↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬほどしょうもない特殊能力  作者: 雨宮 弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/24

第18話「コーヒーが一番おいしい温度になった瞬間が分かる男」

「まだ」


森田はカップを持ち上げ、また置いた。


後輩の井上が向かいから見る。


「飲まないんですか?」


「まだ早い」


「もう五分経ってますよ」


「あと少し」


三十秒ほどして、森田は目を細めた。


「今」


一口飲む。


満足そうに息を吐く。


井上は呆れた顔をした。


「温度計入れたらいいんじゃないですか」


「そういうことじゃない」


森田には、コーヒーが自分にとって一番おいしい温度になった瞬間が分かる。


豆の種類は関係ない。


インスタントでも缶コーヒーでも分かる。


ただし味そのものが良くなるわけではない。


まずいコーヒーは、最適温度でもまずい。


営業部では、森田がコーヒーにうるさい人間だと思われていた。


実際は豆の違いもあまり分からない。


「先輩、これブラジルですか?」


「知らん」


「さっき偉そうに『今だ』って言ってたのに」


「温度しか分からない」


ある日、部長が新しいコーヒーメーカーを買った。


「これで午後の生産性が上がるぞ」


誰も本気では受け取らなかった。


最初の一杯を森田に渡す。


「判定してくれ」


「何をですか」


「うまいか」


「分かりませんよ」


部長は言った。


「コーヒーに詳しいだろ」


「温度にだけ詳しいんです」


部長は理解できない顔をした。


結局、森田は飲んだ。


熱い。


待つ。


まだ。


待つ。


「今」


飲む。


全員が見る。


森田はゆっくりカップを置いた。


「薄いです」


「温度じゃないのかよ」


部長が言った。


金曜の夜、森田は久しぶりに父親の家へ寄った。


一人暮らしになった父は、古いドリッパーでコーヒーを淹れた。


「相変わらずブラックか」


「うん」


二人でテーブルにつく。


父は先に飲む。


「あつ」


「まだ早いよ」


「お前は昔から猫舌だな」


「そういうんじゃない」


少し待つ。


森田には分かった。


今だ。


けれど父は、窓の外を見ながら話し始めた。


母が使っていた植木鉢のこと。


近所のスーパーが閉店したこと。


どうでもいい話が続く。


森田はカップに手を伸ばさなかった。


数分後、コーヒーは最適温度を過ぎた。


能力が静かになる。


父が言う。


「冷めるぞ」


「いいよ」


森田は飲んだ。


少しぬるかった。


でも、その日はそれでよかった。


帰宅して、インスタントコーヒーを淹れる。


しばらくして能力が知らせる。


「今」


一人の部屋でつぶやいて、森田は笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。