃんに残したのが」
「それ、能力なくてもできるけどね」
二人で黙る。
「言うなよ」
「そっちが言ったんじゃん」
コンビニに寄ると、レジ横には一個ずつカップに入った唐揚げが並んでいた。
航平が聞く。
「どれが一番熱い?」
莉子はケースを見る。
「それは分からない」
「なんで?」
「同じ皿じゃないから」
航平は天井を見た。
「制限、細かすぎるだろ」




